木星の閃光の正体は?

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【2012年9月28日 Universe Today

今月10日に目撃された木星表面の閃光現象。小天体の衝突によるものと推測されているものの衝突痕が見つかっておらず、爆発現象の正体は謎のままである。


現象前と現象後の木星

IRTF望遠鏡とSpeXガイドカメラでとらえた現象前(左:9月5日)と現象後(右:9月11日)の木星。閃光が見られた黒丸部分には、特に変化は見られない。クリックで拡大(提供:G. Orton, Jet Propulsion Laboratory)

今月10日に木星の表面で小天体の衝突によるものらしき閃光が目撃されたことは、アストロアーツニュース(参照:2012/9/11「木星に小天体衝突か 米で閃光現象を目撃」)でもお伝えしたとおりだ。閃光は木星の観測を行っていたDan Petersenさんによって目撃され、テキサス州のGeorge Hallさんが撮影した動画にも記録されていた。

衝突した天体は、彗星なのか小惑星なのか、それとももっと小さな隕石なのか? それを知る手がかりとなる、衝突痕の観測が試みられた。数時間痕跡が残っていた2010年6月の閃光現象とよく似ていたため、今回も同様の痕跡が見られると期待されていた。

だがMike Wongさん(カリフォルニア大学バークレー校)が事前に、爆発エネルギーが小さく目に見える痕跡を残すには至らないだろうと予測しており、実際そのとおりになった。

地上に設置されたNASAIRTF望遠鏡での近赤外線観測でも、衝突体の残骸や衝突痕を見つけることはできなかった。観測を行ったGlenn Orton氏は「衝突したのは凍った彗星ではないか」と語り、さらに「氷の塊である彗星は太陽系の果てからやってきて、木星軌道周辺をうろつきます。こういった彗星は『木星族』と呼ばれ、周辺の小天体はほとんどがこういったタイプのものです」と補足している。

一方、SETI(地球外知的生命探査)研究者のFranck Marchisさんは「破片が飛び散ったような領域が見られないということは、火球が上空で燃え尽きたということ。さらにこの赤外線観測で、流れ星のような小さなものだったということがほぼ確実になった」と話している。また、Spaceweather.comのTony Phillipsさんは、ラジオ番組のインタビューで「おそらく小型の小惑星だろう」と推測している。

いずれにせよ今回の出来事は、近年の天文界の変化を物語っている。アマチュア天文家が今回のような現象を検出できるということ、最新のコミュニケーション・ツールによって、研究者もそのことを即座に知ることができるということは注目に値する。

天文ファンが集まるオンライン掲示板では、「衝突痕がない以上、衝突自体がなかったのだ」とか、木星の衛星からの反射光ではという推測、はたまたどこかの星からやってきた宇宙船ではというトンデモ説まで様々な投稿が寄せられた。だが「天体衝突が起こったのは事実」というのが、おおかたの研究者の見方だ。

Marchis氏は「二人の観測者がほぼ同時に見ている以上、議論の余地はないというのが私の見解です。1981年と2010年の現象でも、衝突痕は見られませんでした。衝突体が木星の大気の奥深くに突入できるほど大きくなかったと仮定できます。比較的小さかったために、大気の下層に到達するまえに燃え尽きたのです」と述べている。

9月10日の閃光が何によって引き起こされたのかを確実に知ることは、おそらく不可能だろう。しかし心配はいらない。これが最後の機会というわけではないからだ。Marchis氏は自身のブログに「今回のような、あるいはもっとエネルギッシュな衝突が1年間に50回は起こると計算している。ただ、その発生の瞬間にわたしたちが立ち会っていないだけだ」と書いている。

惑星の表面で爆発が起こるのは木星だけではない。太陽系内の惑星とその衛星すべてが、頻繁ではないにしても、彗星や隕石などの天体の衝突を受けている。そのもっとも顕著な例が月だ。NASAマーシャル宇宙飛行センターの主催する監視プロジェクトには、大型望遠鏡を持つアマチュアも参加が可能で、過去7年間で260回以上の爆発が目撃されている。

Marchis氏は、アマチュア天文家による木星観測の密接なネットワーク作りの重要性を訴える。「多くの小型望遠鏡で木星を長時間継続的に観測するネットワークを組織することが大事です。そうすることで、太陽系の外側からやってくる小天体がどれくらいあるのかを見積もることができますし、さらに木星や土星の衛星の表面地形がいつごろできたのかも正確に割り出せます。そのために、アマチュアとプロの協力が必要なのです」。