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天文雑誌『星ナビ』連載中「新天体発見情報」

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121(2015年2〜4月)

2015年9月5日発売「星ナビ」2015年10月号に掲載

超新星 in PGC 32373(PSN J10491665-1938253)

先月号に紹介したさそり座新星といて座新星の発見後、雲の多い日が続きました。天候は2月20日頃にいったん回復しました。その夜(2月21日)のことです。02時41分に山形の板垣公一氏から発見報告が書かれた1通のメイルが届いていることに気づきます。『あれ…。いつものように電話で連絡がない。おかしいな……』、『まぁ、いいか』と思いながら、それを読みました。そこには「うみへび座にあるPGC 32373に超新星状天体(PSN)を見つけました。山形が久しぶりに晴れましたので、山形にある50cm f/6望遠鏡による発見です。発見時刻は2月21日00時03分、出現光度は16.8等です。PSNは、銀河核から西に1.3′、南に12.0′離れた位置に出現しています。最近の画像がありませんが、発見後の60分の追跡で移動はありません。なお、発見画像の極限等級は19.0等です」という報告がありました。発見画像を見ると、超新星は小さな楕円銀河の南側に可愛く輝いていました。氏の発見は、03時12分に中央局(CBAT)のダン(グリーン)に報告しました。そのあと携帯を見ると、02時47分に板垣氏より電話があったようです。『な〜んだ。呼び鈴が聞こえなかったのか』と思いながら、そのままにしました。板垣氏からは04時52分に「拝見しました。先ほど、メイルを送り終えたらダウンしました。今、あわてて起きました。まもなく夜明けです。もう少し探します。ありがとうございました」というメイルが届きました。

板垣氏の報告後、天候はまた崩れてしまい、2月21日夕方から2月22日夜までは雨が降っていました。この超新星は超新星符号が振られませんでした。しかしAtel 7143によると、2月25日にリック天文台の3.0m望遠鏡でスペクトル観測が行われ、爆発直後の若いIIP型の超新星であることが確認されています。なお、2月24日にはKAIT超新星サーベイでも、独立発見されていたようです。

SWAN彗星(2015 C2)

ところで、今年はSOHO衛星に搭載されているSWANカメラで撮影された画像上にC/2015 C2、2015 F3、2015 F5、そして、つい最近発見されたC/2015 P3と多くのSWAN彗星が発見されています。これ以前にSWANカメラで撮影された画像上に発見された最後のSWAN彗星はC/2012 E2でした。従って、SWAN彗星の発見は約3年ぶりとなります。その出だしとなる最初の発見がC/2015 C2の発見です。その発見初期の観測が東京の佐藤英貴氏より2月26日20時03分に届きます。そこには、2015年2月26日18時半頃に行われた2個の観測がありました。観測につけられたコメントには「サイディング・スプリングにある51cm望遠鏡でこの彗星を観測しました。彗星には強く集光した35″のコマと東南東に5′ほどの尾があるようです。光度は12.0等でした」とありました。その直後の20時09分に氏から「ご無沙汰しております。最近は、暗い彗星の発見が続いていましたが、ようやく明るい彗星が発見されました。マトソン氏がSWAN画像から見つけた彗星で、薄明の中に捉えました。しかし、観測条件が厳しそうです。今後、彗星は北上しますが、北半球から観測できるころにはだいぶ暗くなってしまいそうです」というメイルも届きます。氏のメイルから1日が経過し、その後に報告された観測と氏の観測を含め、その暫定軌道を計算して『SWAN画像上に13等級の新彗星が発見され、各地で追跡されています。東京の佐藤英貴氏は、2月26日にそのCCD光度を12.0等と観測しました。同じ日、マチアゾはその眼視全光度を11.5等と観測しています。近日点通過は3月上旬頃ですが、太陽の向こう側を動いており、観測条件は良くありません。なお彗星は、夕方の低空を移動しています。近くにC/2015 D1もいるはずです」というコメントをつけ、軌道と位置予報をともに2月27日16時28分にOAA/CSのEMESでこの情報を送り、観測を依頼しました。EMESを送付したあと、16時45分に佐藤氏に『観測と画像をありがとうございました。SWANカメラで捉えられた彗星にしてはずいぶん集光している彗星ですね。軌道も解が容易でした。EMESに入れたとおり、近日点距離がq=0.7auくらいなのに観測条件が良くないのは残念ですね』というお礼を送っておきました。

佐藤氏のメイルにもあるとおり、この彗星は、カリフォルニアのマトソン氏によってSOHO衛星のSWANカメラで撮られた2015年2月15日から22日の画像上にちょうこくしつ座を動く13等級の天体として発見されたものです。求まった概略軌道から、氏はこの天体の追跡を何人かの観測者に依頼しました。なお、この天体は他の観測者によってもSWAN画像上に見つけられていたことが伝えられています。さらにオーストラリアのマチアゾは、2月22日までの1週間で天体は急速に明るくなっていることを報告しています。夕方の低空を動くこの彗星は、2月25日、オーストラリアのラブジョイによって36cmシュミット・カセグレインで捉えられます。氏の観測では、短く太い尾と2′のコマがありました。光度は11等級でした。同じ日、マチアゾも200mm f/2.8レンズでこの彗星を捉え、その光度は11等級、集光のある1.5′のコマが見られることを報告しています。そして、佐藤氏が観測を行ったことになります。なお、3月に入り、スペインのゴンザレスは9日にこの彗星を眼視で捉え、その全光度を9.2等、視直径を3′、核光度を12.0等と観測しました。また、米国のキングも3月15日に9.4等と観測しています。その後のCCD全光度も、3月14日に上尾の門田健一氏が10.9等、大泉の小林隆男氏が約10.5等、19日に芸西の関勉氏が11.5等と観測しています。明るい彗星でしたが、6月下旬には17等級まで減光したようです。

へびつかい座新星2015

3月中旬以降は晴れた日が続き、暖かい毎日でした。その暖かさのせいか桜も各地で咲き始め、早いところではこの時期には満開になっていました。特に月末には快晴の空が続きます。その快晴が続いていた3月30日08時25分に水戸の櫻井幸夫氏から「ノイズでしたらお許しください」というサブジェクトがついた1通のメイルが届きます。そこには「2015年3月30日03時22分に180mm f/2.8レンズを装着したNikon D7100デジタル・カメラでへびつかい座を撮影した、極限等級が12.5等級の2枚の捜索画像上に12.2等の新星状天体(PN)を発見しました。この星は、3月29日朝に撮影した捜索画像上にはまだ写っていません」という発見報告がありました。櫻井氏には、09時28分にその確認のために『捜索、ご苦労様です。今日の夕方まで、もう少しですので晴れているところに確認をお願いできますか。極限等級が12等級で12.2等にしては、良く写っていますね。もう少し明るいか、極限等級がもっと深いのではありませんか』というメイルを送りました。ところで、このお願いの中で『今日の夕方までもう少し』と書いたのは、発見が夕方であったものと私が勘違いしてしまったためです。恐らく櫻井氏は何のことだかわからなかったことでしょう。その直後の09時32分に櫻井氏から携帯に電話があります。しかし、携帯がどこにあるか探しているうちに切れてしまいました。

その日(3月30日)の夕方になって、山形の板垣公一氏と香取の野口敏秀氏に『各地が快晴ですので、そちらも晴れているものと思います。出現位置を撮っていただけますか。星があれば、すぐTOCP(未確認天体確認ページ)に入れたいと思います』という観測依頼を送っておきました。17時50分には、櫻井氏より「TOCPに他の方の発見報告がないということは、やはりノイズなのかもしれません。明朝、改めて確認写真を撮ってみたいと思います。なお、撮影時刻は世界時ですよ。(『あちゃ、怒られた……』)極限等級は、写野内の星で確認できる最微等級が12.5等だったので、これをもとに推測しました。2月12/13日と連続で新星の発見がありましたが、運悪く両日とも当地は曇天でした。前回の発見からほぼ3年になりますが、なかなか幸運の女神は微笑んでくれません」という返答が届きます。

その2分後の17時52分には、板垣氏より「参考までに」という3月29日に出現位置を撮影した画像が届きます。『さすが……、撮っているんだ』と思いながら、画像をながめると○をつけられた出現位置に何かあるような気もします。17時56分に氏に電話を入れて『この画像は……』とたずねると「写ってないです。ただ小さいのがあるような気もします」とのことでした。『櫻井氏の発見画像上の発見位置には明らかに星があります。板垣氏の画像上にないのなら出現は確かなんだろう……』と考え、この発見をダンに送付しました。18時08分のことです。このときには、私の方でも櫻井氏の発見画像から新星の出現位置の測定も終わり、その精測位置と光度(12.3等)も櫻井氏の発見報告とともに送付しました。同時に櫻井氏の画像のアドレスもTOCPに掲載しました。その直後の18時12分に板垣氏から「小惑星を調べたら小さいのは小惑星でした。日付が発見1日前ですので……」という電話もありました。21時06分には野口氏より「了解しました。香取は晴れています」と連絡があります。『これで今夜中にけりがつく』と安心しました。すると、21時11分には群馬の小嶋正氏から「櫻井氏発見のPNについて、150mmレンズで3月29日に撮影した画像上にはこの新星は見られません。しかし3月30日03時44分頃に撮影した画像には12.5等で写っていました」という報告が届きます。『安心した。でも、日本国中晴れているからやっぱりみんなやっているんだ。すごいなぁ……』と思いながら氏のメイルを見ました。

その夜がふけて、23時41分に櫻井氏から電話があります。『携帯が……、どこかで鳴っている』と探し当てて出ようとすると、再び切れてしまいました。その夜(3月31日)00時52分には、香取の野口敏秀氏からも「3月31日00時20分に23cm望遠鏡+CCDで撮影した画像上にこの新星の出現を確認しました。光度は12.7等でした」という報告が届きます。そこで小嶋氏と野口氏の観測を01時39分にダンに送付しました。

夜が明けた3月31日06時11分には、小嶋氏から「今朝、03時30分には11.9等でした。昨日より増光しています」と連絡があります。06時16分には櫻井氏より「CBATへの報告していただきお世話になりました。ノイズだと思っていたのですが、中野さんがTOCPに記載してくれたおかげで2名の方々に確認観測をしていただくことができました。本当にありがとうございました。今朝、20cm反射で確認写真を撮りましたので添付いたします」というメイルも届きます。櫻井氏が確認のために3月30日03時頃に撮影した画像を見ると、PNは、はっきりとした星として写っていました。その日の夕方17時12分になって、小嶋氏の観測をダンに送っておきました。18時18分に板垣氏から届いたメイルによると、氏が21cm望遠鏡で3月28日に撮影していた捜索画像上に、この新星が14.1等で写っていることが報告されていました。

この新星は、4月2日13時40分に到着のCBET 4086に早々と公表されます。そこには、発見後、日本や世界の多くの観測者によって11等級で観測されたことが報告されていました。また3月31日には、倉敷の藤井貢氏や美星天文台の綾仁一哉氏がスペクトル確認を行い、新星の出現であることを確認したことが紹介されていました。私も、櫻井氏の新星発見を告げる新天体発見情報No.222を発行し、報道各社にこの発見を連絡しました。18時24分のことです。

すると、18時33分に櫻井氏から電話があります。当然、9分前に送った新天体発見情報を受け取ったものとして、話を始めました。ところが……です。櫻井氏は「最近、メイルを送っても返事がないし、携帯にかけても出てくれないし、怒っているものと思っていました」と話します。私はこれまでの恨みを晴らさんとばかりに『若い人のように携帯を持ち歩く習慣がないんですよ。ベルが鳴ってから携帯を探していると切れちゃうんです。いつも5回しか鳴らさないでしょう。ベルはもう少し長く鳴らしてください』と、少し怒り気味に話しました。そして『メイルもないとはどういうことです。今、発見情報を送ったのですが、着いていないのですか』とたずねると「はい。何も……」と話します。また、声を少し荒げて『そんな馬鹿な。送っているメイルアドレスは……ですが、これではないのですか』とたずねると「それは使っていません」と答えます。私は『メイルが届かないのは、これまで、ず〜とそこに送っていたからです。みんなもそうです。一度、前のアドレスを見てください。いっぱいメイルがあるはずです』と答えました。会話が終了して、氏が新しく使っているというアドレスにも、18時43分に新天体発見情報を送っておきました。その夜の22時14分になって櫻井氏から「新天体発見情報No.222とCBAT 4086をお送りいただきましてありがとうございました。先ほども電話でお伝えしましたように、とんでもない勘違いをいたしておりました。メイルの旧アドレスを開いてびっくりしました。確かに中野さんをはじめ、数名の方からのメイルが送られてきていました。アドレスを変更したのに通知しなかった私が一方的に悪いのは明らかです。申し訳ありませんでした。改めまして、今後はこのアドレスに修正いただきたく存じます。よろしくお願いいたします。遅ればせながら、お問い合わせがあった私が発見したNovaリストの件ですが、以下の2個分が抜けています。これで今回の発見を加えて12個の新星を発見したことになります。このことは、毎回CBATの“List of Novae in the Milky Way”を見るたびに気にはなっていました。勝手なお願いで恐縮ですが、もし可能ならこのリストを修正いただければ幸いです」というメイルが届きます。

さて、3月下旬には各地で満開となった桜ですが、4月に入ったこの頃、ここサントピアマリーナの桜もやっと満開になりました。ここは、潮流の関係で海の向こうの各地より桜の開花時期が約1週間ほど遅くなります。その分、対岸の都市部、大阪や神戸よりは気温が2〜3℃ほど低いことになります。なお、OAACSのウェッブサイトに入れた櫻井氏の発見画像へのアクセスは、3月30日18時02分から4月6日16時06分の間に344件でした。『みなさん。熱心だなぁ……』というのが率直な感想でしょうか。

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