年末に接近するアイソン彗星の活動状況

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【2013年4月4日 NASA

今年末に太陽に接近し、大彗星になると期待されるアイソン彗星(C/2012 S1)。アメリカの研究者らが観測した今年初めの活動の様子と、それに基づいた現時点での予測が発表されている。


今年1月30日にスウィフトがとらえたアイソン彗星

今年1月30日に撮影されたアイソン彗星(C/2012 S1)(画像中央)。この時は15.7等の明るさだった。夏ごろまでふたご座付近に位置している。クリックで拡大(提供:NASA/Swift/D. Bodewits, UMCP)

「アストロガイド・ブラウザ」でアイソン彗星を表示

ムック「アストロガイド 星空年鑑 2013」の収録ソフトでは、アイソン彗星の太陽系の中での動きや、自分の町からいつどの方角に見えるかをシミュレーションできる。クリックで拡大。

彗星の本体である核は、よく「汚れた雪玉」と称されるように、氷と塵が混じり合ったかたまりだ。太陽系の果てからやってきて、太陽〜地球の距離のおよそ3倍以内まで太陽系の内側に入ってくると、熱で氷が気体に昇華して塵とともに噴き出し、太陽の光を受けて明るく見えるようになる。

昨年9月に国際科学光学ネットワーク(ISON)のロシアチームによって発見されたアイソン彗星(C/2012 S1)は、今年11月末に太陽に最接近する。まだ遠くにあり最接近までは間があるものの、数十年に一度の大彗星との呼び声も高く、すでに地上望遠鏡や天文衛星による集中的な観測が始まっている。

米・メリーランド大学カレッジパーク校とローウェル天文台の研究者らは、NASAの天文衛星「スウィフト」の紫外線・可視光望遠鏡で2か月間にわたって彗星の活動の様子を観測した。

太陽から7億4000万kmの距離にあった今年1月末の時点で、彗星が噴き出す塵は毎分50t以上。それに対し水分の放出は毎分たったの60kgだった。まだ遠すぎるため水の氷はほとんど見られず、水より低温で揮発する二酸化炭素や一酸化炭素が彗星活動の中心となっている。

こうした活動の様子から彗星核のサイズが推算され、幅約5kmと彗星としてはごく平均的な数値が出されている。今後水分も噴き出すようになり、順調に増光していくかどうかについては「期待が持てる、としか今は言えない」(ローウェル天文台のMatthew Knightさん)とのこと。期待に応えてくれそうかどうか、太陽系の中心部に近づくにつれ明らかになってくるだろう。

最初のハイライトは10月1日。火星から1080万kmまで接近した彗星を、火星の探査機がとらえるかもしれない。

11月28日の近日点通過では、太陽表面からわずか120万km(参考:太陽直径=約140万km)のところをかすめる。彗星表面からは昇華した氷や塵が激しく噴き出し、太陽の光を手でさえぎるだけで見えるほど明るくなるかもしれない。

こうした太陽表面すれすれを通過する「サングレイザー」(graze=かすめる)は熱の影響で壊れてしまう心配もあるが、アイソン彗星はそうはならないとKnightさんら研究チームでは想定している。「私達の推算では、幅が10%ほど縮んでしまうものの、完全に破壊されることはないようです」。大量の氷が昇華することで冷やされ、それほど表面温度が上がらないのだという。

太陽との最接近後、アイソン彗星は12月26日に地球から6400万kmの距離を通過する。その時「世紀の大彗星」として私達の目の前に現れるかどうかはこれからのお楽しみ。いずれにせよ、天文学者たちは今後の観測でこの訪問者を研究しつくす計画だ。