1つの恒星、2つの円盤、そして惑星の可能性

【2006年6月28日 Hubble Newsdesk

がか座β星は20年以上前にちりの円盤が発見された恒星として有名だ。NASAのハッブル宇宙望遠鏡HSTが詳しく観測した結果、実際には2つの円盤があって、交差していることがわかった。この構造は、まだ見つかっていない惑星によって作られた可能性がある。


(がか座β星周囲の円盤の画像)

HSTが可視光で撮影した、がか座β星周囲の円盤。恒星自身の光を遮るため、中央は隠されている。下の段では、2つの円盤の位置が示されている。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, D. Golimowski (Johns Hopkins University), D. Ardila (IPAC), J. Krist (JPL), M. Clampin (GSFC), H. Ford (JHU), and Garth Illingworth (UCO/Lick) and the ACS Science Team)

63光年先にある4等星・がか座β星が脚光を浴びるようになったのは、20年以上前にNASAの赤外線天文衛星IRASがこの星を観測した時のことである。がか座β星は赤外線を異常に多く放射していたのだ。天文学者たちは、恒星の周りにちりの円盤が存在して、暖められることで赤外線を放射していると考えた。そして実際、1984年に地上からの観測で円盤の姿が撮影された。太陽系にいる私たちは、がか座β星の円盤をちょうど真横の角度から見ている。

がか座β星の円盤をめぐっては様々な議論がなされてきた。その1つが1995年にHSTが観測したときに見つかった、円盤の形状に見られるわずかなゆがみだ。2000年にHSTは再び円盤を観測して、ゆがみの存在を再確認した。この時に、ゆがみが見られるのは、メインの円盤から4度ずれて交差するように第2の円盤が存在するからではないかという説が登場した。10年以上におよぶ議論に終止符を打ったのは、やはりHSTだった。2003年に撮影された画像には、2つ目の円盤がはっきりと写っていたのだ。第2の円盤は中心星から400億キロメートル(太陽−冥王星間の平均距離の7倍ほど)の距離まで伸びているのが確認されたが、実際にはさらに大きく広がっている可能性もあるという。円盤は単に形がゆがんでいたのではない。1つの恒星をとりまくちりは、2つの軌道に集中し、2つの分かれた円盤を形成していたのである。

なぜ、第2の円盤が存在するのだろうか。もっとも可能性が高いのは、未知の惑星の存在だ。最初にあった円盤から4度傾いた軌道を回る、木星の1倍から20倍という質量を持つ惑星が存在して、円盤から物質を引き寄せることで第2の円盤を形成したというシナリオである。この過程は計算機のシミュレーションでも再現することに成功した。

では、そもそもなぜ最初の原始惑星系円盤から傾斜した位置に惑星ができたのだろうか?この過程についても、複数の研究グループがシミュレーションで再現している。惑星の元となる微粒子が、最初はごく薄い円盤上に集まっていたとしても、お互いの重力によって散乱していき、最初の円盤からずれた位置に惑星ができることを示したのだ。実際のしくみはともかくとして、軌道傾斜角がずれた惑星が誕生するのは、想像に難いことではない――なぜなら、4度のずれなど、われわれの太陽系の惑星ではごく普通の数字なのだから。

がか座β星の円盤には他にも複雑な構造が隠されているとみられる。地上からの観測で、がか座β星のごく近く(と言ってもわれわれの太陽系の大きさに匹敵する距離だが)に、もう1つ小さな円盤が存在するかもしれないことがわかったのだ。残念ながら、今回のHSTの撮影では光を遮るために中心星付近を隠しているため、確認はできない。しかし、今のところ得られている証拠では、内側の円盤は(もし存在するとすれば)やはりメインの円盤からずれていて、しかも今回撮影された第2の円盤とは逆の角度に傾いている。つまり、両者は直接は関係していないことになる。ひょっとすると、がか座β星には複数の惑星が存在していて、それぞれが円盤に影響を及ぼしているのかもしれない。