木星の衛星の特殊な現象

【2003年1月5日 国立天文台天文ニュース(610)

地球は太陽の周りを1年に1回公転しています。その1年の間に2回、太陽が赤道の真上から照らすことがあります。これがいわゆる春分と秋分です。土星の場合も公転周期の約30年間に2回、太陽が土星の赤道を真上から照らすことがあります。土星の赤道面には環があるため、その頃には土星の環の消失という現象が起こります。

木星の場合は公転周期が約12年ですから、その半分の約6年毎に太陽が木星の赤道を真上から照らすことになります。木星から見ると地球は太陽のすぐ近くを回っているように見えますから、太陽が木星の赤道の真上にあるときには地球からも木星の赤道面をほぼ真横から見ることになります。今年はこの木星の赤道面を真横から見る年に当たっています。この時に「木星の衛星の特殊な現象」が見られます。

木星にはガリレオ・ガリレイ(Galileo Galilei; 1564-1642)が発見した5から6等級の4個の衛星(ガリレオ衛星)があり、小望遠鏡で容易に見ることができます。内側から第1衛星イオ(Io)、第2衛星エウロパ(Europa)、第3衛星ガニメデ(Ganymede)、第4衛星カリスト(Callisto)という名称が与えらえています。これらの衛星はほぼ木星の赤道面上を運行しているので、木星の赤道面を真横から見る今年は、これらの衛星がほとんどひとつの直線上を行ったり来たりするように見えます。そのため、ひとつの衛星が他の衛星に隠されたり、他の衛星の影に入って暗くなったりという現象が頻繁に起こります。さらに今年はこれらの現象が最も頻繁に起こる時期が木星の衝(しょう; 2月2日)の頃と重なっているため、特定の地域で観測できる現象の数も特に多くなっています。

衛星が他の衛星に隠される現象は「掩蔽(えんぺい)」、他の衛星の影に入る現象は「食」と呼んで区別しています。掩蔽の場合、衛星の一部を隠すのが部分掩蔽、掩蔽する衛星の方が掩蔽される衛星より大きくて完全に隠すのが皆既掩蔽、掩蔽する衛星の方が小さくて掩蔽される衛星の中にすっぽり入るのが金環掩蔽です。食の場合は、食を起こす衛星の影に太陽の光が全く届かない本影と、太陽の光の一部が届く半影があり、食される衛星が食を起こす衛星の本影に入る本影食と、半影に入る半影食に区別されます。本影食と半影食のそれぞれについて、掩蔽の場合と同じように、部分食・皆既食・金環食の種類があります。

衛星は望遠鏡で見ても大きさを確認するのは困難です。しかし掩蔽も食も明るさが変化することで現象を捕えることができます。衛星が隠される割合が最も大きくなるときに最も暗くなるわけです。ただし、皆既掩蔽と金環掩蔽の間と本影の皆既食の間は明るさがほぼ一定になります。半影は場所により光の量が異なるため、その影響で食の場合は本影の金環食や半影の皆既食の間でも明るさが変化します。半影が金環食を起こせば、その間は光度がほぼ一定になります。ただし、ほぼ一定と言っても、衛星表面の模様や場所による明るさの違いのために多少の変化はありうることに注意する必要があります。

これらの現象の観測結果は数秒毎の減光量とそれらの時刻が正確に測定されていれば衛星の運動や表面模様に関する研究に役立てることができます。そのためには時刻測定にGPS利用の正確な時計や外国の短波報時などを利用することが必要になり、また衛星の明るさを測定するのにも光電管や CCD等の装置が必要になります。しかし、眼視観測でも光階法や比例法などの変光星観測の要領で減光を捕えることができます。

掩蔽の場合は、ふたつの衛星が分解できなくなりますから、ふたつの衛星の合成光度を測ることになります。掩蔽のどの位前まで、あるいは掩蔽のどのくらい後から分解して見えるかを調べるのもおもしろいかもしれません。食の場合は食を起こす衛星と食される衛星が離れてみえるのが普通です。そのため、減光量の予報値には、掩蔽の場合はふたつの衛星の合成光度、食の場合は食される衛星のみの光度について示してあります。

これらの現象を楽しむだけでも面白いのではないかと思います。

これからの現象を幾つかピックアップします。

  • 1月8日 4時0分35秒から8分7秒間(最大 4時4分40秒)
    掩蔽:第2衛星の背後に第1衛星が隠れる 減光量 5%(減光等級 0.06等)
  • 1月9日 3時46分58秒から16分22秒間(最大 3時54分56秒)
    掩蔽:第3衛星の背後に第1衛星が隠れる 減光量10%(減光等級 0.12等)
  • 1月10日 1時9分7秒から5分50秒間(最大 1時12分3秒)
    掩蔽:第3衛星の背後に第1衛星が隠れる 減光量 6%(減光等級 0.07等)
    この現象の後の2時5分に第4衛星が木星の背後から現れる。
  • 1月10日 21時54分22秒か18分57秒間(最大22時3分37秒)
    食:第2衛星の本影に第1衛星が入る 減光量40%(減光等級 0.56等)
  • 1月10日 23時54分52秒から9分49秒間(最大23時59分40秒)
    掩蔽:第2衛星の背後に第1衛星が隠れる 減光量 1%(減光等級 0.01等)
    上記2つは第2衛星が第1衛星を追い越す形で食を起こし、続いて掩蔽になる。食は減光量が眼視でも確認できよう。掩蔽は減光量が小さいが、ふたつの衛星が近づき離れる様子は眼視で楽しめる。

以降6月までいろいろな現象を楽しむことができます。詳細は国立天文台のインターネット・ウェッブ・ページ上にある、星空情報をご参照ください。

資料等提供:国立天文台・相馬充(そうまみつる)さん

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