「ひので」の初期成果:ダイナミックな太陽の姿

【2006年11月29日 国立天文台

今年9月に打ち上げられた太陽観測衛星「ひので」の初期観測成果が発表された。公開された画像は、高性能を誇る「ひので」に搭載された可視光・磁場望遠鏡によるもの。画像には、黒点周囲で物質がダイナミックに上空へ噴き上げられている様子がとらえられているなど、世界初の画期的な画像も含まれており、今後の観測成果に大きた期待が寄せられている。


(「ひので」に可視光望遠鏡よる黒点の画像)

「ひので」可視光望遠鏡による黒点。クリックで拡大(以下同じ)(提供:国立天文台、以下同じ)

(「ひので」と地上の望遠鏡による粒状斑の画像)

「ひので」可視光望遠鏡(左)と地上の望遠鏡(右)による粒状斑

(物質が上空へダイナミックに噴き上げられている様子)

物質が上空へダイナミックに噴き上げられているようす

(X線望遠鏡と「ひので」可視光望遠鏡によるコロナの画像)

X線望遠鏡(左)と「ひので」可視光望遠鏡(右)によるコロナ

2006年9月23日に打ち上げられた太陽観測衛星「ひので」は、10月25日に搭載されている可視光・磁場望遠鏡(以下、可視光望遠鏡)のファーストライト観測を行った。可視光望遠鏡は「ひので」に搭載された3つの望遠鏡のうちの1つで、現在世界でもっとも高い分解能を持つ太陽観測望遠鏡だ。「ひので」はこのような高性能を活かして、地球大気の影響を受けない軌道上から太陽磁場を24時間観測し続けることができる。太陽のダイナミックな活動の謎解明に役立つ観測が期待され、注目されている。

「ひので」可視光望遠鏡の初期観測では、世界初のものを含めて、興味深い観測結果が得られている。そこには、黒点よりも小さな構造や、黒点の崩壊現場もとらえられている。黒点の崩壊現場では、周りに小黒点や輝点が黒点半暗部から外向きに移動していく現象が黒点の周囲全体にわたって見られる。このことから、彩層では、無数の小さな増光やフレアが発生していることが明らかとなった。磁気エネルギーの蓄積と解放の仕組みの解明に迫る活気的なデータだ。

また、黒点周囲で頻繁に増光が発生し、それに伴って物質がダイナミックに上空へ噴き上げられている様子も克明にとらえられた。これは、大気や望遠鏡自身による散乱光の影響が極めて小さいからこそ可能なもので、世界初の観測成功例となった。

また、通常のX線望遠鏡では決して見ることのできない磁場のN極とS極をつなぐコロナのループ構造もはっきりととらえられている。今後は、太陽活動現象のエネルギー源である光球の磁場の変化や、エネルギー解放の現場となるコロナの変化の関係を詳しく調べることで、活動現象の起こる仕組みやコロナ加熱の解明が期待されている。

また、粒状斑や、その間にある微細磁気要素に対応した輝点も鮮明にとらえられている。このことから、望遠鏡の持つ空間分解能の限界(主鏡の口径で決まる理論的な限界)を達成していることが証明された。通常、口径50センチメートルの望遠鏡では波長400ナノメーターで約0.2秒角の分解能が限界だが、「ひので」可視光望遠鏡は0.2から0.3秒角を達成しているのだ。この値は太陽面で140キロメートルから210キロメートルに相当する。さらに、画像安定化装置を動作させ、磁場観測に必要な分解能0.01秒角の安定度も達成している。

「ひので」可視光望遠鏡の高い性能はこれだけではない。光球や彩層を0.2秒角で同時観測することが可能で、彩層加熱の謎の解明が期待されている。さらに、観測フィルターを切り替えることで、光球の磁場分布や、光球より上空の彩層を同時に観測することも可能だ。これにより、黒点周囲で磁場が引き起こす加熱現象やフレア、ジェットといった現象も詳細に調べることができる。

地上からの観測では、大気ゆらぎによる影響でほとんどがぶれた画像になってしまい、波長が短くなればなるほど、この影響は顕著となる。このため、粒状斑や輝点を連続的に観測できるのは稀だ。しかし、「ひので」可視光望遠鏡は、大気の影響を受けない宇宙から長時間にわたり安定した観測をすることができ、太陽で起こる現象を逃さずとらえることが可能なのだ。今後の成果にさらに期待が高まっている。