ハッブル、M87銀河の中心から遷光速で吹き出すジェットを観測

【2000年7月7日 STScI-PRC00-20 (2000/7/6)

NASAのハッブル宇宙望遠鏡が、地球から5千万光年の彼方にある「M87(NGC4486)銀河」の中心から、光速に近い速度で吹き出すジェットを克明にとらえることに成功した。

NASAのハッブル宇宙望遠鏡がとらえた、「M87(NGC4486)銀河」の中心から光速に近い速度で吹き出すジェット

この青いサーチライト状のジェットは、銀河の中心の巨大ブラックホールにより光速に近い速度ではじき出された電子や陽子。背景のぼんやりとした黄色の広がりは、何十億もの星たちの輝き――5千万光年という距離では、ハッブル宇宙望遠鏡を用いても個々の星をとらえることはできない――。散在する星のような点状の光は、それぞれが球状星団だ。そして左上のひときわ明るい点は、銀河中心を形作る大規模な球状星団。さらにその中心には、我々の太陽の20億倍もの質量を持つ巨大ブラックホールが潜む。

近傍銀河団である「おとめ座銀河団」にある「M87」ははじめ、同じ銀河団にある他の多数の楕円銀河と変わりない、ごく普通の大型楕円銀河だと思われていた。だが1918年、天文学者であるH.D. Curtisが、この銀河から延びる奇妙な直線状の光に気付いた。1950年代になると電波天文学が花開き、全天有数の強力な電波源「おとめ座A」が、この「M87」と、そこから吹き出すジェットであることがわかった。

やがて研究は進み、「M87」の強力なエネルギーの源が、我々の太陽の20億倍もの質量を持つ巨大ブラックホールであることが明らかになった。そのブラックホールの周囲にはねじれた強力な磁気圏があり、高密度のプラズマ雲が渦巻いている。そのプラズマ雲内の電子などがブラックホールの磁気圏との干渉により加速され吹き出している――このプロセスは「シンクロトロン放射」として知られる――のが今回とらえられたジェットだ。

なお、「M87」は今回とらえられたようなジェットが見られる銀河としては最も近く、最も良く研究されているが、同様のジェットが見られる銀河は他にも多く存在する。巨大ブラックホールの周りに豊富にガスや恒星が存在すれば、どこでもジェットは形成され得る。また、似た現象が、ずっと小規模ながら形成期の若い恒星でも見られる。

1998年、広視野/惑星カメラ2(WFPC2)による観測。紫外線、青、緑、近赤外線による画像の合成。


画像提供:  NASA / ハッブル・ヘリテージ・チーム