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天文雑誌 星ナビ 連載中 「新天体発見情報」 中野主一

064(2010年1月)

明るい超新星2010B in NGC 5370

年末年始は、満月のためか、予想どおり新天体(本物)の発見は報告されませんでした。しかし1月7日から8日の早朝にかけて、小惑星センターのNEO確認のウェッブ・ページにある天体(RA27D55)が彗星であるという報告が守山の井狩康一氏、東京の佐藤英貴氏、秦野の浅見敦夫氏から届きます。さらに1月7日15時16分には佐藤氏、1月8日03時47分には上尾の門田健一氏から、同じくBS03692も彗星であるという報告があります。これらの天体は、1月8日発行のIAUC 9104とIAUC 9105で、それぞれ新彗星ヒル(2010 A1)と新彗星LINEAR(2010 A2)として公表されます。この時期、空は1月6日からの晴天がこの夜まで続き、月も下弦となって、誰もが観測に励んでいたようです。

その1月7/8日夜のことです。門田氏の報告からわずか2分後の1月8日03時49分に14等級の明るい超新星状天体(PSN)の発見が広島の坪井正紀氏から届きます。そこには「広島在住の坪井正紀と申します。このたび、超新星捜索中に新しい超新星らしき天体を発見しましたので報告いたします。既知の超新星はもとより、ノイズ、ゴースト、既知の小惑星、変光星について一応確認したつもりです。確認のほどよろしくお願いいたします。報告内容で不備がありましたら、ご連絡ください」というメイルに続き「30cm f/5.3反射望遠鏡+CCDを使用して、2010年1月8日深夜02時31分頃に北天、おおぐま座にあるNGC 5370を30秒露光で撮影した捜索画像上に14.4等の超新星状天体を発見しました。発見光度は14.4等です。発見画像の極限等級は17.7等です。このPSNは、2009年9月6日と11月22日に撮影した過去の捜索画像上、およびDSS(Digital Sky Survey)にもその姿は見られません。PSNは銀河中心から西に5".1、北に9".1離れた位置に出現しています。なお、発見後に撮影した12枚の画像上では、その移動は認められません」という報告とその出現位置が記載されていました。そしてメイルには発見画像が添付されていました。さらにそれから1時間後の04時51分には「中野さんの携帯電話や留守番電話にもかけてみましたが、ご不在のようなので、同じ情報を国立天文台にも報告いたしました。なにせ初めての報告ですので、まったく自信がもてません。先ほど確認しても移動している気配はないようです。光度が明るいので銀河の近傍で影響を受けているのかも不安です」というメイルが送られてきます。

『何?……固定電話も携帯も鳴らなかったぞ……』と思いながら、05時23分にその確認依頼を山形と上尾に送付しました。そして栃木県の観測所にいる板垣公一氏に電話を入れ、この確認を依頼しておきました。ちょっと反応が鈍かったのは、この間に超新星の画像からその出現位置を測定していたからです。そして05時27分に坪井氏に『今処理していますが、携帯にも留守電にも連絡がありませんでしたが……。どこへかけましたか』というメイルを返しておきました。するとその9分後の05時36分に氏より「お手数をおかけします。携帯電話、留守番電話とFAXを送りました。間違っているようですね、失礼しました」という返信があります。しかし、氏がそのメイルに書いてきた番号はすべてあっています。『おかしいな……』と思いながら携帯を探しました。見あたりません。『な〜んだ。携帯は忘れてきた……。いけない、いけない』。しかし、固定電話につながらなかったのは理由がわかりません。『きっと緊張のあまり番号を間違えたか……』と考えてしまいました。氏に連絡を入れ、このことを伝えました。そのとき『発見後、何分くらい追跡して移動のないことを確認したのか』をたずねました。「20分ほど」とのことです。氏は新天体を発見した割には落ち着いた口調でした。そのため、このような方が固定電話も携帯も番号を間違えたとはとても思えませんでした。私の感じでは、いくらあせってもそんなことのない人のようでした。不思議です。とにかく、05時47分に氏のこの発見をダン(グリーン)にまず報告しました。

そして、05時49分に氏のメイルへの返答として『いや、番号はこれであっていますが、一度もベルが鳴らなかったのですよ。今お送りしたように中央局に報告しました。記載に何かミスがありませんか』というメイルを送り、ダンへの発見報告が正しいかどうかをたずねておきました。すると05時58分に坪井氏より「中央局への報告ありがとうございました。内容確認しました。中野さんへの携帯番号を間違えて押していました。あわてていたのでしょうか。思い込んでいました。大変失礼しました」というメイルが届き、これで電話の件は解決したように思えました。報告後の06時04分には、ダンから「Tsuboiに過去画像の極限等級、DSSの撮影日、極限等級、撮影バンドをたずねてくれ」という問い合わせがあります。そこで06時13分に坪井氏にこの件を知らせました。氏からは06時16分に「少しお待ちください。すぐ調べます」という返事があります。そこで06時17分にダンに『Tsuboiには伝えた。多分、彼は自分の過去画像の極限等級はわかるだろう。しかし、DSSについては困難かもしれない。ところでウェッブ・サイトの17Pの軌道図を入れかえてくれたか。表示サイズが合わないのならもっと見栄えのいい画像を送るよ』というメイルを送っておきました。するとダンから06時21分に「忙しくてまだ入れかえていない。今、来週にICQの回報を送る準備をしているところだ。それも半年遅れの2009年7月発行分だ。OK。Tsuboiからの連絡を待っている。ところで、以前に彼の名前を聞いたことがないが、彼は初心者か。この発見は何かのミスではないのか……」というメイルが返ってきました。

待っていた坪井氏からの回答は06時33分に届きます。そこで07時32分にダンに『Tsuboiからの連絡では、彼の過去画像の極限等級は2009年9月6日と11月22日、ともに16.7等とのことだ』。そして、続けて『発見者からの報告はこれが始めてだ。しかし、私が彼の発見画像を見たところ、この発見は正しいものだ。私は、彼の画像から次の出現位置と銀河中心を測定した。発見者の報告と比べると、赤経で+0s.12、赤緯で-0".8のずれしかない。銀河中心からの離角も彼の報告と0".2のずれしかない。超新星の光度は14.1等。彼の画像の極限等級は、彼の報告にある17.7等より浅く、17.1等くらいだ。なおUSNOカタログには、ほぼ銀河中心位置に10.8等星がある。しかし、これはこの銀河がカタログに入り込んでいるのだろう』という返答を送っておきました。07時26分には板垣氏から電話があります。氏によると「NGC 5370が写っているDSSの良い画像が見つからない。栃木では坪井氏のST2画像が見られない」ということです。そこで坪井氏のFITS画像を再度送っておきました。この日の朝は08時35分にオフィスを離れ、郵便局に寄って帰宅しました。空はまだよく晴れていました。

その日(1月8/9日)の夜、オフィスに出向いてくると、1月8日12時05分に坪井氏から「昨夜からお騒がせしています。今から仕事で外出します。極力対応したいと思いますが、少し遅れることが想定されます。よろしくお願いします。また、過去画像と本日に撮った画像をサイトに入れました。ダウンロードで参照できます。何かご指示があれば、いつでもご連絡ください。当方、捜索は10年前からやっていますが、測光、位置測定を含め、本格的な報告は初心者です。わらないことがまだまだあるようです。ご迷惑をおかけします」というメイルが届いていました。そして、門田氏より1月9日00時44分に板垣氏宛てのメイルが届きます。それは、氏に届いた「晴れてますか。このPSNの観測は行えましたか」という板垣氏のメイルへの返答でした。門田氏は「さきほど帰宅しましたが、今夜の上尾は雲に覆われています。念のためDSS(R, 1997)、(I, 1997)をFITS形式で取得して、レベル調整で銀河の広がりを暗くして発見画像と比較してみましたが、報告の位置には恒星像は存在していませんでした」と書かれてありました。門田氏の調査によると、超新星は本物のようです。しかしどうも上尾での今夜の確認は難しそうです。

するとその11分後に板垣氏から門田氏宛てに「すみません。お願いです。この画像を測定して報告してください。私、機材のトラブル発生でごたごたしています。よろしくお願いします。なお、この観測は栃木の30cm f/7.8反射での確認です」というメイルと2枚の画像が送られていました。どうも板垣氏が確認してくれたようです。そこで門田氏からの連絡を待つことにしました。門田氏からは、01時33分に板垣氏宛てに「画像2枚を受け取りました。存在は明瞭に確認できます。最初の画像は20秒露出なので標準星として使って、2枚目の画像を測定してみます。少々お待ちください」という連絡が送られています。その2分後の01時35分には、坪井氏より1通のメイルが届きますが、そこには新しい情報は何もありません。それに気づいたのか、氏は新しい情報のついたメイルを02時08分に送っています。ただし門田氏だけ……にでした。そのことに気づいた門田氏からその情報が転送されて届きます。そこには「坪井さんから届いた今夜の光度観測と画像です。坪井さん。こちらのブラウザでは「本日の画像」を取得できなかったので、お手数ですが画像を送っていただけますか。板垣さんが観測されて、明瞭な像が確認できています。今測定していますので、間もなく報告します」という坪井氏への連絡と、氏が01時33分に送ってきた「本日は広島も曇りでしたが、先ほど雲の切れ間に見ることができました。サイトに本日の画像を掲載しました。昨日と移動はないようです。観測は1月9日00時51分、光度は14.5等と見積もりました」という今夜の確認報告がありました。

そして02時31分に門田氏より「板垣さんが栃木観測所にて30cm f/7.8反射で撮影した画像を測定しました。PSNは明瞭に写っています。確認時刻は1月9日00時24分です。位置はGSC-ACT、光度はTycho-2(V等級)で測定しました。超新星の光度は14.4等。画像の極限等級は19.0等でした。なお、いつもの画像とスケールが違うため、多少手間取りました。比較星の選択は手動なのです」というメイルとともにその出現位置、銀河中心位置が送られてきます。みなさんは、画像を送ればすぐ測定してくれると思われがちですが、人様の画像を測定するときはソフトのデフォルトを変えなければならないので、けっこう苦労するものなのです。とにかく、ここまでの報告をまとめて、02時42分にダンに『この超新星の確認観測』として送付しました。また、測定のお礼として02時47分に門田氏に『ご苦労様でした。そうだよねぇ〜。他人のフレームを測るのは設定をし直さなければいけないので大変ですよね。私は、人様のフレームはいつもAstroartを使ってしまいます。このソフトは設定の必要がないので……。ただし星を手で選ばねばなりませんが……。坪井さん。お知らせいただいたサイトの画像は見られませんね。そちらではご覧になれるのでしょうか』というお礼を送っておきました。

02時49分と02時53分に門田氏より「報告を見ました。どうもお手数でした。坪井さんには、今夜の観測時刻を確認するために画像の送信を頼みました。坪井さんから届いた画像を転送しておきますね」という連絡があります。ここで、まだ報告していないことがあるのに気づきます。それは。門田氏が調査したDSSの結果です。そこでこれらを02時55分にダンに伝えておきました。すると03時12分に坪井氏より「ファイルのダウンロードですが、直接開くとエラーが出ました。いったん保存をしていただき、その後に開いてください。お手数をかけますがよろしくお願いします。原因は後日に調査します。本日は、みなさま確認作業をしていただき、ありがとうございました」というお礼状が送られてきます。

これで、すべてが終了したと思っていると、03時50分に門田氏から「雲が通過して、03時10分に60秒露光で撮影した10枚の画像上にこの超新星の出現を確認しました」というメイルとともにこの超新星の確認観測が届きます。氏は、超新星の光度を14.5等と測光していました。この氏の確認は、03時59分にダンに連絡しました。板垣氏からは04時18分に「拝見しました、測定をありがとうございます。あのときは、望遠鏡、パソコンともにひどい状態でした。たまに来ると本当に問題が多いです。しかし今は正常になりました。中野さん、お電話をありがとうございます」というメイル、門田氏からは05時05分に「比較星の選択や視野中心の設定は手動ですが、ピクセル分解能が高く、こちらの画像より超新星の測定は楽でした。上尾が曇っている状況を知って、機材が不調の中、観測していただき、どうもご苦労さまでした」という返信、板垣氏からは06時49分に坪井氏宛てに「おはようございます。山形の板垣です。このたびは超新星の発見、誠におめでとうございます。まもなくCBETにて公表になることと思います。ところで私は今、栃木にいます。昨夜遅く到着しました。到着してすぐに観測を始めましたが、望遠鏡とパソコンともにトラブルが発生、ごたごたしていました。何とかPSNは撮影しましたが、測定は無理な状態でしたので、門田さんにお願いしました。助かりました。取り急ぎ仮のお祝いまで。おめでとうございました」というメイル、坪井氏からは08時20分に「まるで夢のようです。超新星捜索を始めて今年で11年目になり、少々運の無さを嘆いておりました。2年前の播磨で開催された「超新星捜索会議」にてみなさんのお話を聞き、さらに勇気づけられ、自分なりに捜索方法の改善に明け暮れておりました。おかげで昨年は110夜を超える観測ができました。出てないことを確認するのも観測の一つと言い聞かせながらやってまいりました。今回はあまりにも明るく銀河中心に近いので、もともと銀河に埋もれていたものが見えてるのか。すでに発見されてないのが不思議で、何か見落としがあるはずだと手を震わせながら、報告をさせていただきました。中野さんの電話番号を間違えるなど相当あわてていましたが、皆さんのご協力があり、このような結果となりました。この場をお借りして感謝申し上げます。ありがとうございました」という返信が送られてきました。

実はその坪井氏のメイルの少し前、発見処理が一段落した1月9日07時52分に大阪の原田昭治氏より携帯に電話があります。とっさに私は『何で携帯に電話をかけてきたの……。高いぞ……』とたずねました。すると原田氏は「今年になって、何回か電話をかけたのですが、固定電話は数日前から通じませんよ」と話します。そのとき『ハッと……』気づきました。1月4日に美星の浅見敦夫氏が来島したとき、コンピュータに電源を供給するUSB(無停電装置)の配置換えをしました。そのとき『電話機から配線を抜いたと……』ということにです。『あぁ……それで坪井さんの電話が通じなかったわけがわかった。電話機に線が入っていなかった』と原田氏と話しました。『坪井さん。当夜、携帯は自宅に忘れた上、固定電話はそういうことが原因でした。いろいろとご迷惑をかけ、また、どこにかけたのだ……と疑ったりして申しわけありませんでした』。それから約1時間が経過した08時51分到着のCBET 2115で、坪井氏の発見したこの超新星は公表されました。ダンは、送付したすべての情報をそこに掲載してくれていました。

その日(1月9日)の夜は21時00分にオフィスに出向いてきました。すると、09時47分に板垣氏から坪井氏宛てに「あらためて超新星のご発見おめでとうございます。2年前の超新星捜索会議に出席されていたとのこと。えぇ……そうでしたか。ご一緒でしたか! さて困りました。お名前とお顔が思い出せません。すみません。近く天文誌等でお顔を拝見できることを楽しみにしています。捜索歴11年ですか。私がこの道に入ったのと同じですね。それはそれは長い道のりでしたね。それでは、なおさらお喜びのことと思います。本当に心からお祝いを申し上げます。誠におめでとうございました」というお祝い。15時36分には門田氏から「超新星2010Bのご発見、誠におめでとうございます。日本国内では2010年最初の超新星となりましたね。昨夜こちらは曇っていたところ、板垣さんから画像を預かりました。画像を見た瞬間に、発見位置に明瞭な恒星像が確認できました。こちらの画像とスケールが違うため、多少手間取りながら測定していると、坪井さんの2夜目の観測と画像が届き、発見を確信しつつ、中野さんに板垣さんの確認観測を報告しました。ほっと一安心して空を確認すると、雲が通過して晴れています。ただちにPSNを撮像して観測を報告しました。坪井さんの画像は適切なピクセル分解能で、よく写っていると思いました。今後のご活躍をお祈りします。板垣さんは栃木の観測所で機材のトラブルだったとのことですが、なんとか確認していただき、中野さんの迅速な対応により日本国内で発見をサポートできてよかったです。みなさま、ご苦労さまでした」というメイルが送られていました。私の方は、22時00分に新天体発見情報No.154を発行し、報道各社にこの発見を伝えました。しかし少し眠気があったので23時00分に自宅に戻り、もう一度眠ることにしました。再度オフィスに出向いたのは、1月10日03時10分のことでした。

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