メガスターデイズ 〜大平貴之の天空工房〜

第30回 憧れのプラネタリウムとメガスター

星ナビ2007年7月号に掲載)

前々回、前回でお話した、マックノート彗星追跡記。そのきっかけとなったのが、ブラック星博士こと明石市立天文科学館の井上氏からの、事務連絡に添付されていたマックノート彗星の写真でした。今回は、その「事務連絡」の方の話です。

カール ツァイス & メガスター

今年の初めに届いたその事務連絡というのは、明石市立天文科学館(兵庫県)でのメガスター公演に関するものだった。

明石市立天文科学館には、カール ツァイス製プラネタリウムが常設されている。つまりこれは、単なるメガスターの公開ではない。芸術や音楽などとのコラボレーションでもない。ツァイス製プラネタリウムとの比較(といっては語弊があるが)投影なのだ。カール ツァイス & メガスター。数々のメガスターイベントを経験してきた僕にとっても、これは特異なコンセプトだった。

メガスターと他のプラネタリウム機が並んで使用されるのは今回が初めてではない。メガスターIIを通年公開している神奈川県の川崎市青少年科学館では、国産機との併用による上映が2004年から行われている。また、明石の後になるが、福岡県の宗像ユリックスプラネタリウムでも同様の試みを行った。しかし明石にあるツァイス製プラネタリウムは、50年前に導入された典型的ダンベルタイプ。僕が子どもの頃に図鑑で見て、いつかこんなものを作ってみたいと思いつづけてきた、まさに憧れのプラネタリウムそのものなのだ。それと自分の作品が並ぶ。プラネタリウム製作者としてどうして興奮せずにいられるだろうか。しかし、底知れぬきめ細やかさを持つ高度なプラネタリウムとの比較は正直不安もあった。

けれど、実際の投影はそんな不安を吹き飛ばすものだった。

競演を通して見えてきたもの

投影の第一印象は、(おおむね予測していたことだが)カール ツァイス機とメガスターの星空がかなり近い、というものだった。川崎市青少年科学館では、併設のプラネタリウムとメガスターの劇的な違いが観客を驚かせているというのに、なぜツァイス機とは違いがあまりないのだろうか? 明石のドームは直径20メートルで川崎よりだいぶ大きい。メガスターIIの適正規模に近いので、その分派手な明るさが抑えられる。本来の仕様に近い状態ともいえる。だから、共通の星空を作り出そうとした先人の作品と一致していくのは当然のことでもあるし、それは星空が不変のものということでもある。

いずれにしても、偉大なカール ツァイスと自分の作品であるメガスターに共通点があることは僕にとって安心感があった。しかしイコールではない。50年間の技術の進歩、そして日本人ならではの感覚と発想が、プラネタリウム発祥の地であるドイツ・カール ツァイスすら為さなかった100万個級の恒星の再現・メガスターを生み出したのだと改めて実感したのだ。

投影内容もまた僕にとって原点を感じるものだった。昔ながらの生解説。奇をてらわないが、人の心に響く。そして、昔ながらの照明や夕焼け装置が創り出す空の色の変化や夕焼けのなんと美しいことだろう。プラネタリウム界の現在の流れに漏れず、デジタル映像やコンテンツに多くの力を割く僕にとっても、変わるべきこと、変わるべきでないことがあることを実感した明石公演だった。まさに温故知新。その言葉以外に、表現する言葉が思いつかない。

カールツァイス・プラネタリウム

メガスターIIの星空と、1960年、明石市立天文科学館に導入された、カールツァイス・イエナ社(旧東ドイツ)製のプラネタリウム(右)。当時の機械工学技術の粋を集めて作られたもので、約9,000個の恒星、太陽、月、惑星、天の川などを映し出すことができる。
提供/明石市立天文科学館