太陽系外縁の巨大製氷器? カロンに新種の氷火山

【2007年8月3日 Gemini Observatory

冥王星の衛星・カロンに、溶岩ではなく新鮮な氷が吹き出す「氷火山」が見つかった。そのメカニズムは、これまでの氷火山の常識をくつがえしそうだ。カロンのように大きな太陽系外縁天体は、地下に液体の水をためていて、ときおり噴出させては氷で化粧をしているかもしれない。


カロンと氷火山と冥王星

氷が吹き出すカロン(右手前)の想像図。左奥は冥王星。クリックで拡大(提供:Gemini observatory / Software Bisque / Mark C. Petersen, Loch Ness Productions / Sky-Skan, Inc.)

一般にカロンは「冥王星の衛星」とされるが、質量は冥王星の10パーセントにもなる。これは地球の1パーセントしかない月と比べれば異常に大きい。カロンが冥王星のまわりを回っているというより、2つの天体が共通の重心のまわりを回っている状態だ。

今日、冥王星は「(太陽系)外縁天体」というグループに分類され、その中でもとくに大きな一群である「冥王星型天体」の代表として位置づけられている。カロンの立場はあいまいだが、半径500キロメートル以上の大きな天体なので、将来「冥王星型天体」に加わることはじゅうぶんあり得る。

そんなカロンを冥王星から切り離し、1つの独立した天体として研究した成果が発表された。

米アリゾナ大学の大学院生Jason Cook氏率いる研究チームが、ハワイにある口径8メートルのジェミニ北望遠鏡でカロンの表面を観測したところ、水の氷が検出された。データを分析した結果、「氷火山」が表面にまき散らしたものだという。

氷火山とは、溶岩の代わりに液体の水や水蒸気が吹き出す現象で、噴出物が瞬時に凍るほど太陽から遠くて冷たい天体に見られる。有名な例が土星の衛星エンケラドスで、絶えず氷が供給されるため、「太陽系でもっとも白い天体」と言われるほど特異な外見をしている。土星の重力により内部が引っ張られたり縮められたりを繰り返すことで、内部が暖められて水が液体となり、表面へ吹き出しているようだ。ほかにも木星の衛星エウロパ、天王星の衛星アリエルなどで氷火山の証拠があるが、いずれも惑星の強い重力が原因とされる。

ではカロンはどうかといえば、冥王星の重力は微々たるものなので、従来のメカニズムを当てはめることができない。そこでCook氏が注目したのは、水とともに検出されたアンモニアだ。「カロンの表面はすっかり水の氷でおおわれています。地下深くには液体の水が存在し、何らかの方法で上がってきたに違いありません。その鍵をにぎるのが、アンモニアなのです」

カロンの厚い氷の下では、放射性元素が生み出す熱で水が溶かされ、「地下海」が形成されると考えられる。もしそこで真上の氷壁にひび割れがあれば、そこに水が入り込むだろう。やがて水は凍り、くさびを打ったようにひびが広がる。同じ重さの水でも、液体より固体の方が体積が大きいからだ。

このくり返しが地表までの通り道を作るのだが、その間に水が完全に凍結しないのは、アンモニアが含まれるからだ。例えば氷水に食塩を混ぜれば水の温度を氷点下まで下げることができるが、これは道路の除雪に応用されている。カロンの地下ではアンモニアが水と結びつき、同じ効果を起こしているらしい。

計算によれば、地下海の水がひび割れにしみこんでから地上へ吹き出すまでの時間はわずか数時間。ほかの天体の影響ではなく「自力」で起こる氷火山は、カロンの表面に新鮮な氷を供給する。そして、地表を10万年で1ミリメートルずつ上塗りしているようだ。

カロン以外の外縁天体はどうだろう。「クワーオアー」や「オルクス」など、大きさがカロンに近い外縁天体は多数見つかっていて、これらも新鮮な氷でコーティングされていることが判明している。あとはそこに混ざったアンモニアの証拠を探すだけである。

「カロンに液体の海があるのなら、半径500キロメートル以上の外縁天体はすべて海があるはずです」とCook氏は語る。彼らの試算によれば、外縁天体の海すべてを合わせた水の量は、われわれの地球の海洋を上回るという。