生きた惑星、水星

【2008年7月10日 MESSENGER Web Site

NASAの水星探査機メッセンジャー(MESSENGER)の観測によれば、水星の地表形成には火山活動が大きな役割を果たしていたようだ。さらに、巨大な金属核が生み出す磁場が、水星の内部構造、表面、そして宇宙空間との間におよぼす複雑な相互作用の一端が見えてきた。


(水星のカロリス盆地付近、疑似色)

カロリス盆地とその周辺。成分の違いをわかりやすくするために色は強調されている。盆地の周縁部などに見られるオレンジ色の明るい部分は、火山口ではないかと目されている。クリックで拡大(提供:NASA/APL)

1975年にNASAの水星探査機マリナー10号が初めて詳細に撮影した水星の表面は、われわれの月と似通っていた。無数のクレーターが散らばる中に、何かで埋められたような「平原」が存在するのだ。例えば、水星最大のクレーターでである「カロリス盆地」。月の海と同様に、何らかの原因で内部がなめらかになっている。

月の場合は、巨大な衝突で噴出した物質が穴を埋めたとされている。これに対して、水星では火山活動があったのではないかと考える研究者もいたが、噴火の証拠がなく議論に決着はつかなかった。

2004年に打ち上げられたメッセンジャーは、今年1月に軌道修正を主目的とした最初の水星スイングバイを行った。その際に取得したデータは、すでにマリナー10号のものを補ってあまりあるほどだ。どうやら、水星の表面では確かに火山が噴火していたらしい。

メッセンジャーの高解像度画像から、カロリス盆地の内部に溶岩流の跡や噴出口と見られる地形が次々と見つかっている。また、カロリス盆地の地表が周囲とは異なる岩石で覆われていることもわかった。興味深いのは、鉄分の含有量が少ないことだ。ほかの惑星なら、火山性の鉱物には鉄分が豊富に含まれている。

水星のマントルには本当に鉄がないのか、それとも今回の観測方法では検出できない形態で潜んでいるのかは、2011年の周回軌道投入後に解明されるだろう、と米・アリゾナ州立大学のMark S. Robinson氏は考えている。氏によれば、それは水星の形成史にも関わる重要なテーマだ。

最深部まで注目すれば、水星の大半は鉄でできている。ほかの岩石惑星には見られない巨大な金属核が存在し、ゆっくりと冷える過程で磁場を生み出しているらしい。今回のスイングバイ中の観測で、水星内部が今も活発に磁場を作り出していることが確認された。主任研究員でワシントン・カーネギー協会のSean Solomon氏によれば、こうした活動も水星形成初期の天体衝突に起源があり、表面の地形と磁場を合わせて考察することに意義がある。

ひじょうに希薄な水星大気も、今回のスイングバイで初めて観測された。そこでは粒子がイオン化していて、水星の磁場や太陽風などから影響を受けて複雑なふるまいを見せているようだ。

一連の観測をまとめるとすれば、水星は決して死んだ惑星ではないということだ。巨大金属核が中心に作り上げる複雑なシステムは、2011年に始まる観測の本番を待ち構えている。