すばる望遠鏡による星の「人口調査」

【2009年2月2日 すばる望遠鏡

すばる望遠鏡の赤外線カメラによって、約6000光年離れた大質量星形成領域に、数多くの生まれたばかりの褐色矮星が見つかった。同領域には褐色矮星が太陽程度の質量の星と同じくらい数多く存在していることが明らかとなった。


(すばる望遠鏡がとらえた星形成領域W3メインの画像)

すばる望遠鏡がとらえた星形成領域W3メイン。クリックで拡大(提供:すばる望遠鏡、国立天文台)

宇宙の基本構成要素である星には、太陽の十数分の一から数十倍にいたるまで、さまざまな質量のものがある。重い星ほど寿命が短くなるなど、星の性質は質量に大きく左右される。そこで、軽い星と重い星がどのような割合で誕生しているのか調べることが重要になるが、それは容易なことではない。

質量が太陽の8パーセント未満の星は、水素の核融合反応を持続させることができず、とても暗いため、「褐色矮星(かっしょくわいせい)」と呼ばれる。実在が確認できたのは、1995年のこと。褐色矮星が太陽のような恒星よりも数が多いか少ないかは不明だ。星の完全な「人口調査」を行うには、褐色矮星を無視するわけにはいかない。

冷えきってしまった褐色矮星を観測するのは難しいが、誕生したばかりでまだ暖かい褐色矮星は、赤外線では比較的明るく輝いている。そこで、星形成領域を赤外線で観測することによって、褐色矮星も含めた星の質量分布の研究が行われている。これまで、太陽系に近い星形成領域がいくつか観測されている。

しかし、これまで調査された星形成領域のほとんどは、軽い星しか生まれていない領域だ。現実的には、軽い星だけの星形成領域よりも、重い星も軽い星も生まれる星形成領域の方がはるかに多くの星を作りだしていると考えられている。後者の例としては、オリオン座星形成領域が1500光年の距離に存在するが、それ以外の領域は倍以上離れているため、観測が困難とされてきた。

日・印共同の研究チームは、すばる望遠鏡のCISCOと呼ばれる赤外線カメラを用いて、カシオペア座の方向約6000光年の距離にある「W3メイン」を観測した。W3メインは、天の川銀河内の典型的な大質量星形成領域として知られている。

観測の結果、W3メインには、褐色矮星が太陽程度の質量の星と同じくらい数多く存在していることが明らかとなった。一方、オリオン座星形成領域では褐色矮星の方が少ないという結果が得られている。もっとも軽い星・褐色矮星が生まれる割合は、天の川銀河の中でも場所によって異なるのだろうか?

一方、褐色矮星以外の星を対象としたこれまでの観測では、軽い星と重い星が生まれる割合は、天の川銀河やその周辺でほぼ一定であるとされてきた。今回の観測は、普遍的な「人口調査」において褐色矮星の存在を軽く見られないことを示しているのかもしれない。