太陽風の凪にたなびく金星の電離圏

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

【2013年1月30日 ヨーロッパ宇宙機関

探査機「ビーナスエクスプレス」が、太陽風が弱まった時に金星の電離圏が夜側にふくらむ様子を初めて観測した。地球のような固有磁場を持たない天体に太陽風がどのような影響を及ぼすか、研究を進める上での大きな発見となる。


金星の電離圏の変化

通常時(左)と太陽風の密度低下時(右)の、金星の電離圏の変化(イメージ図)。圧力が弱まったことで電離圏がふくらみ、より多くのプラズマ粒子が夜側へ流れ込む。クリックで拡大(提供:ESA/Wei et al. (2012))

ヨーロッパ宇宙機関(ESA)の探査機「ビーナスエクスプレス」の観測で、太陽風からの圧力が弱まると金星の電離圏が太陽と反対の夜側にふくらむ様子がとらえられた。

電離圏とは、天体の上層大気が外界からの放射線の影響で電離(イオン化)している層のことだ。強い磁場を持つ地球では電離圏は比較的安定しているが、固有の磁場を持たない金星の電離圏は、太陽風の変動次第でその形状が変わる。ただしその影響がどの程度のものか、詳しいことはこれまでわかっていなかった。

中でも、太陽風が弱まったとき、電離圏の中を昼側から夜側に向かうプラズマ粒子の流れがどうなるかについては正反対の予測があった。1つは太陽風の圧力が弱まることで経路が広がり、流れが多くなるというもので、もう1つは粒子そのものへの圧力が弱まるために流れが少なくなるというものだ。

2010年8月、その議論に決着をつけるチャンスが訪れた。NASAの双子の太陽探査機「ステレオ」のうち1機が、太陽風の密度が通常の50分の1まで下がり、その状態が18時間続いたのを観測した。

金星を周回する「ビーナスエクスプレス」の同時観測によると、太陽風が弱まった30分から1時間後、電離圏は夜側にふくらんでしずくのような形となり、2日間にわたって金星の直径分以上の長さまで伸びていた。

この結果から、太陽風の密度の低下とともに電離圏が大きくふくらむことがはっきりわかった。火星など固有磁場を持たない他の惑星でも同様のことが起こるという予測も可能となる。

「太陽が活発な時期に太陽風が惑星大気に及ぼす影響についてはよく話題になりますが、太陽風が弱まった時も、それはそれで大きな影響となることがわかりますね」(「ビーナスエクスプレス」研究員のHåkan Svedhemさん)。

〈参照〉

〈関連リンク〉

〈関連ニュース〉

〈関連製品・商品〉