詳細観測と理論で探る、系外惑星の誕生現場

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【2012年4月12日 国立天文台

国立天文台などの国際研究チームが、若い恒星の周囲に広がる原始惑星系円盤に見られる小さなうずまき状の構造をとらえた。すばる望遠鏡の詳細な観測と、円盤状構造を探るための理論モデルを初めて比較できるようになったことで、系外惑星の形成や原始惑星系円盤の進化についての謎にせまる糸口を開いたと言える。


「SAO 206462」の原始惑星系円盤とそのうずまき構造

「SAO 206462」の原始惑星系円盤とそのうずまき構造。クリックで密度波理論による波形を重ねた図を表示(提供:国立天文台。以下同)

惑星の重力作用で原始惑星系円盤に現れる構造

惑星の重力作用で原始惑星系円盤に現れる構造をシミュレーションしたもの。クリックで拡大

今回の研究成果は、すばる望遠鏡による惑星・円盤探査を行う「SEEDS」プロジェクトの一環で、おおかみ座の方向約456光年先にある若い恒星「SAO 206462」の周囲の円盤構造を近赤外線で観測したものだ。「SAO 206462」の周囲に原始惑星系円盤があることは以前から知られていたが、その中にあるうずまき状の構造の存在が今回はっきりととらえられた(画像1枚目)。

「原始惑星系円盤」とは、星の周囲に広がるガスとダスト(塵)で形成された円盤状の構造で、恒星の周囲の惑星はこの中で形成されると考えられている。だが、円盤がどのような状態になっているのか、その中でダストがどう集まり惑星となるのか、という過程についてはわからない部分も多い。

こうした円盤構造を探るカギとなるのが「密度波理論」だ。この理論は、水面に立つ波のように、円盤状の天体に形成される密度の波がどのようにできるのかといったモデル作りを行うものだ。銀河や土星の環などの構造の解析に使われてきたものの、中心星の強い光が邪魔して見えにくい原始惑星系円盤については応用が難しかった。

今回、すばる望遠鏡の最新鋭の系外惑星探査用カメラ「HiCIAO」(ハイチャオ)によってSAO 206462の円盤が詳細にとらえられたことから、密度波理論を適用してこの円盤についての情報を探った。すると、円盤内に見つかったうずまき構造は理論で予測計算された波の形と一致していた(画像1枚目をクリック)。また、中心星から100AU(1AU=太陽〜地球の距離)の位置での温度は絶対温度数十K(摂氏マイナス200度以下)と推定された。

原始惑星系円盤について密度波理論を適用し、円盤の状態を測定したのはこれが初めてのことだ。理論モデルと観測データを直接比較できるようになったことで、星の周囲でどのようにして惑星ができたのかという大きな謎に迫るための、新しい糸口を開いたといえる。

このうずまき構造が形成された原因はいろいろ考えられるが、円盤内にひそむ惑星によるものというのもその1つだ(画像2枚目)。もし惑星が存在するとすれば、木星の半分程度の質量と推測され、現在の技術では直接観測は難しい。だが今回の観測を皮切りに、原始惑星系円盤についても理論と観測がより強く連携しながら、惑星形成の過程の理解が深まっていくと期待され、惑星存在の「状況証拠」を探る研究も進んでいくだろう。