宇宙最古のベビーブーム銀河、発見

【2008年7月14日 Spitzer Newsroom

123億光年のかなた、宇宙の年齢が現在の10分の1だったころに、年間に4,000個もの星を作り出している銀河が見つかった。宇宙で最初に誕生した銀河は小さく、時間とともに合体して成長したというのが銀河形成の定説。このベビーブーム銀河は、特異な例外に過ぎないのだろうか?


(すばるが観測した銀河の画像)

すばる望遠鏡が赤い波長で撮影した銀河の姿(疑似カラー)。十字は銀河に付随する電波源で、銀河の活動がもっとも活発と思われる領域(提供:NASA/JPL-Caltech/Subaru)

(赤外線で見た銀河の画像)

すばる望遠鏡の可視光データ(青と緑)に、スピッツァーの赤外線データ(赤と黄色)を重ね合わせた疑似カラー画像。爆発的な星形成の証拠が赤外線で現れた。クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech/Subaru)

(HSTが撮影した銀河II Zw 96の画像)

5億光年の距離にある銀河II Zw 96では、複数の銀河が衝突したため激しい勢いで星が誕生している。今回見つかったスターバースト銀河の姿もこれに近いかもしれない。クリックで拡大(提供:NASA, ESA, the Hubble Heritage (STScI/AURA)-ESA/Hubble Collaboration, and A. Evans (University of Virginia, Charlottesville/NRAO/Stony Brook University))

われわれの天の川銀河では年間10個の割合で星が誕生している。一方、周囲を見渡すと、爆発的なペースで星を作り出す「スターバースト銀河」と呼ばれる銀河が珍しくない。

しかし、そんな銀河がはるか遠方、すなわち宇宙が誕生して間もないころに見つかったら、話は別だ。現在、多くの天文学者は「階層的構造形成モデル」と呼ばれる銀河形成論を信じている。それによれば、最初に登場した銀河はごく小さなもので、時間とともに合体して大きく成長したはずだ。早い時期にスターバースト銀河が登場していたとすれば、このシナリオは崩れてしまう。

すでにいくつかの例外が見つかっていて、議論を呼んでいる。これまでで最古とされるスターバースト銀河は、われわれから117億光年の距離にある。宇宙の年齢が約137億年なので、これは宇宙誕生から20億年のころに相当する。今回、この記録をさらに6億年さかのぼる銀河の存在が発表された。

NASAのハッブル宇宙望遠鏡(HST)とすばる望遠鏡などによる観測プロジェクトCOSMOSが、ろくぶんぎ座の方向123億光年の距離(宇宙誕生後14億年)にある銀河を可視光でとらえたときは、あまりに遠いため目立たない存在だった。しかし、NASAの赤外線天文衛星スピッツァーで観測したところ、異常に明るく見えた。これは、生まれたての恒星が強烈な紫外線で周囲のちりを暖め、ちりから赤外線が再放射されることによる。さらに確認観測した結果、この銀河では年間1,000〜4,000個もの恒星が誕生していることがわかった。

「この銀河では一大ベビーブームが起きています。住人たる恒星が一度に生まれているようなものです」と話すのは、一連の観測をまとめた研究チームの代表で米・カリフォルニア工科大学スピッツァー科学センターの研究員Peter Capak氏。このペースで星が生まれ続けると、現在知られているもっとも巨大な銀河並みに成長するまでの時間は5,000万年となり、宇宙史スケールではごく短期間だ。「問題は、巨大銀河の大部分がこのように形成されるのか、それともこのベビーブーム銀河が例外なのかです」

COSMOSの主任研究員Nick Scoville氏は、「ここまですさまじい星形成活動が起きているということは、私たちは宇宙最大級の楕円銀河が形成される現場を初めて目撃したのかもしれません」と述べている。

COSMOSの一員で愛媛大学の谷口義明教授は、これまでも爆発的星形成を起こす銀河を研究していて、「モンスター銀河」と呼んできた。谷口教授は今回の発見に驚きつつもこう指摘している。「今回の発見は、ひじょうに珍しいことですが『モンスター銀河が早めにできている場所もある』ということを物語っています。暗黒物質やガスの密度が高い場所で、こういうことが起こりうるのです」