「あかり」最新画像:大マゼラン雲の広がりを赤外線でとらえた

【2006年11月2日 宇宙科学研究本部 宇宙ニュース

日本の赤外線天文衛星「あかり」が撮影した大マゼラン雲の画像が公開された。全天の70%をカバーする「赤外線地図」を作成中の成果の1つだ。本格運用開始から半年が経過しようとしている「あかり」は、ミッションの前半をほぼ計画通りに終えようとしている。


赤外線で一回り大きく見える大マゼラン雲

「あかり」のFISがとらえた大マゼラン雲 可視光で撮影した大マゼラン雲

(上)「あかり」のFISがとらえた大マゼラン雲。左下のひときわ明るい部分は、可視光でも有名なタランチュラ星雲。クリックで拡大、以下同様(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA
(下)可視光で撮影した大マゼラン雲。赤枠はFISによる画像の範囲、緑枠はIRCによる画像の範囲を示す(提供:神谷元則氏、宇宙航空研究開発機構(JAXA))

夜空に輝く「雲」として航海士や天文学者の目に映った大マゼラン雲(解説参照)は、可視光でクローズアップすれば無数の星が集まった小さな銀河だとわかる。しかし、「あかり」が赤外線の目でとらえた大マゼラン雲の全体像は、銀河と言うよりは巨大な星雲のような印象だ。

「あかり」には、全天の赤外線地図作りに使われる遠赤外線サーベイヤ(FIS)と、おもに特定の目標を狙って撮影する近・中間赤外線カメラ(IRC)という2種類の赤外線撮像装置が搭載されている。このうち、大マゼラン雲の全体写真を撮影したのはFISの方だ。波長がそれぞれ60μm(マイクロメートル:1ミリメートルの1000分の1の長さ)、90μm、140μmの赤外線における観測から合成した疑似色画像である。

大マゼラン雲全体に広がるガスとちりは、生まれたての恒星にちりが暖められることで赤外線で輝いている。逆に言えば、大マゼラン雲は全銀河規模で爆発的に星が誕生している(スターバーストを起こしている)のだ。一方、可視光で見た恒星の分布は、画面の下半分に集中している。ガスやちりに比べて恒星の分布がずれているのは、親銀河である天の川銀河の重力が影響していると考えられている。

FISが撮影しているのは大マゼラン雲に限らない。「あかり」は現在最大の目的である全天の赤外線地図作りのために撮影を続けている。本格運用開始から半年となる11月上旬には、大マゼラン雲のように克明な記録が全天の70%にわたって得られる予定だ。同じようなプロジェクトとしては、1983年に打ち上げられた赤外線天文衛星IRASが存在するが、あかりの画像は感度・解像度ともにIRASをはるかにしのぐ。IRASのデータからはさまざまな赤外線源が発見され現在も研究に使われているが、今後「あかり」の観測データが大いに活用されそうだ。

多波長、高分解能で星の一生を追う

「あかり」のIRCがとらえた大マゼラン雲の一部

「あかり」のIRCがとらえた大マゼラン雲のクローズアップ(サムネイルは90度回転)(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

もう1つの観測装置であるIRCも順調だ。大マゼラン雲の一部を精密に観測した画像(波長3μm、7μm、11μmの赤外線の観測から合成した疑似色画像)には、星間物質とともに、赤外線で輝く年老いた恒星も見られる。恒星が、生涯の末期にガスを恒星間空間に放出している様子を追うことができる。FISがとらえた、恒星間物質から爆発的に誕生する星の様子とあわせれば、恒星の一生、さらには次世代に引き継がれていく様子も調べられるというわけだ。

「あかり」の地図作りは11月上旬で一段落する。その後は、最初の半年で撮影できなかった領域の撮影や、特定の方向を狙った撮影を中心とした運用が予定されている。サーベイよりもターゲット観測を中心とするべく設計されたIRCの活躍も増えそうだ。

「あかり」に生じた問題とその克服

ところで、打ち上げ後「あかり」で発生した障害についてもあわせて発表された。問題となっているのは主に2点で、どちらも姿勢制御に関するものである。

1つ目は、太陽センサーが正常に動作していないことである。「あかり」の軌道は、地球の昼と夜の境界線上を飛行する太陽同期極軌道。さらに、太陽電池を電源とするため、太陽の位置を認識することはひじょうに重要である。原因は、はがれた衛星の断熱膜の一部など、何らかの遮蔽物(特定はできていない)が太陽を隠したからだと見られる。現在は、搭載ソフトウェアを改修するなどして克服している。

もう1つは、姿勢制御用のスタートラッカー(恒星追尾装置)の問題である。まず、星検出用CCDの冷却装置が故障してしまったことで、精度が落ちてしまっているが、じゅうぶん星を検出できる範囲内だという。さらに、スタートラッカーが突然初期状態に戻ってしまう異常もあるが、こちらはその都度手動で元に戻し、なんとか観測への影響を最小限にしているとのことだ。

大マゼラン雲

距離16万光年。局部銀河群のメンバー。南天のかじき座にある、私たちの銀河系の伴銀河と考えられる不規則銀河。15世紀のポルトガルの船乗りによって西洋に紹介され、フェルディナンド・マゼランをたたえて命名された。独自にNGC番号を持つOBアソシエーション、散開星団、球状星団や星間分子雲が存在し、中でもタランチュラ星雲と呼ばれる散光星雲は美しく、活発な星生成が進行中である。(ステラナビゲータVer.8天体事典より抜粋)