メガスターデイズ 〜大平貴之の天空工房〜

第6回 手塚治虫の世界その2

星ナビ2005年6月号に掲載)

前回、愛知万博ささしまサテライト「手塚治虫のCOSMO ZONE THEATER」でのプレス内覧会までのドタバタ顛末をお話したので、今回はその上映内容の話。

手塚治虫といえば、鉄腕アトムやジャングル大帝など、おなじみのアニメが思い浮かぶ。けれども、単にアニメがプラネタリウムの中で上映されるわけではない(というか、それだけの内容にしたくはなかった)。メインテーマは「ガラスの地球を救え」このメッセージを伝えるのが番組の主眼で、キャラクターたちはそれを伝える存在に過ぎないのだ。

今回、僕はメガスターIIと映像&音響システムの準備に専念した。番組の脚本と演出は、これまで数々のプラネタリウム番組制作で定評ある田島秀樹氏が手塚プロダクションと協議しつつ詰めていく形だったので、僕自身、具体的なイメージを見たのは、3月に入り、ドームで上映テストを行うようになってからだった。

「もしも……」そんな言葉で物語は始まる。日が暮れて空一面に星空が現れる。その星空を見上げているのは子どもの頃の手塚治虫氏=手塚少年。戦後間もない頃の、街明かりも少ない、満天の美しい星空。しかし少年は、ただ星空の美しさに魅了されただけではなかった。そこに想像の翼を羽ばたかせ、星座たちの中に数々の物事を思い描いていく。「もしも、ロボットの友達がいたら?」「もしも、空を自由に飛べたら?」誰よりも少年らしい心を持ち続ける手塚少年ならではのどこまでも自由な空想の世界……。

けれどその空想は明るいものばかりではなかった。むしろ暗い物事も多い。いつしか場面は意外な方向へと移り変わっていく。環境破壊、戦争、災害。希望とはおよそ正反対の物事の連続。しかし手塚治虫氏は、その暗い想像こそが、希望を生む光につながると考えたのだ。そして、希望は無限の宇宙へと広がっていく。

ここで描かれるのは、手塚治虫氏の心の原風景であり、メッセージだ。この場で、メガスターIIは、その世界を映し出す存在でしかない。しかしこれこそが手塚ワールドとメガスターワールドの交差点なのだ。ある意味恥ずかしいような話だが、初上映を終えて、僕自身が初めて故・手塚治虫氏の心に触れることができた気がしたのだった。

手塚キャラたち

「ガラスの地球を救え」投影の様子。おなじみのキャラクターと手塚少年、そしてメガスターIIが作り出すリアルな星空が、観客を無限の宇宙へといざなう。

愛・地球博「手塚治虫のCOSMO ZONE THEATER」
開催時間・入場料など