星雲の真の光源はどこ? すばる望遠鏡の赤外線観測で判明

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【2011年12月7日 すばる望遠鏡

国立天文台などの研究チームは、オリオン座大星雲内にある「クラインマン・ロー星雲」を温かく照らす真のエネルギー源を、すばる望遠鏡による赤外線観測で突き止めた。複数の画像を組み合わせて温度や減光量といった物理的な値の分布を調べることにより可能となったもので、この星雲にある不思議な構造や埋もれた原始星の成り立ちなどを解明するヒントになることが期待される。


KL星雲

さまざまな波長の赤外線でとらえたKL星雲。画像(c)の右上あたりに指を広げたような不思議な構造が見える。クリックで拡大(提供:国立天文台)

「オリオン座大星雲(M42)」の中心付近にあるクラインマン・ロー星雲(KL星雲)は、太陽系から約1500光年離れたところにある赤外線星雲だ。

その中心には赤外線光源「IRc2」が観測されており、ここにある太陽の約30倍の質量を持つ原始星がKL星雲のエネルギーを担っていると考えられてきた。一方、この「IRc2」とほぼ同じ位置には重い星が生まれていることを示す電波源「I」も観測されており、当初は「IRc2」と同一の天体がその源と思われていた。だがその後、「IRc2」と「I」とはわずかに位置がずれており、両者の源は別物であることがわかってきた。

「I」は、電波で見ると真の原始星であることが示されていたが、そうであれば同じ位置に見えるはずの赤外線源は見あたらなかった。

今回研究チームは、すばる望遠鏡の中間赤外線撮像分光装置(COMICS)を用いてKL星雲の姿を中間赤外線の複数の波長で詳細にとらえた(図1)が、「I」からの赤外線は検出できなかった。そこで、異なる波長で撮影した画像どうしを組み合わせて星雲内部の温度分布を調べたところ、温度のピークは「IRc2」ではなく、「I」の位置にあることがわかった。これにより、「I」の位置に原始星があることが確認された。また、「I」にある原始星から「IRc2」に向けてエネルギーの流れがあることも示された。

では、「赤外線天体」として知られていた「IRc2」の正体はいったい何なのか。この謎を解くため、同じくすばる望遠鏡を用いてKL星雲の減光量の分布が調べられた。減光量とは、赤外線の光が地球に届くまでの間に、どれだけダスト(塵)に遮られカットされているかを示す量のことだ。

調査の結果、「IRc2」付近では、近〜中間赤外線で最も明るい位置が減光量の多い位置と一致することがわかった。これは、「IRc2」の位置に光源となる星が仮にあったとしても、それが放射する赤外線は遮られて見えないことを意味する。したがって、「IRc2」として見えている赤外線はそこにある星の光ではなく、近くの明るい光源、つまり「I」の位置にある原始星からの光がダストに反射して見えているものということになる。

こうして、以下の2つの結論が得られた。

  • KL星雲のエネルギー源となる原始星は、IRc2ではなく電波源「I」にある
  • 「IRc2」は電波源「I」にある原始星の光を散乱して近赤外線〜中間赤外線で光っている

KL星雲をめぐっては、「フィンガー(指)」構造と呼ばれる放射状の不思議な構造(画像(c)の赤色の部分)の起源や電波源「I」にあると考えられる原始星の生い立ちなど、まだまだ謎が多く残されている。今回の結果がこれらの謎を解明するためのヒントになるかもしれない。

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