タイタンの“熱帯地方”に残るメタンの湖

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【2012年6月14日 NASA

土星の衛星タイタンの熱帯地方には、長年にわたり存在する大きなメタンの湖がある。どのようにして蒸発せずに残り続けられるのだろうか。


タイタンのシャングリラ付近

「カッシーニ」がとらえた土星最大の衛星タイタン。周りより暗く見えるところが「シャングリラ」で、探査機ホイヘンスはその西側に着陸した。後ろに見えるのは土星のリング。クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech/Space Science Institute)

NASAの探査機「カッシーニ」は、土星の衛星タイタンの赤道付近で蒸発せずに残っている液体メタンの湖を観測してきた。これら“熱帯湖”のうちの1つは深さが約1m以上で、その面積は米国ユタ州にあるグレートソルト湖の半分(日本の琵琶湖の約4倍)にまでおよぶ。

これまでの理論モデルでは、温度の低い極域以外では溜まった液体がすぐに蒸発してしまうと考えられてきたが、カッシーニの観測に基づいた新しい研究では予想外の結果が示された。これらの湖を作っている液体はいったいどこから来たのだろうか。

「有力な候補の1つは地下にある帯水層です。もしそうだとすると、タイタンにはオアシスもあるかもしれません」(米アリゾナ大学のCaitlin Griffith氏)。

帯水層とは液体が溜まりやすい地殻の空洞のことで、地球のオアシスは、帯水層の地下水が流れ出てできたものと考えられている。

タイタンの気候を調べるためには、この衛星にある湖や湿地がどのようにして作られたかを理解する必要がある。地球の水循環のように、タイタンにはメタン循環がある。タイタンの大気中にあるメタンは紫外線によって分解され、さまざまな連鎖的有機化学反応の始発点となっている。しかし現存するどのモデルでも、豊富なメタンの起源については説明できていない。

「頻繁に枯渇するはずのメタンが存在するわけが、帯水層で説明できるかもしれません。このメタンは、生物の基礎を成すアミノ酸のような有機物のもととなるものです」(Griffith氏)。

タイタンの循環モデルでは、赤道付近の液体メタンが蒸発し、風によってより温度の低い北極や南極に運ばれ、蓄積されると考えられている。運ばれたメタンは地表に落ちて極域の湖となる。地球でも類似した循環が行われており、海による水循環とともに、気候に影響している。

2005年にはヨーロッパの探査機「ホイヘンス」が「シャングリラ」という熱帯地方の近傍に着陸した。その際、探査機のランプの熱で地表のメタンが蒸発し、そこが湿地であることがわかった。シャングリラはカッシーニが可視光・赤外マッピング分光器(VIMS)で観測して、表面の色が周りより暗いことが確認された場所だ。可視光線や赤外線で暗いということは、液体のエタンやメタンがあることを示す。その一部は足首ほどの浅い液体溜まりと思われる。レーダー観測では、低緯度の湖は検出されていない。

VIMSが観測した熱帯地方の湖は、2004年から存在し続けている。それ以来赤道付近で雨が降り、蒸発していくのが観測されたのは、最近の雨季の間、ただ一度だけだ。雨によって湖の液体が補充されるとは考えにくい。

「今までは、タイタンの赤道には広い砂漠、極域には湖が存在すると単純に考えてきました。しかし、タイタンは考えていたよりずっと複雑な世界であることがわかってきました。カッシーニは今後もタイタンに接近する機会が多いので、この新しい発見がどのように進展していくのか、とても楽しみにしています」(NASAジェット推進研究所のLinda Spilker氏)。

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