火星に長く伸びた、なぞのクレーター

【2010年9月1日 ESA

火星の赤道付近にある「Orcus Patera」と呼ばれる地形は、幅約140km、長さ約380kmもの大きさがあるが、なぜ通常の円いクレーターと異なり楕円形をしているのか、その形成プロセスはなぞである。


真上から見たクレーター「Orcus Patera」

真上から見たクレーター「Orcus Patera」。周縁の地溝の亀裂に注目。クリックで拡大(提供:ESA/DLR/FU Berlin (G. Neukum)、以下同じ )

「Orcus Patera」を標高で色分けした画像

「Orcus Patera」を標高で色分けした画像。上部のカラーバーと数字が、標高数値との対応を表す。クリックで拡大

「Orcus Patera」の鳥瞰画像

「Orcus Patera」を斜め上から見た画像。立体的なようすがわかる。クリックで拡大

火星の2つの火山「オリンポス」と「エリシウム」の間に位置するOrcus Pateraは、見落とされがちな地形だが、くっきりとしたくぼみで、その大きさは幅約140km、長さ約380kmもある。縁の高さは周囲の平野より1800m以上高く、くぼ地の中は周囲より400〜600mほど低い。

「Orcus Patera」の“patera”は、深くて複雑な(あるいは不規則な)形状の火山性クレーターを指す言葉である。Orcus Pateraのほかにも、ヘラス・インパクトとよばれるクレーターの北東に「Hadriaca Patera」や「Tyrrhena Patera」と呼ばれるものがある。

名前にはpateraと付いており、火山の近くに位置しているが、Orcus Pateraの起源はよくわかっていない。火山活動以外の起源としては、もともと大きな円形クレーターに圧縮するような力が働いた、あるいは複数のクレーターが侵食作用で1つにまとまったなどの説があるが、一番可能性が高いのが、ある天体が火星の表面に向かって斜めの角度から衝突したためにできたというものだ。小天体が表面に対して(おそらく5度未満という)ひじょうに浅い角度でぶつかったと考えられる。

Orcus Pateraには、周縁を横断するようにたくさんの地溝がある。周縁とその周囲にしか見られない地形で、その幅は最大2.5kmあり、ほぼ東西の方向を向いている。クレーター内部には大きな地溝が見られず、これは堆積作用によるものとされている。しかし、小さな地溝は今も残っており、この領域で地殻変動や地溝を埋める堆積プロセスが複数回にわたり起こっていたことを示している。

また、「リンクルリッジ」とよばれる断崖地形が走っている。これは、(地溝を形成したと考えられる)外側に引っぱるような力だけでなく、内向きに圧縮するような力が働いてできたと考えられている。くぼ地のほぼ中央に見られる黒っぽい部分は、小さな天体の衝突で掘り起こされた暗い物質が風によってまきちらされたものとみられている。

しかしながら、地溝もリンクルリッジもありふれた地形として火星の至るところに見られることから、「Orcus Patera」の起源との関係はないはずであり、やはり、この楕円形がどのようにして形成されたのかはわからないのである。