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天文雑誌 星ナビ 連載中 「新天体発見情報」 中野主一

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076(2010年8〜9月)

超新星2010gz in NGC 599

2010年8月18日深夜、00時22分に広島の坪井正紀氏より携帯に「NGC 599に超新星状天体(PSN)を発見しました」と連絡があります。「事情がちょっと複雑なのですが、報告は送りました」とのことです。メイル・フォルダーを見ると、氏の報告は00時19分に届いていました。そこには「広島在住の坪井正紀です。このたび、超新星捜索中に新しい超新星らしき天体を発見しましたので報告いたします。今朝に撮影した捜索画像に出現していることを本日の日中に発見し、今夜10フレームを撮り、その出現を確認しました。過去画像はないためDSS等での確認になります。この場合の発見日時はどうすれば良いのかわりませんが、一応最初に撮ったフレームにしています。ご確認のほどよろしくお願いいたします。報告内容で不備がありましたら連絡ください」と書かれてありました。『はい。それで正しい処理です。発見はあくまでも、超新星を発見したフレームとなります』と思いながら氏の発見を読みました。

氏の発見報告は「2010年8月17日明け方、03時46分頃に30cm f/5.3反射望遠鏡+CCDを使用して、30秒露光でくじら座にあるNGC 599を撮影した2枚の捜索画像上に16.0等の超新星状天体(PSN)を発見しました。発見の約20時間後の同夜23時38分になって、再びこの銀河を撮影し、10枚の画像上にこの超新星の出現を確認しました。過去にこの銀河を捜索していませんが、DSS(Digital Sky Survey)にある過去の画像には、その姿は見られません。超新星は銀河核から西に40"、北に7"離れた位置に出現しています。なお、発見済の超新星の有無はBright Supernovaのサイトで確認。移動の有無は、2夜の画像上で移動がないことを確認。MPCheckerのサイトで発見位置に小惑星のいないこと。Search VSX HPのサイトで変光星のないこと。その他の現象、デジタルノイズやゴーストではないことを確認しました」と報告されていました。

そこで、まず坪井氏の画像から出現位置と銀河中心位置の測定を行いながら、01時03分に山形の板垣公一氏、上尾の門田健一氏に『この銀河の画像を持っていないか』を問い合わせておきました。また01時39分には、坪井氏に連絡し『確認に使用したDSSの波長域と極限等級がわかれば教えて欲しい』ことを伝えました。氏からは01時50分に「DSSはPOSS2/UKTUのRed・Blue・IRの3画像で確認しました。極限等級は19等級より暗いです」と連絡がありました。この頃には超新星の測定も終了していました。これで発見データがそろったことになります。超新星が銀河核から距離にして41"離れています。『ちょっと離れているのが気がかりだなぁ……』と思いながら、氏の発見を02時10分にダン(グリーン)に報告しました。そこには、氏の測定位置以外に私が測った3個の位置(2夜の出現位置と銀河中心)もつけ加えておきました。私の測光では、超新星の出現光度は15.2等でした。

02時13分には、門田氏より「こちらは曇っています。過去に撮像していないか調べたのですが、画像はありませんでした」という連絡が届きます。また、坪井氏からは「お手数をおかけしました。報告、ありがとうございました」というメイルがあります。その氏のメイルから15分後の02時37分にCBET 2415が届きます。そこには早々と氏の超新星発見が公表されていました。2夜の確認があったこと、中央局がちょうど暇だったのでしょう。このことは、03時04分に坪井氏に連絡しました。氏からは03時14分に「もうCBETが出されたんですね、早いので驚いています。本当にありがとうございました。中野さんがいてくださるので、感謝しております。今後ともよろしくお願いします」というメイルがありました。

業務が一通り終了した05時に新天体発見情報No.166を編集し、05時32分に坪井氏の発見を報道各社に知らせました。それを見た板垣氏から06時31分に「おはようございます。あら……朝起きたら超新星が公表になっていました。びっくりしました。私はこの銀河は捜索していませんでした。坪井さん、おめでとうございます」というメイルが送られていました。この日の朝は、07時20分にオフィスを離れ実家に寄って、08時05分に帰宅しました。快晴の綺麗な空でした。しかし、部屋に戻ると室温が36℃と大変暑い朝でした。その日の夕方18時12分には、大崎の遊佐徹氏より「今回も観測の依頼、及び新天体発見情報をいただき、ありがとうございました。2夜の観測があり、あっという間に公表になりましたね。坪井さん、3個目の超新星発見、おめでとうございます。超新星がさらに増光することを楽しみにしています」というお祝いが発見者に送られていました。

超新星2010he in NGC 1120

この夏(2010年)は、外気温が37℃にも上昇する暑い日が続いていました。坪井氏の発見からちょうど3日が過ぎた8月21日03時24分に携帯が鳴ります。山形の板垣公一氏からです。『また、何か見つけたな……』と思いながら携帯を取ると、氏は「NGC 1120にPSNです」と話します。その氏からの発見報告は、すでに03時20分に届いていました。そこには「2010年8月21日深夜、01時42分に60cm f/5.7 反射望遠鏡+CCDを使用して、くじら座にあるNGC 1120を撮影した捜索画像上に17.6等の超新星状天体を発見しました。この超新星の出現は、その後に撮られた10枚以上の画像上に確認しました。超新星は銀河核から東に97"、南に65"離れた位置に出現しています。この超新星の姿は過去の捜索画像上、およびDSSにも見られません。なお、東の空のため最近の捜索がありませんが、60分間の追跡で移動はありません」と報告されていました。

この超新星も銀河核から117"も離れていました。またまた『ちょっと離れているのが気がかりだなぁ……』と思いながら、氏の発見は03時45分にダンに送付しました。すると板垣氏から03時50分に「拝見しました。ありがとうございます。疲れました。お休みなさい」とメイルが届きます。『早いな。もう寝るのか……』とも思いましたが、山形はここより約1時間早く薄明が始まります。もうすっかり夜が明けているのでしょう。夜が明けた07時42分に大崎の遊佐徹氏から「おはようございます。板垣さんのPSN、メイヒルの望遠鏡でねらってみます。月明かりがなくなり、高度も高くなる日本時間19時頃になるかと思います。明るくなっていることを楽しみにしています」というメイルが届きます。氏のメイルを見て、08時40分にオフィスを離れ、郵便局に寄って帰宅しました。この日も外気温が35℃の暑い朝が続いていました。

その夜(8月21日)オフィスに出向くと、20時41分に遊佐氏の確認観測が中央局に送られていました。氏は「メイヒルの25cm望遠鏡で8月21日18時30分に観測し、その光度を16.8等」と報告していました。その日の明け方、8月22日04時02分には、板垣氏から「03時38分に観測しました。17.6等です。予想に反して同じ明るさでした。Ia型の超新星ではなさそうです。レンズ状の銀河なのに……」という報告が届きます。04時08分、氏に電話を入れ、『報告を受け取りました。遊佐氏の画像では、そばに小さな銀河があるように見えるが……』と伝えておきました。すると氏は「すみません。昨日の発見報告の中で、過去画像の極限等級に大小記号をつけることを忘れていました」と話します。『あぁ、それは理解していました』と答えました。その氏の確認は04時22分にダンに送付しました。そこには『お前はYusaの画像を見たか。私には、PSNの近くに別の小さな銀河があるように見えるが……』とつけ加えておきました。

その日(8月22日)の昼、12時51分到着のCBET 2421で板垣氏の発見が公表されます。しかしダンは「超新星の出現位置が母銀河から少し離れていること」、また「出現位置近くに銀河状の光芒が見られること」を気にしたのか、そのタイトルは『POSSIBLE SUPERNOVA NEAR NGC 1120』となっていました。そのため、正式な登録はスペクトル確認を待つことになりました。これを見た板垣氏からは、その夜19時39分に「こんばんは。中野さま、いつも何かとありがとうございます。遊佐さま、確認観測をありがとうございます。門田さま、胎内ではお世話になりました。ありがとうございます。おかげさまでPSNとして公表されました。銀河から少し離れて出現しています。本物の超新星かどうかですが、分光観測が楽しみです」というメイルがあります。また、遊佐氏からは19時53分に「今日板垣さんのPSNが公表されましたね。相次ぐ快挙、快進撃、心よりお祝い申しあげます。測定したとき、確かにPSNのそばに淡い光芒があったのは気づいたのですが、私は(こんなところにいやなノイズだな)ぐらいにしか考えませんでした。今回はDSSを参照していませんでしたが、今朝の中野さんのカーボンコピー(CC)を拝見してからDSS(Red)を見ました。確かにそこには淡くて暗い銀河らしきものがあるように見えることに気がつきました。まだまだ観察眼が足りないことを思い知りました」というメイルが届きます。

遊佐氏のメイルは、さらに「ところで、ふと……自分の記録を見ました。すると、私が確認観測を行った板垣さんの超新星が、この1年間で今ちょうど10個目になっていました。今回は、私にとっても記念すべき超新星になったわけです。参考のために、記憶違いでなければ、SN2009im、SN2009js、SN2009kr、SN2009md、SN2009mh、SN2010U、SN2010cp、SN2010dn、SN2010gv、この超新星の10個です。どの星との出会いも本当に素晴らしい経験でした。感謝しております。発見していただく板垣さん。そして情報をお送りいただき処理・指導をしていただく中野さん。さまざまなアドバイスをいただく門田さんにあらためて感謝を申しあげます。諸先輩方のキャリアからすればまだまだ未熟者ですが、1980年にペルセウス座流星群を眺めてから星にのめり込んでいった私にとって、今年の8月12日はちょうど30年目の節目になる日でした。今、こうして大好きな彗星や新天体を観測することができていることに、心より感謝申しあげます。今後とも、どうぞよろしくご指導のほどお願いします」と続いていました。『遊佐さん。新天体の確認作業は、発見者ならずとも、発見位置に天体が存在するかどうか、その確認時には胸が高まるものです。新天体が「あった」と確認できたときのその興奮は、当事者でなければわからぬものです。今後とも、どうぞよろしく』

この超新星は、発見後約8日が過ぎた8月29日になって、ディ・パドバらの観測グループによって3.5m TNG望遠鏡を使用してスペクトル確認が行われました。その結果、極大から数日が過ぎたIa型の超新星であることが判明し、超新星2010heの出現として8月30日01時57分到着のCBET 2430で正式に公表されました。それを見た板垣氏からは「おはようございます。この前のPSNですが、おかげさまでSN2010heとして公表されました。発見日以降、光度変化確認できなかったので、Ia型でないと思っていましたが……。爆発からだいぶ経過し、最大光度に達したIa型でした。2週間近くも誰も捜索していなかったことになりますね。もう「お蔵入り」と思っていましたので、とてもうれしく思います。また、とてもいい勉強になりました。ありがとうございました」というメイルが届きます。氏のメイルを見て、私も07時30分に新天体発見情報No.167を報道各社に送り、この発見を伝えました。

超新星2010hh in NGC 6524

板垣氏のSN2011heの発見後も、この夏はまだ暑い日が続いていました。そのスペクトル確認が公表された8月29/30日の夜は、南淡路のジャスコまで出かけました。その帰り道に大雨に遭遇し、前に進むことも困難な状況となりました。8月30日朝も、再び大雨が降りました。しかしそのお陰で、この日の朝は少し涼しくなりました。ただ、翌8月31日からは再び晴天が続き、暑い日が戻ってきました。これには『もういい加減にしてくれ……』という気分でした。

SN2010heの公表から3日が過ぎた9月3日01時07分に携帯が鳴ります。また山形の板垣公一氏からです。『何か見つけたな……』と思いながら携帯を取ると、氏は「NGC 6524にPSNです」と話します。氏からの発見報告は、すでに00時57分に届いていました。そこには「2010年9月2日深夜23時06分に、60cm f/5.7 反射望遠鏡+CCDを使用してヘルクレス座にあるNGC 6524を撮影した捜索画像上に、18.1等の超新星状天体を発見しました。この超新星の出現は、その後に撮られた10枚以上の画像上に確認しました。超新星の姿は、過去の捜索画像上、およびDSSにも写っていません。もっとも最近の捜索は8月29日夜です。この夜は、まだ超新星は出現していませんでした。しかし、9月1日夜に撮影した捜索画像上を調べるとこの超新星がすでに18.4等で写っていることに気づきました。超新星は、銀河核から東に38"、南に42"離れた位置に出現しています」と書かれてありました。

その発見報告から5分後の01時02分に再び、板垣氏からメイルが到着します。『何だろう。報告にミスでもあったのか』と思いながらそのメイルを見ると「確認待ちの天体の観測です」という書き出しで、中央局の「天体の確認ページ」にあるNGC 6621に出現した超新星状天体の観測がありました。氏の報告では「この夜(9月2日)の確認(18.5等)だけでなく、9月1日の捜索時の画像にも発見前の姿(18.7等)を見つけた」とのことです。そこで、この報告をまずダンに伝えようとしていたそのとき、01時58分に氏からまたメイルが届きます。そこには「今夜に発見したPSNも、9月1日の捜索時の画像上に発見前の姿(18.4等)を見つけた」とのことです。まず、02時18分にNGC 6621に出現したPSNの2夜の観測をダンに伝えました。その2分後の02時20分には、板垣氏から「疲れたし…曇ったし……すみません。寝ます」というメイルが届きます。『何、こちらは一生懸命働かされているというのに……実にけしからん』と思いながら氏のメイルを見ました。

そして、板垣氏の発見をダンに報告したのは02時43分になっていました。すると、その1時間後の04時44分には、早々と氏の発見を公表したCBET 2435が届きます。そこには、この超新星は「2010年9月1日14時頃にKAITO超新星サーベイからも独立発見があった」ことが伝えられていました。そこで氏の発見を伝える新天体発見情報No.168を編集し、05時23分に報道各社に送りました。また、氏のNGC 6621に出現した超新星2010hiの確認は、06時01分到着のCBET 2336に公表されました。それを見た板垣氏から「おはようございます。今、起きました。元気が出ました。目が覚めたら、おかげさまでSN2010hhになっていました。何かと本当にありがとうございます」というメイルが届きます。さらに08時52分に大崎の遊佐徹氏から「おはようございます。中野さん、新天体発見情報、ありがとうございます。板垣さん、SN2010hhの独立発見おめでとうございます。破竹の勢いでの快進撃はさらに加速していますね。SN2010hh in NGC 6524は、12時にはメイヒルで狙ってみます。今のところ雲は少ないようです」というメイルがあります。すると、板垣氏から11時33分にその返信「昨夜は、ここ数日徹夜が続いたので、疲れて休むつもりでした。でもNGC 6621に出現したPSNが確認ページに出ていたので、その観測に山に行ったのです。これが出ていないと、この発見はなかったです。とても幸運でした」とのことです。『なるほど、そういうことだったのか』と納得して氏のメイルを読みました。

遊佐氏はこのあと、メイヒルで9月3日12時11分(17.7等)と大崎で同日23時17分(17.6等)にSN2010hhを観測しています。さらに9月4日03時19分に上尾の門田健一氏から「SN2010hhの発見、おめでとうございます。今夜の観測を報告しておきます。空は低透明度で、すでに低くなっていましたので無理かと思ったのですが、2分露出の12フレーム上に写りました。久々に新天体の観測を楽しむことができました。光度は17.7等です。ところで2泊3日の胎内星まつり出張で疲れ果て、戻ってから3日ほど天文活動を休んでいました。連絡が途絶えたので、ご心配をお掛けしたかもしれません。体がだるくてまったく集中できず、このまま衰弱してしまうかと思いましたが、数日ほどで回復しました。仕事を休むことができず辛かったです。その後は少しずつ観測の頻度を上げて、だいぶペースが戻ってきました」というメイルとともにこの超新星の観測が届きます。そこで氏の観測を04時46分にダンに報告し、この星の確認作業を終わることにしました。なお、門田氏の観測は、9月5日03時44分到着のCBET 2443で公表されました。

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