平均的ブラックホールはつまみ食いで成長

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【2012年6月21日 HubbleSite

数十億光年以上かなたでも明るく輝く天体、クエーサー。その正体は銀河の中心にあるブラックホールが活発化したものと考えられている。活発化の要因の1つとして銀河同士の衝突があるが、ごく平均的な大多数のクエーサーにはそうした痕跡がなく、長期にわたる物質の“つまみ食い”で成長しているらしいことがわかった。


遠方宇宙のクエーサー

調査対象となった遠方宇宙の銀河。中心部のクエーサーは大量のガスやちりなどに隠れているため、この画像では確認できない。クリックで拡大(提供: NASA, ESA, and K. Schawinski(Yale University))

クエーサーは、遠方銀河の中心にある巨大質量ブラックホールが活発化して強烈な光を放つ、宇宙の中で最も明るい天体だ。数十億光年以上かなたでも輝いて見えるクエーサーの観測は、宇宙初期に形成されたブラックホールや銀河についての情報を得るのにも役立つ。

クエーサーの中でも目立って明るいものは、他の銀河との接触で変形した銀河に見られる。銀河同士の接近や衝突によって、大量のガスやちりが中心ブラックホールに送り込まれるからだ。では、ごく普通の渦巻銀河の中にある、平均的な明るさのクエーサーではどうだろうか。米イェール大学のKevin Schawinskiさんらの研究によると、ガスの塊や小さな伴銀河の“つまみ食い”が活動源になっているようだ。

研究では、ブラックホール成長の全盛期だった80億年から120億年前に存在した銀河を調査した。NASAの赤外線天文衛星「スピッツァー」のデータから活発なブラックホールを擁する30個の銀河を選び出し、ハッブル宇宙望遠鏡の近赤外線データで銀河の形状を調べた。すると、銀河衝突の明らかな痕跡があるものは1個だけで、それ以外ではほぼ見あたらなかった。

銀河の衝突から生まれたクエーサーは際立って明るいため目を引くが、大多数の「平凡な」ブラックホールは、ガスの塊や小さな伴銀河などを長期にわたってつまみ食いして成長するのだ。短期の劇的な現象や、それに伴う大量のガスの取り込みは必ずしも必要ではない。

クエーサーに“火が点く”プロセスとしては、銀河内のガスのかき混ぜ、超新星爆発、小天体の取り込み、ガスや恒星といった物質のブラックホールへの流入などが考えられるという。

「天の川銀河の中心にある超大質量ブラックホールにも、その周りの数光年以内にはクエーサーを生み出すのに十分な量のガスが存在しています。今はたまたまそうなっていないだけで、何かのはずみで小さなガス雲がブラックホールに吸い込まれればクエーサーになる可能性もあるのです。銀河内のランダムな運動や乱流などにより、ガスはブラックホールに流れ込みます。100億年前の宇宙ではこうした乱流が頻繁に起こり、ガスももっと豊富でした。小型銀河もたくさんあって、大型銀河に飲み込まれることも多かったでしょうね」(Schawinskiさん)。