世界初、ペルセウス座流星群による月面衝突発光を捉えた

【2004年10月14日 国立天文台 アストロ・トピックス(55)

流星とは、地球に衝突してきた小さな塵粒(流星体)が上空100kmあたりで、大気との摩擦で発光する現象です。もし地球に大気がないと、流星は光らずに、塵粒のまま地表に衝突します。実際に大気がほとんどない月の表面では、塵粒がそのまま激突しています。通常は流星のように見えることはないのですが、比較的大きな塵粒の場合は、衝突による発光が観測されることがあり、月面衝突発光と呼ばれています。これは衝突時に生ずる高温ガスおよびプラズマが発する閃光です。1999年11月のしし座流星群の活動期に初めて観測され、2001年にも確認されています。しかし、いままで観測された月面衝突発光はすべてしし座流星群に関連したもので、他の流星群や通常の時期には見つかっていませんでした。

今回、世界で初めてペルセウス座流星群の塵粒によると思われる月面衝突発光の観測に、日本の共同観測チームが成功しました。成功したのは愛知県立一宮高校・地学部、長野県の小川村天文台、そして滋賀県のダイニックアストロパーク天究館友の会をはじめとする観測者たちです。

(月面衝突発光を捉えた画像)

8月12日に観測された月面衝突発光(提供:愛知県立一宮高校地学部、小川村天文台)

今回、ペルセウス座流星群の塵粒を生み出す元となっている母彗星・スイフト・タットル彗星が1862年に放出した塵粒の群れ(ダストトレイル)が、8月12日3時ごろに月に遭遇すると予測されていました。このため、大西浩次(おおにしこうじ)・長野工業高等専門学校助教授と柳澤正久(やなぎさわまさひさ)・電気通信大学教授が観測を呼びかけ、これに応じて実現した共同観測によって、見事に月面衝突発光が捉えられたのです。

月面衝突発光は一瞬の現象ですので、それが人工衛星などの太陽光の反射ではないことを証明するには、遠く離れた地点から同時刻に月の同一の場所で発光したことを確認しなくてはなりません。今回の発光現象は、一宮高等学校地学部(顧問:高村裕三朗(たかむらゆうざぶろう))と小川村天文台(坂井義人(さかいよしひと)台長)の共同観測から、同校2年生の益田大嗣(ますだひろし)君が発見し、さらに300km離れたダイニックアストロパーク天究館友の会の井田三良(いだみよし)さん、安達誠(あだちまこと)さん、杉江淳(すぎえじゅん)さん、また滋賀県在住の石田正行(いしだまさゆき)さんのアマチュア天文家によって確認されています。

発光時刻、位置は以下のとおりです。

発光時刻
2004年8月12日3時28分27秒(日本時間)
発光位置
北緯48度 東経76度(月面上の位置、地球から見た月の真中が緯度、経度共に0、他は地球の場合と同様。誤差は+/-1度)
明るさ
約9等級
発光継続時間
約1/30秒
月面への衝突角度
月面上の水平から測って37度
観測機材
60cm F4 + WAT-N100ビデオカメラ(一宮高校&小川村)

今回、問題の塵粒の群れが地球にもっとも接近した12日6時ごろには、流星の電波観測でも比較的強い流星電波エコー(出現した流星によって反射された電波信号)が観測されており、この塵粒の群れには衝突発光を起こす可能性のある大きな流星体が含まれていたことを示唆しています。大西さんらの研究グループの計算では、衝突した塵粒の重さは数10gと推定されています。

今回の発見で、月面衝突発光の原因となるのがしし座流星だけではないことが世界で初めて示されました。今後、他の流星群についても発見が続く可能性があります。また、今回の発見は、アマチュアとプロが協力して成し遂げたわが国初の多点同時観測であり、その意味でもたいへん貴重な成果といえるでしょう。

※この情報は電気通信大学の柳澤正久(やなぎさわまさひさ)さんより、いただきました。