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天文雑誌 星ナビ 連載中 「新天体発見情報」 中野主一

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088(2011年12月)

ラブジョイ彗星(2011 W3)

先月号で紹介したスペースウォッチ彗星(2010 UH55)について、2011年12月2日10時12分に東京の佐藤英貴氏より「ようやく昨日、P/2010 UH55が公表されました。グリーン氏にメイルを送っていただき、ありがとうございました。C/2009 UG89のときもそうでしたが、このような暗い小惑星を彗星とするには大口径での、もしくは、プロによる観測が必須だったのでしょうね。ただ、P/2010 WKのときは一目瞭然だったせいもあり、あっさりと公表されましたけど……。この彗星を最初に観測したのは2010年11月ですから、1年以上も追い続けました。昨年は、イタリーのフォリア氏らにお願いして、サイディング・スプリングの2.0mフォークス望遠鏡で観測してもらいました。恒星状でがっかりしたことを思い出しました。また、2011 UF305は、スパール氏によると1.8mスペースウォッチII望遠鏡の初期観測では彗星状ではなかったようです。ウェストフィールドのAROの望遠鏡で長時間露光を行った際には尾も写ったようですが、私の画像では尾は明らかでありませんでした。ただ、この天体は、他の観測者によっても彗星形状が確認されたので、近々公表されると思います。

ところで、最近、南天で発見された未確認天体のウェッブページ(NEOCP)にあるTLc001 (ラブジョイ氏発見でしょうか)は、簡易計算では、太陽にまっすぐ突っ込んでいくような軌道を持っています。数日後には、観測不能になりそうだったので、すぐ観測を行おうとしました。しかし、リモート観測所の機材の調子が悪いのか、観測できませんでした。CCDによる位置観測がマウント・ジョンでの一夜の観測しかなさそうなので、何とか今晩観測を試みます。最後に、最近彗星と判明した番号登録小惑星(300163) 2006 VW139と、明け方で急増光した246P、一昨日21.6等の暗さで再観測できた逆行軌道小惑星2011 WS41などの画像を添付させていただきました。国内の観測が望めないような天体、興味深い形状の天体など、またご高閲願えましたら幸いです」というメイルが届きます。

佐藤氏がわざわざ画像を送ってくれたのは、11月29日に氏に『画像を多数お送りいただきありがとうございました。位置観測者の方々からは、めったに画像をいただきません。そのため、光度が明るくとも、彗星がどのような形状をしているのかは、よくわかりません。これらは、大変参考になります。でも、よく写っていますね。バックが抜けているのは、空が良いのでしょう。うらやましい限りです。私も、彗星の観測を再開したいのですが、望遠鏡を固定していないため、あの持ち運びの労力を考えると、再開する気が起こりません。もう歳です。2010 UH55と2011 UF305は、今回のCOMETARY ORBITSに入れておきました。よろしかったでしょうか。なお、12月から勤務先が変わるとのことですが、それは残念ですね(観測回数が減るかもしれないという意味で……)。でも、勤務時間にこんなに観測をやっていて、いいものだろうかとも、ときどき考えていました……。今後も、頑張ってください』というメイルを送ってあったからです。

サングレーザ(クロイツ群)の発見

さて、佐藤氏のメイルにあったNEOCPにあるまっすぐ太陽に直進する天体TLc001は、12月3日05時13分に到着のCBET 2930でラブジョイ彗星(2011 W3)として公表されます。そこには「オーストラリアのラブジョイは、11月27日に20cm f/2.1シュミット・カセグレン望遠鏡でケンタウルス座を撮影した捜索画像上に13等級の彗星を発見し、11月29日にこれを確認した。発見当時、彗星には、16等の中央集光と拡散した約60"の円形のコマが見られた。発見者は、12月1日にもこの彗星をとらえ、彗星が発見当時より1等級ほど増光し、その形状も、よく集光した70"ほどのコマを持つ彗星に成長していた。マウント・ジョンのギルモア夫妻は、1.0m望遠鏡で12月1日にこの彗星を観測し、彗星には、よく集光した約60"のコマが見られることを報告している。米国のホームズらが41cm反射で12月2日に行った観測では、彗星には14"のコマと北西に広がった51"の尾が見られた。同日、米国のリスターがサイディング・スプリングの2.0mフォークス望遠鏡で行った観測でも、中央集光のある13"のコマが見られている。これらの観測からの軌道決定の結果、この彗星は、クロイツ群に属する彗星の1つで、12月16日に近日点を通過することが判明した」と公表されていました。

そこで、私の方でも新たに軌道を計算し、06時47分にその位置予報とともに『すでにCBET 2930で報じられているとおり、オーストラリアのラブジョイは、11月27日と29日に20cm望遠鏡でケンタウルス座を撮影した3枚の捜索画像上に13等級の新彗星を発見しました。発見当時、彗星には拡散した約1'のコマが見られました。(途中略)軌道計算の結果、この彗星は、クロイツ群に属する彗星の1つで、その標準等級はH8=14.0「G」と小さいものの、その近日点通過時(12月16日09時JST)には−4等級、あるいは、H10=14.5「N」では、−8等級まで明るくなるでしょう。しかし、小さな彗星のため、近日点付近で蒸発、消滅するかもしれません。たとえ生き残っても、位置予報のとおり、日本では薄明前には観測できません。近日点通過後に観測可能な地域は南半球だけですが、その南半球でも観測条件はあまり良くありません。なお、この彗星の近日点距離(q)は約82.5万km、太陽の半径は約69.6万kmです』というコメントとともにEMESで仲間に送付しました。

すると、東京の蓮尾隆一氏から07時27分に「楽しみですね。LASCOの画像で見えますかね。ただ、池谷・関の彗星はH10=6.5等だったように覚えています。近日点通過後には見えないかもしれませんね。クロイツ群を見たことがないから何とか見たいものです」という便りが届きます。そこで07時46分に『そうだよね……。池谷・関彗星を見ていないと言ってましたね。でも、この彗星は、地上からは見えないと思いますよ。SOHO画像で、どこまで追跡できるか。消滅するのかがわかるのでしょうか。なお、私は、あなたよりちょっと年上だったことが幸いして、池谷・関彗星は見ています。今でもこの彗星は、もっとも大きく綺麗な彗星だったと思っています』と返答しておきました。

CBET 2930の到着から6時間ほどが経過した12月3日11時33分になって、佐藤氏からメイルが届きます。そこには「TLc001(=C/2011 W3)を先ほどの報告のように、今朝観測できました。霧の中、限界光度が2〜3等減じる悪条件下でした。悠長に測光をしていたらCBETの発行に間に合いませんでした。おそらくほぼガスのコマを持つ淡い彗星ですが、全光度は意外と明るく11.0等です。なお、32cm反射での観測では、彗星には北東に広がった120"の拡散したコマがありました」というメイルが届きます。彗星は、意外と明るそうです。

そして、12月5日09時26分に佐藤氏から「本朝、C/2011 W3の再観測に成功しました。今朝は霧がなく、まともな観測になりました。一昨日が霧中観測なので、比較は困難なのですが、少なくとも今朝の像では集光が強く、光度は明るくなっているようです。薄明開始時で高度15゚なので、明日以降の観測は困難になっていきますが、明るい彗星なので、霧がなければまた挑戦してみます」という連絡があります。この頃より、彗星の太陽からの離角は30゚を切り、その観測は次第に困難になりましたが、彗星の位置観測は、マラルケ(アルゼンチン)で行われた12月10日まで報告されました。近日点通過前の彗星の光度は、12月5日に11.2等(マチアゾ;豪)、6日に10.5等、10.3等(佐藤;以下はCCD光度)、7日に9.6等(ノビチョノク;ロシア)、9.4等(佐藤)、10日に7.2等、11日に6.1等(セルニー;チェコ)と観測され、彗星は、12月11日頃には6等級まで増光していました。また、佐藤氏は、12月6日には、100"のコマを観測しています。その後、彗星は12月14日にSOHOカメラの中に入ってきました。その姿は、以前にSOHOカメラがとらえた明るいクロイツ群の彗星に比べるとかなり貧弱な姿でした。

生き残る条件

ところで、クロイツ群が太陽の表面をかすめ、その近日点を通過できるかは、太陽系の共通重心が太陽中心からどれくらい離れているかが大きな要因となります。このことは、『天界』2010年6月号(ページ176〜185)に詳しく書きましたので、それをご覧ください。その要点を紹介すると、太陽の半径は上にあるとおり0.00465au(69.6万km)であるのに対して、クロイツ群の平均の近日点距離は0.00584au(88万km)で、クロイツ群は、太陽の光球面から18万kmほどを通過できるはずです。しかし実際には、SOHO彗星のような小さなサングレーザは、この距離(18万km)に到達する前に蒸発しています。それでは、どうして、いくつかの彗星は、その近日点を通過できるのか。あるいは、太陽表面に衝突する彗星があるのでしょうか。

それには、太陽中心の位置(日心)と太陽系の共通重心の位置関係に大きく依存します。すべての天体は、太陽系の共通重心を中心に運行しています。この共通重心は、常に太陽系の全惑星の引力の影響を受けます。普通は、共通重心は、太陽中心あたりから±0.0055au(±83万km)をぶらぶらしています。しかし、木星と土星が会合すると、その位置は日心より0.0077au(115万km)まで移動します。つまり、このとき、クロイツ群の近日点は、光球面より約133万kmほど離れ、彗星が蒸発しないで、その近日点を通過できる彗星があることになります。実際には、この値(0.0077au)は、他の惑星(特に天王星と海王星)の影響でもっと大きくなります。たとえば、西暦−2900年以降、西暦3000年までの期間では、1306年に0.01035au(155万km)まで、日心と共通重心が離れたことがあります。これは、この6000年間での最大値です。

ところで、木星と土星の会合は約20年に1度の割合で起こります。では、20年に1度は、近日点を無事通過したクロイツ群が見られるのかというとそうではありません。木星と土星の会合が、クロイツ群の近日点方向(π=280゚)付近、つまり、太陽黄経L=280゚付近で起こらなければ、その効果がありません。この近日点黄経付近で、木星と土星が会合するのは約60年に1度となります。つまり、このとき、クロイツ群の彗星が回帰すれば、近日点を通過したクロイツ群が見られることになります。

期待できる2020年の会合

前述のとおり、木星と土星の会合は約20年に1度の割合で起こります。しかし、見事なサングレーザを出現させるための必須条件である黄経280゚付近での会合は約60年に1回です。しかし、条件の良い木星と土星の会合は、60年に1度、必ずあるとは限りません。それは、惑星の摂動で黄経280゚の会合は徐々にずれていくためです。1度、L=280゚付近の会合がずれ始めると、木星と土星の会合は、数百年の間、サングレーザが太陽表面をかすめられるような好条件の位置での会合とはなりません。逆に好条件の回帰の位置での木星と土星の会合が始まると、それは数百年間続くことになります。

現在は、1600年代から続いている好条件の回帰の位置での木星と土星の会合が続き、その終焉近くにあります。従って、1965年に出現した池谷・関彗星のように、次回の木星と土星の会合(L=302゚)では、いくつかのサングレーザが太陽表面をかすめ、見られる可能性があるのです。ただしこれは、今降りそそいでいるSOHO彗星の中に、少し粒の大きなものが混じっていることが条件となります。しかし、10年後には、太陽表面をかすめたサングレーザが見られることに期待できます。これが1600年から続く、好条件の最後の機会となります。もし、1つのサングレーザも回帰しなければ、次回の同様の条件は、2400年まで待たねばなりません。『天界』の原稿を書いたあと、わずか1年半で、サングレーザが出現、発見されたことになります。

ラブジョイ彗星が近日点を無事通過

さて、ラブジョイ彗星が近日点を通過する頃の共通重心の位置は、日心から0.00361au、黄経L=17゚.8の方向にあります。一方、共通重心上の彗星の近日点は、共通重心から0.00661au、黄経L=267゚にあります。従って、彗星は、太陽中心から73.8万km、つまり、光球面からわずかに4.2万kmの位置を通過することになります。出張中の蓮尾氏から12月12日22時29分に「木星との位置関係や逆行であることを考えると、太陽面にぶつかるなら、近日点通過直後ですか」というメイルが届いていましたが、そのとおりです。もっとも光球面に接近するのは、日心軌道の近日点(12月16日00時32分UT)通過後、約20分後の12月16日00時54分頃となります。その後の結果も、随時、蓮尾氏に送っていました。すると氏から12月13日13時00分に「金星を入れると(効果は木星1/10位でしょうから)太陽面にぶつかりませんかね」というメイルも届きます。そこで、13時27分に『共通重心の計算には、全惑星が入っています。JPLが一般に提供している座標系から取ったものです。私の摂動計算も、この座標からのものを使っています。図示してみると、私も、太陽内にちょっと入るかと思ったのですが、重心系では、q=0.0066au(日心系はQ=0.0055au)となります。その分軌道が上に浮いたようです。ただ、彗星の軌道の精度が、まだ不確かかもしれません。なお、これまで彗星が太陽表面をかすめるくらいでも、フレアーが出ていますので、近日点通過後に大きなフレアーが出現すると期待しています』という回答を返しておきました。なお、これまでの無線LANは、時々、不用意に切れるため、フレッツ光マンションタイプを引きました。でも、自宅では、やることがないのです。お金のない私にはもったいない限りです……』という回答を返しておきました。もちろん『こんな近距離を通過する小彗星が生き残れるか』と思っていました。

見事な彗星に成長

ところが12月16日22時47分に、蓮尾氏から「生き残りましたね。SOHO C2カメラの動画を見ると、近日点通過頃に尾が頭部から切り離されたように見えるのが面白いですね。明け方の空に見えるかなぁ……。見えたら、思い残すことが一つ減ります」というメイルが届きます。彗星は、太陽面から約4万km離れた近日点を無事通過し、その後、かなり大きな増光を示したようです。通過後のもっとも明るい時期のSOHOカメラの彗星頭部のサチレーションは、金星のそれより大きく、−6等級くらいまで増光したものと思われます。近日点通過後の彗星は南半球でとらえられ、ブラジルのアモリムは12月17日08時(UT)にその眼視全光度を−2.9等と観測しています。また、日中にも彗星がとらえられています。さらに、大きく増光した彗星の姿が各地でとらえられ始めました。特に、彗星は、南半球でクリスマスから年末・年始にかけて大きく成長し、明るいクロイツ群の彗星として、鋭く輝く核と直線状に細く伸びた尾が見られました。各地で撮影された画像上には、12月21日に13゚、22日に16゚、23日に22゚、24日に28゚、25日に30゚と長い尾が写りました。クリスマスを過ぎると鋭く輝く核と尾は次第に淡くなって減光していきました。しかし、尾は淡くなりながらも、さらに長く伸びていったようです。その後の画像では、尾は、12月26日に38゚、28日に30゚、29日に32゚、30日と31日に30゚くらいの長さで写っています。この後の彗星の動向は、皆さんのよくご存知のとおりです。

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