天の川銀河の中心に見えた巨大質量ブラックホールの種

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【2012年7月23日 国立天文台

南米チリにあるアステ望遠鏡などにより、天の川銀河の中心部に存在する分子ガスの塊が電波で観測された。その中には大質量の星団が埋もれていると推測されており、こういった星団などが天の川銀河の中心の巨大質量ブラックホールを形成・成長させると考えられている。


天の川銀河中心部のガス分布

一酸化炭素分子が放つ波長0.87mmの電波強度で見た、天の川銀河中心部方向の分子ガスの空間分布。黒い十字は天の川銀河の中心核「いて座A*」の位置。クリックで拡大(提供:慶應義塾大学/国立天文台。以下同)

ガスの空間分布と速度分布

天の川銀河中心部にある「暖かく濃密なガス」の空間分布(上図)と速度分布(下図)。分子ガス全体の分布は薄い白色で示されている。「温かく濃いガス」は4つの領域に局在し、それらは全て高速で運動していることが分かる。クリックで拡大

巨大星団の想像図

今回発見された「塵に深く埋もれた巨大星団」のイメージ図。内部では中質量ブラックホールが生成されると予想されている。クリックで拡大

多くの銀河では、銀河中心核付近のせまい領域に大量の分子ガスが存在している。高密度の分子ガスは星を生み出すだけではなく、銀河中心核の活動にも密接に関係していると考えられてる。したがって、銀河進化を理解するためには、銀河中心での分子ガスの物理状態や化学的性質を観測的に調べることが重要だ。

天の川銀河の場合、私たちのいる太陽系と約3万光年離れた銀河中心の間に大量のガスと塵があり、さらにバルジ部および円盤部には無数の星もある。これらが視線を阻むため、可視光はおろか赤外線で中心部を見ることも難しい。

慶應義塾大学の岡朋治(おかともはる)准教授らの研究チームは、南米チリにあるアステ望遠鏡による電波観測と、過去に取得した野辺山45m電波望遠鏡のデータから、天の川銀河中心部における温かく密度の濃い()分子ガスの分布を詳細に描き出した。その中には4つの分子ガスの塊が見られ、すべて秒速100km以上という高速で運動していた。

4つの1つは、天の川銀河の中心核「いて座A*」を含むものだ。「いて座A*の位置には、太陽約400万個分もの超大質量ブラックホールがあると考えられています。したがってこのガス塊は、ブラックホールの周りを高速で回転する半径25光年の円盤状構造であると推測されます」(岡氏)。

その他の3つの塊は研究チームが初めて見つけたものだ。膨張運動の痕跡が見られることから、それぞれの内部で起こった超新星爆発で形成された構造であると思われる。このうち最も膨張エネルギーの大きい「L=+1.3°」(経度表記でガス塊を区別している)は作られてから約6万年経っていると見積もられ、膨張エネルギーは超新星爆発200回分に相当する。つまり、300年に1度の頻度で超新星爆発が起こり続けたことになる。

野辺山45m電波望遠鏡で観測したところ、複数の膨張構造や衝撃波が起源の分子が検出され、膨張エネルギー源が多重の超新星爆発であることが確認された。このような高い頻度で超新星爆発が起こるということは、多数の若く重い星の集まり、つまり大質量の星団が存在するはずだ。「L=+1.3°」に埋もれている星団の質量は、天の川銀河の星団の中でも最大級の、太陽10万個分以上と見積もられる。

このような銀河中心部の巨大質量星団には、銀河中心核の形成・成長に関わる重要な役割がある。理論計算によれば、星団中心の星の密度が高くなると、星同士が次々と合体して太陽数百個分の「中質量ブラックホール」が生成される。やがて中質量ブラックホールと星団は銀河中心に集まり、さらに合体を繰り返して銀河中心に巨大なブラックホールを形成したり、あるいは既にある巨大ブラックホールを成長させたりすることもあり得る。天の川銀河の中心核いて座A*にある巨大質量ブラックホールもまた、このような過程を繰り返して成長してきたと考えられている。

今回発見されたガス塊の1つ「L=-0.4°」には、極めて高速で動く小さなガスの塊が2つ含まれている。これらが回転運動をしていることが確認できれば、その中心には「見えない巨大な質量」が隠れていることになり、これが中質量ブラックホールかもしれない。

「中質量ブラックホールの存在を確認するために、私たちはさらなる観測を計画しています。今回の発見は、銀河中心核の巨大ブラックホール形成・成長メカニズムの解明という銀河物理学の最優先課題に迫る、重要なステップなのです」(岡氏)。

注:「温かく濃い」 ここでは、絶対温度50度(摂氏マイナス223度)以上、1cm3あたりの水素分子数が1万個以上としている。

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