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天文雑誌『星ナビ』連載中「新天体発見情報」

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103(2013年10〜11月)

2014年3月5日発売「星ナビ」2014年4月号に掲載

LINEAR彗星(C/2012 X1)の増光

前号からの続き】東京の佐藤英貴氏が2013年10月20日21時10分に観測したこの彗星の増光と、上尾の門田健一氏が10月21日04時45分に観測した確認観測などは、10月21日13時44分到着のCBET 3674に公表されます。さらに10月22日00時19分には佐藤氏からその後の観測、06時16分には山口の吉本勝己氏からこの日の朝の眼視観測が届きます。それらをまとめて、11時25分に発行のEMESで『すでに一部の方にはご連絡しました。また、CBET 3674にも報じられていますが、この彗星の増光が東京の佐藤英貴氏によってとらえられました。氏の観測によれば、彗星は10月20日に8.5等まで増光し、丸い85"のコマが見られました。当時、彗星は太陽との合を終え、明け方の東の空に姿を現したばかりで低空を動いていました。HICQ 2013にあるこの頃の光度予報(H10=8.0等)では14等級でした。そのため、彗星は6等級ほど増光し、その標準等級はH10=2.0等ほどまで明るくなったことになります。佐藤氏の観測依頼を受けた上尾の門田健一氏は、10月20日にそのCCD全光度を8.2等、彗星には5'のコマがあることを観測しています。なお、彗星はSWANカメラ上にもとらえられ、佐藤氏によると、バーストは10月15日〜16日頃に起こったようです。山口の吉本勝己氏は10月22日朝にこの彗星を眼視でとらえ、その眼視全光度を8.4等、視直径を3'と観測しています。同じ日、佐藤氏はCCD全光度を8.3等(コマ112")と観測しています。2012 X1は、周期が2000年ほどの長円軌道を動く長周期彗星です。この増光が続くと来年(2014年)春に5等級まで明るくなりますが、位置予報のとおり、観測条件があまりよくないのが残念です』と仲間に連絡しました。なお、佐藤氏の10月28日と30日の観測では彗星の光度は9.0等、北西に伸びた390"(10月28日)と460"(10月30日)のコマが見られたとのことです。

その夜(10月22日)21時51分になって東京の蓮尾隆一氏から彗星のバーストについてのメイルが届きます。そこで、22時45分に氏に『おそらく、写真の時代には多くが見逃されていたんだよねぇ……。CCDでの観測になって、誰でもイージーに広範囲を観測でき、しかもコンピュータに入ってくる時代になって、見つけ出されているんだよね。1990年代までの偉大な観測者がかわいそうになってきます』という返信を送りました。なお、このメイルは10月29日になって、八束の安部裕史氏と栗原の高橋俊幸氏にも送っておきました。蓮尾氏からは23時07分に「おっしゃるとおりです。動画スタックの技術は凄くて、惑星にしても月にしても、昔は探査機でないと撮れなかったような絵が地上から20cmくらいの望遠鏡でも撮れるのですから驚きです。星雲・星団もフィルムの時代とは大違い。ヘール・ボップ彗星(1995 O1)の頃も、まだ世の中は銀塩の時代でしたからねぇ。今度のアイソン彗星(2012 S1)では核近傍のいい写真が撮れるといいのですが……。もうすぐ宇宙ステーション(ISS)に行く若田さんは、先日の「こうのとり4号」で上げた4Kカメラでこの彗星を撮影するミッションがあると言っていました。楽しみです」というメイルが戻ってきました。

わし座新星 Nova Aql 2013

台風27号の雨がおさまった10月27日頃から風邪をひき、何にもできずボケ〜としていました。この頃は、天文年鑑2014の締め切り近くでその催促なのか、何度も電話が鳴ります。そのため、電話のベルにうんざりして受話器をとらないでいました。その中に山形の板垣公一氏が10月29日05時47分と08時56分にかけてきた電話も含まれていました。氏の用件はわかっていました。というのは、氏から05時46分に「おはようございます。暗い新星らしき天体(13.8等)がありましたので、先ほど、中央局の未確認天体確認ページ(TOCP)に掲載しました。この天体は、山形の21cm f/3.0+CCDカメラで2013年10月28日19時37分にわし座を撮影した捜索画像上に発見しました。また、発見直後に同所の50cm f/6.0反射望遠鏡で撮られた確認画像上にも出現を確認しました。この新星は、10月18日夕刻に撮影した捜索画像上には、まだ出現していません」という発見報告が届いていたのです。

朝になって寝床から起き上がり、板垣氏と関係各位には、09時30分に『何度もお電話をすみません。3日前より風邪をひいて寝込んでいます。これは言い訳ですが声がほとんど出ませんので、電話を取るのを遠慮させていただいています。元に戻りましたらこちらからご連絡いたします。板垣さん。新星はこれから報告しておきます』という状況を連絡しておきました。その直後の09時34分には、板垣氏より「風邪ですか。お大事にしてください」というメイルが届きます。そして、板垣氏の発見をダン(グリーン)に連絡したのは09時49分のことです。それを見た氏からは、10時29分に「風邪でお休みのところすみません。拝見しました。ありがとうございます。お身体、お大事に……」というメイルが届きます。

この新星は、発見光度が13等級と暗い新星でしたが、11月7日15時46分到着のCBET 3691で公表されます。それによると、発見直後から11月6日にかけて国内外で13等〜14等級で観測されました。また、イタリーのマッシの調査では、パロマーで撮影されていた過去のプレート上の発見位置近くに20等級の星が写っているとのことです。10月下旬から11月上旬にかけて国内外でスペクトル確認が行われ、新星の出現であることが報告されています。CBET 3691を見た板垣氏から17時12分に「いつもお世話さまです。おかげさまで“NOVA AQUILAE 2013”として公表されました。本当にありがとうございました。ところで、銀河系内新星は、去年(2012年)は11個も出ました。今年は不作で、まだ4個目です。新星のダントツ出現のいて座には去年は5個、今年は0個です。いて座あたりには、発見されてない暗い新星がまだまだ沢山出現しているはずです。今後、欲張ってこの分野にも挑戦してみたいと思います。そのためにも星表の見方、読み方を勉強しないと……。最近、独自に調べてTOCPに掲載したら2つとも“没”でした」というメイルが届きました。

超新星 2013ge in NGC 3287

わし座新星の新天体発見情報No.201を発行したのは11月8日12時54分のことでした。その夜、板垣氏から「こんばんは。拝見しました。ありがとうございます」というメイルがあります。そして、この夜(11月8/9日)の明け方には、板垣氏はまた別の天体を発見することになります。その連絡が11月9日05時46分に携帯にあります。氏は「遠隔サーベイで超新星を見つけました。これからお山に行って過去画像を調べます。ゆっくりと待ってください」という連絡でした。

発見報告が届いたのは、それから4時間以上が経過した10時12分のことです。そこには「今、朝方、16.8等の超新星らしき天体(PSN)を発見しTOCPに掲載しました。このPSNは、栃木県高根沢町にある50cm f/6.8反射望遠鏡+CCDを遠隔操作して、2013年11月9日早朝、04時06分にしし座にある系外銀河NGC 3287を撮影した捜索画像上に発見しました。発見後約30分の間に同じ望遠鏡で撮られた10枚の画像上にこの超新星の出現を確認しました。その間、移動はありません。この超新星は、11月2日に山形にある60cm f/5.7反射望遠鏡で撮影されていた捜索画像上には、まだ出現していません。銀河核から東に15"、北に48"離れた位置に出現しています」という報告がありました。この氏の発見は、11時44分にダンへ連絡しました。それを見た香取の野口敏秀氏より14時48分に「板垣さんのPSN情報を受領いたしました。現在、香取は雲に覆われています。観測できましたら報告させていただきます」という連絡がありました。また、15時07分に板垣氏からは「拝見しました。ありがとうございます。夜明け前にPSNを発見、さらにアイソン彗星を撮ったりでとても忙しかった。ピンボケですが見てください」というメイルとともにこの頃から大きく成長し始めたアイソン彗星の画像が添付されていました。

この超新星は、最近発見される超新星にしては異常に早く、発見2日後の11月11日14時01分到着のCBET 3701で公表されました。それによると、この超新星の出現は、国内外の観測者によって確認され、さらに、発見直後の11月10日06時頃に中国の2.4m望遠鏡で行われたスペクトル確認では、極大数日前のIc型の超新星であることが報じられていました。到着約30分後の14時39分に新天体発見情報No.202を発行して、この発見を報道機関に知らせました。それを見た板垣氏から17時00分に「ちょっと留守にしてました……。メイルを拝見して、一瞬なんのことがわかりませんでした。その後、CBET 3701を見ました。あまりにも早かったですね。ビックリです。ありがとうございました」という連絡がありました。また、野口氏からは22時36分に「新天体発見情報No.202を受領いたしました。ありがとうございます。今回は悪天候で観測できませんでした。板垣さん。あっという間の正式認定でしたね。発見、おめでとうございます。香取はやっと今夜晴れました。しかし強風でピントが安定しません。冬の季節風に悩まされる時期になってしまいました」というメイルも届きます。また、23時33分には、板垣氏から野口氏宛に「こんばんは。山形は、今日初雪が降りました。寒いし、晴れないし……といやな時期になりました。でも、今年は遠隔操作で捜索を楽しむことができそうです。ありがとうございました」というメイルも送られていました。

火星探査機 MAVEN

11月19日朝、静岡県森町の池谷薫氏から携帯に「たった今、東南東10゚くらいの位置に明るい星雲状の天体が見え、北に動いていきました」という連絡があります。詳しくは「ファックスで送る」とのことです。氏のファックスは06時08分に届きます。そこには「電話でお話した星雲状の天体は、2013年11月19日05時00分頃には、東南東約10゚の低空にあるコップ座(赤経11h25m、赤緯-17゚)の中に見え、北上していきました。天体は1等星よりずっと明るく、驚きました。25cm望遠鏡で観測すると、天体には、進行方向とは逆の位置に約10等級の恒星状の集光があり、進行方向に約10'くらいの拡散した光芒が広がっていました。この恒星状の集光は、最初は光芒にくっついていましたが、その後しだいに離れていきました。なお、光芒はその後に30'くらいの大きさになりました。ところで、注目のアイソン彗星は、5cmファインダーで楽に見えました。彗星の集光は強くなりましたが、その中に恒星状の核は相変わらず見えません」という報告がありました。氏の報告から、この天体は、人工天体のロケット噴射であることが推測されます。そのため、このことを池谷氏に連絡し、美星の橋本就安氏に調査してもらうため、池谷氏の観測に『池谷薫さんから添付のような天体を目撃したと連絡がありました。多分、衛星のロケット噴射ではないかと思いますが、何か該当する衛星があるか調べていただけませんか』と付けて調査を依頼しておきました。

11月20日、19時00分に池谷氏から「アイソン彗星は、今朝も前日と同じように見えていました。5cmファインダーで全光度が4.5等くらいでしょうか。ただ、月光と低空のため小さくしか見えません。本当はもっと明るいはずです。11月19日明け方の彗星状に見えた人工天体を、橋本さんに問い合わせいただきありがとうございます。そのときのファックスですが、あとで見直してみると、東南東10゚くらいではなく南南東10゚くらいです。急いで勘違いしていました。ところで、昔のウエスト彗星(1975 V1)が明け方の空に見え始めた頃、コマ(核)が2個に分裂した二重彗星でした。分裂したおかげで明るく見えたようです。その後4個になり、その中の1個はすぐ消滅したものの、3個のコマは何週間か見えていました(アイソン彗星もこのようになるかもしれませんね)」というファックスが届きます。しかし、私は『橋本さんは反応が鈍いからいつになるか……』と心配しながら、そのファックスを見ました。

しかし、今回は意外と早く反応がありました。11月22日11時32分に橋本氏から調査の結果が届きます。そこには「2013年11月19日早朝(05時前後)の“衛星のロケット噴射”の目撃は、たくさんありました。きっと、アイソン彗星などを観測していた方が多かったのでしょう。その正体がようやくわかりました。当初からそうではないかと気づく人も多かったのではないでしょうか。というのは、目撃の数時間前にアメリカが火星探査機MAVENを打ち上げていたのです。正確な打ち上げ時刻は19日03時28分です。そこでMAVEN衛星の軌道要素を入手して確認した結果、今回、目撃された天体はこの“MAVEN”で、火星に向かうためのロケット噴射でした」とのことでした。(編集部注:このとき目撃された雲は、後にMAVEN最終段ロケットの余剰燃料放出であることがわかりました。2014年2月号で橋本就安氏の解説記事を掲載しています)

ところで、11月に入ってからのアイソン彗星は何度か小さなバーストを繰り返し、そのつど増光しました。この増光のおかげで、2013年初以来続いていた貧弱な「尾の長いオタマジャクシ」の姿から大きな変貌をとげました。特に11月14日頃の増光の後は、明るい大きなコマから細長く伸びる複雑な構造を持つみごとな尾が撮影されました。しかし、アイソン彗星の雄姿が見られたのはこの頃まででした。太陽に接近したアイソン彗星は、まず、STEREO衛星搭載の多くのカメラで確認されます。そして、11月27日深夜01時頃に無事、SOHO衛星LASCO C3カメラの中に姿を現します。太陽に接近した彗星核のブルーミング(saturation spike)は次第に大きくなり、一時は木星のブルーミングを超えました。、このとき、彗星は-2等級(以上)まで増光したはずです。

ところが……、このときを境として、彗星核のブルーミングがパタリとなくなっていきます。つまり、このブルーミングがとまった時点から彗星核からのガスの供給がなくなり、あとは放出された物質が拡散していく状況を私たちは見たことになります。結果として、アイソン彗星は近日点通過後にその雄姿をみせることなく、消滅してしまいました。次の大彗星の出現に期待しましょうか……。

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