NASAが5か年予算案を発表、歴史的な方針転換

【2010年2月3日 NASA

NASAは2011年度から5年間の予算を2010年度より増額し、有人月探査計画を凍結することで基礎技術開発などに注力すると発表した。とくに民間との連携を大幅に強化して、新しいアプローチで宇宙へ進出する方針を明確にしている。


2011年度から予算増額で臨む、新たな5つの方針

NASA 2011年度予算案の表紙の画像

NASA 2011年度予算案「Fiscal Year 2011 Budget Estimates」の表紙。クリックで拡大(提供:NASA)

2月1日に行われた記者会見で、NASAは2011年度から向こう5年間の予算および主な活動の内容について発表した。それによると、2004年に発表された有人探査プログラム「コンステレーション計画」を凍結する。

凍結といっても、NASAの今後の予算や活動の縮小を意味するわけではない。逆に2010年度のベースに比べ、2011年度から2015年度までの5年間で、60億ドルの増額となって、総額1000億ドルに達している。そして、その予算をもとに実施する新たな方針が発表された。

その中には、国際宇宙ステーション(ISS)の運用期間の延長や、予算の削減と雇用創出を目指した民間との技術開発協力、学生を対象にした科学・技術・工学・数学分野の教育プログラムの実施、将来の有人探査を見据えた太陽系の探査なども含まれている。

  • ISSの運用期間の延長(2020年か、またはそれ以上)。航空関連企業との協力による、商業ベースでの宇宙飛行士輸送サービス(新たな雇用の創出、世界をリードする技術の開発と取得)
  • 大学や研究機関、国内外の産業界などとの民間協力によりコストを削減し、新たな技術開発やテストプログラムを実施。例としては、軌道上における燃料倉庫の建設、飛行、軌道上実験など。その柱は主にロケットの推進力と搭載能力技術の開発
  • 将来の有人探査を見据えた太陽系(月、地球接近天体、火星など)の無人探査(常時プログラムとして、新しい技術の開発から探査までを実施)
  • 航空・科学分野として、地球の気候とその影響に関する研究、そのほか航空輸送の燃料・騒音・排気の削減を目指した研究・開発を実施し、環境・経済の両面において世界をリードする国を目指す
  • 若者を対象にした、科学・技術・工学・数学の分野の教育プログラム。シミュレーションや根拠に基づいた数学をはじめ、科学に基づいた教育を実施し、これらの分野に興味をもってもらう

「コンステレーション計画」がもたらしたもの

昨年5月からNASAでは2004年に発表された有人月探査プログラム「コンステレーション計画」の見直しを行ってきた。その結果、同計画はスケジュールが遅れており、しかも予算をオーバーしていることが明らかになった。

このまま数十年にわたって計画が続行されれば、たった数名の宇宙飛行士を月に送るために、予算はふくらみ続け技術開発費という名の投資に苦しめられ続ける。しかも、この計画に力を入れすぎたために、NASAは国際宇宙ステーション(ISS)へのアクセスを、スペースシャトルが退いた後の数年間はロシアに頼るという結果となっている。

また、近年では同計画の進行と引き換えに、地球観測や宇宙科学、航空技術やロボットによる宇宙探査、さらに教育の分野における重要な計画の削減が余儀なくされてきた。そのほか、ISSの運用寿命を短くするための計画作りまで強いられた。

コンステレーション計画の見直しを担当したNASA 科学・技術政策室は、「NASAは昔の技術に頼ったまま、過去の栄光の再現を目指した。そのために、過去の歴史に縛られたような計画を行ってきた」と、過去10年間の問題の根源を指摘、同時にその姿勢を省みている。

その上で、今後は長期的に実行可能な宇宙開発や計画を目指して、宇宙科学分野における技術革新や新たなビジネスの方法に投資すべきであるとし、コンステレーション計画の凍結を決定した。