冥王星の衛星、3つに

【2006年3月19日 Hubble NewsDesk(1)、(2) / Southwest Research Institute (SwRI) News

2005年5月に冥王星付近に2つの衛星らしき天体が発見されて以来、天文学者たちは追観測の結果を今か今かと待ちこがれていた。そして今年2月、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)の観測結果はその期待通りであった。これまで知られていたカロンに、S/2005 P1(以降P1)およびS/2005 P2(以降P2)という仮符号を与えられた新しい2つを加え、冥王星の衛星数は1から3へと増えた。しかし増えるのはそんな単純な数字だけではない。冥王星に関する知識や新たな疑問もますます多くなり、科学者が冥王星に向けるまなざしはさらに熱くなっている。


冥王星と衛星の画像 冥王星と衛星の概略図

(上)冥王星と衛星の画像、それぞれ異なる波長で撮影(疑似カラー)。(提供:NASA, ESA), A. Stern(SwRI)amd Z. Levay(STScI))、(下)冥王星と衛星の概略図(提供:NASA, ESA, A. Stern(Southwest Research Institute), H. Weaver(John Hopkins University/Applied Physics Lab)and the HST Pluto Companion Search Team)ともにクリックで拡大

昨年5月に冥王星の近くに2つの天体を発見したとき、観測チームはすでに新しい衛星を見つけたと確信していた。それでも、2月15日にHSTが撮影した画像の中で、2つの天体がほぼ予想通りの位置に写っていたことはうれしかったようだ。P1とP2の直径は、55から160キロメートル程度と見積もられている。もう1つの衛星・カロンと比べると、10分の1程度だ。明るさはカロンの600分の1であり、冥王星と比べればたったの4000分の1。1930年に冥王星が発見されて以来75年間もの間、隠れおおせたのも無理はない。

2つの衛星は、冥王星から約65,000キロメートル(P1)及び約50,000キロメートル(P2)の距離を回っている。それよりも内側にも衛星がないか調べられたが、どうやらこれらの新衛星に匹敵するような衛星は、カロン以外に存在しないようだ。

ところで、P1とP2はどのようにして誕生したのだろうか。HSTは3月2日に再び冥王星に目を向け、重要な事実を発見した。P1とP2、そしてカロンの表面における光の反射率を、様々な波長で調べたところ、3つともほとんど同じだったのだ。さて、惑星本体に対する大きさの比が、太陽系の衛星の中で最大であるカロンに関しては、「ジャイアント・インパクト」で誕生したという説が有力である。つまり、冥王星に大型の微惑星が衝突し、飛び散った破片が集まってカロンを形成したというわけだ。P1やP2の表面がカロンとほぼ同じということは、2つの衛星がカロンと同じ物質−すなわち、衝突によってより遠くに飛ばされた冥王星の破片−から形成されたことは想像に難くない。

P1とP2が冥王星をめぐる軌道面はカロンとほぼ同じであり、またカロンとの間に公転周期の共鳴(2つの天体の公転周期が簡単な整数比になること)も見られ、ジャイアント・インパクトを支持する証拠となっている。さらに観測を続ければ、ジャイアント・インパクトが起きたときの状況を詳しく知ることもできるという。同じくジャイアント・インパクトで誕生したと言われるわれわれの地球を回る月が1つしかないのに、なぜ冥王星には3つも衛星があるのか。この比較も、おもしろそうだ。

さて、天文学者が冥王星について考えるとき、もはや単一の惑星として考えるのではなく、「エッジワース・カイパーベルト天体(脚注参照)」の1つとして扱うのが普通だ。冥王星の衛星が「1つ」ではなく「3つ」であることは、エッジワース・カイパーベルト天体の研究の上でどのような意味があるのだろうか?

数多く見つかっているエッジワース・カイパーベルト天体だが、衛星を持つものがたくさん知られている。とりわけ、サイズが近い物同士からなるいわば「双子天体」が多く、冥王星-カロンもその一つだ。しかし、3つ以上の天体からなる系はまだ見つかっていなかった。衛星を持つエッジワース・カイパーベルト天体が多いのはなぜかを知る上で、冥王星と3つの衛星の研究は欠かせない。そして、この疑問を追究することはエッジワース・カイパーベルトそのものの成因、さらには太陽系の誕生の過程を知ることにつながる。

エッジワース・カイパーベルト天体の発見以来、冥王星の「惑星」としての立場はゆらいでいるように見えた。次々と冥王星サイズの天体が発見され、ついには冥王星を上回る天体も見つかっている。しかし、冥王星がエッジワース・カイパーベルト天体の代表であることは揺るぎなく、むしろ単一の惑星よりも重要な研究対象といえるかもしれない。天文学者が向ける関心も高まる一方だ。今回の研究に携わった学者の一人である米・サウスウエスト研究所のスターン博士(Dr. S. Alan Stern)はこう語る:

「冥王星とその衛星を新しい視点から見たときに、決して期待を裏切られることはありません。冥王星は常に、新たな知識の大鉱脈であり、宇宙の豊かさを描きだしてくれる天体でした。2つの新衛星の発見は、その事実を再確認させてくれます」


エッジワース・カイパーベルト天体:アイルランドの天文学者エッジワースと、アメリカの天文学者カイパーによってそれぞれ独立に提唱されていた、海王星の外側にある彗星の故郷のことです。そこは、原始太陽系の時代に惑星になりきれなかった「微惑星」が無数に浮かぶ領域です。現在までに1000個近い天体の軌道が確認されています。「太陽系ビジュアルブック」より一部抜粋)