天文との出会い
第15回 「デジボーグの楽しみ」

Writer:中川 昇

《中川昇プロフィール》

1962年東京生まれ。46才。小学3年生で天文に目覚め、以来天文一筋37年。ビクセン、アトム、トミーと望遠鏡関連の業務に従事。現在、株式会社トミーテックボーグ担当責任者。千葉天体写真協会会長、ちばサイエンスの会会員、鴨川天体観測所メンバー、奈良市観光大使。

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デジボーグとは?

デジボーグ45EDII望遠レンズセット

デジボーグ45EDII望遠レンズセット

デジボーグとは何でしょうか? これは「デジタルカメラ+ボーグ」の略語で、一眼デジカメやコンパクトデジカメとボーグとの組み合わせの総称です。主に、超望遠レンズの代わりとして、野鳥撮影などに利用されるケースが多いようです。ボーグでは、2005年の冬から「デジボーグ望遠レンズセット」としてセット販売をしてきましたが、発売から3年経った2008年、一気にブレークしました。今までにないまったく新しい層のお客様がこのセットを購入されるようになり、今や天文の需要を追い越さんばかりの勢いになっています。

今、なぜデジボーグなのか?

デジボーグ101EDによるカワセミ

デジボーグ101EDによるカワセミ(撮影:藤野 様)

デジボーグ101ED望遠レンズセット

デジボーグ101ED望遠レンズセット

では、なぜ今デジボーグなのでしょうか? その大きなきっかけのひとつは、インパクトのあるカワセミの超高解像力の画像です。(カワセミの写真)この物凄いカワセミの画像(恐らく野鳥画像史上、最高レベルの画像のひとつだと思います)はBORG101ED望遠レンズセットユーザの藤野さんが撮影されたものですが、初めて見たときには正直ぶっ飛びました。この衝撃は大昔(1974年)の天文ガイドに掲載されていた、香港の天文家が撮影した「直線の壁付近」の月面写真に匹敵するほどのインパクトでした。これが月面写真をテーマに撮影しようというきっかけになったのですが、藤野様のカワセミの画像は、ハンマーで頭を殴られたようなその時の強い衝撃を思い出すほどのものでした。

この画像をボーグのウェブサイトに掲載したところ、非常に大きな反響があり、デジカメ関連のネット掲示板でも話題になりました。さらには、藤野さんのサイトの「カワセミ奮闘記」が、野鳥ファンの心理を代弁してくれたようで、この画像を契機に一気にカタログ請求、問い合わせ、注文が増え出したというわけです。

天体望遠鏡ならではのメリット

では、ボーグ等の天体望遠鏡を超望遠レンズとして使ったときに、どういうメリットがあるのでしょうか? 詳しくは、ボーグのウェブサイトの望遠レンズセットコーナーを参照いただきたいのですが、最近とくに感じるのは、以下の2つの点です。

(1)他の人が使っていない、という優越感が味わえる

趣味の世界ではこの要素は重要です。他の人と同じ機材では同じような写真しか撮れません。ライバルを凌ぐには、ライバルがまだ手を出していない機材で差をつけるのが一番です。しかも、カメラレンズと比較するとどれもリーズナブルな価格。「あっ!もしかしてボーグですか?」などの周りの人の複雑な反応も面白いでしょう。これから普及するという、ここ数年がとくに面白いかもしれません。どの分野でもそうですが、パイオニア精神を持つということは、お金には変えられない大きな楽しみだと思います。

(2)とにかくよく写る

試しにカメラレンズの後ろに接眼レンズをつけてみてください。その性能の差は歴然です。“小さくて遠くの天体を大きくシャープに写し撮る能力が高い”という天体望遠鏡の特長は、まさに野鳥撮影をするにあたり求められる能力と見事に合致するわけです。野鳥が小さい、遠いといっても天体と比べれば、大した問題ではありません。

ボーグでの野鳥撮影の楽しみ

ミニボーグ50によるカワセミ

ミニボーグ50によるカワセミ(中川 昇 撮影)

野鳥撮影は天体撮影と似ているということは先ほど述べましたが、具体的にみていきましょう。

(1)天体の世界には、日食や月食、流星群、彗星などの天体イベントがありますが、野鳥の世界にも「珍鳥」というイベントがあります。滅多に来ない野鳥が来たという情報があると、ファンはどんなに遠くても撮影に出かけていきます。

(2)天体観測を始めると、星雲や星団を初めて見たというだけで感動するものです。同様に野鳥の世界でも初見の鳥を「ライフリストに加える」という言い方をしますが、初めて見る野鳥は見るだけでも心が躍るものです。

(3)天体写真の世界には、「月に始まり、月に終わる」という言葉があるように、鳥の世界にも「カワセミに始まり、カワセミに終わる」という言葉があるそうです。月面写真にはまっている人はカワセミにはまりやすいかも? 逆に言えば、カワセミにはまっている方は、月面写真にはまる可能性が高いかもしれません。それほど面白さや難しさに共通性があります。月にもカワセミにもはまっている私が言うのですから間違いありません。

鉄道、ダイヤモンド富士、パール富士

ダイヤモンド富士

45EDIIによるダイヤモンド富士(中川 昇 撮影)

最近は、デジボーグの守備範囲が広がり、鉄道写真、ダイヤモンド富士(画像)、パール富士などにもデジボーグが活用されています。とくにダイヤモンド富士(富士山頂に沈む太陽)やパール富士(富士山頂に沈む満月)は、天体の知識も必要なので、天文ファンの出番が多いにありそうです。風景写真と天体写真の橋渡し役的な撮影対象なので、弊社としても注目しているところです。このあたりの現象の面白さが広く認知されれば、天文ファンも増え、天文雑誌や望遠鏡も売れるのではないでしょうか? とくにパール富士は情報も少ないので、「星ナビ」で特集を組めば、相当売れると思います。皆さん、天文関連の情報に飢えているのです。

終わりに

というわけで、今回は、最近のデジボーグ事情について触れてみました。よく考えてみると、これは必然的な流れかと思います。天文市場では昨今の理科離れの傾向を受けて、若い天文ファンが激減しており、どうしても中高年の天文ファンに頼らざるを得ない状況下にあります。ところが、全体的に高齢化の一途なので、夜間に行なう天体観測という趣味は体力的にも厳しい面が出てしまいます。でも、手持ちの天体望遠鏡は活かしたい。そこで、天体望遠鏡を使った超望遠撮影の時代だと思うわけです。高性能の一眼デジカメが続々と発売されるなか、今ほど天体望遠鏡のメリットをアピールできる時代はないと思われます。

私としては、ボーグだけでなく、天体望遠鏡という存在を広く認知してもらいたい。高橋製作所、ビクセンなどなど、国産で優秀な望遠鏡がたくさんあることを知ってほしい。ボーグがその先鞭をつけることができればこんな嬉しいことはない、という思いで頑張っています。天体望遠鏡が売れれば、野鳥から天体に興味を持つ人も増えるはずと信じていますので、本当は業界を挙げて、このチャンスに新規ユーザー層の取り込みに注力すべきだと考えます。

まあ、理屈は抜きにしても、デジボーグは実に楽しいです。とにかく面白いです。ここ数か月の私の週末のデジボーグ率は100%。奈良にも欠かさず持って行きます。生活に潤いが生まれ、活動的、健康になるという大きなメリットがあります。私も血圧が高めだったのですが、デジボーグのお陰で相当血圧が下がりました。

天体観測は夜ですが、野鳥は昼間、生活のリズムを崩さず家族で楽しめ、旅行のついで、散歩のついでにも十分に楽しめますから、健康的で長続きできる趣味、天気に左右されない趣味として、今まで天体観測1本という方も、今日から始めてみることをお勧めします。近所の川や池や公園に思わぬ野鳥がいるかもしれませんよ。せっかく買った望遠鏡を有効に活かしてみませんか?

次回は、春でシーイングも良くなるので、一眼デジカメ+ボーグによる「誰でも簡単に撮れるシャープな月面写真」についてご案内したいと思います。ご期待ください。

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