Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2023年10月号掲載
いつでも誰でも宇宙に包まれるプラネタリウム

ある夏、ポーランドで開かれる「流星に関する国際学会」へ向かう夫に同伴して、ドイツのミュンヘンを経由した。数日の滞在中にドイツ博物館を見学し、そこで世界初のプラネタリウム投影機「カールツァイスI型」を見た。展示室から外れたちょっと広めの廊下のような場所(プラネタリウムドームへ向かうエントランス)の片隅で、円筒形のアクリルケースに納まっていた。同じドイツで生まれた活版印刷機の展示場がボリュームたっぷりなのに比べると少し寂しい感じだったが、そのゴツゴツとしたメカニカルな姿は静かにたたずんでいる職人のようだった。

そんなプラネタリウムの歴史から最新の情報、そして将来について、わかりやすく教えてくれるのが『プラネタリウムの疑問50』。疑問に答えるのは、プラネタリウムメーカーの社員や、日本各地のプラネタリウム施設で運営や解説に携わる多くのスタッフと団体。「プラネタリウムを作った目的は?」「ドームスクリーンの裏側は?」など設備についてはもちろん、「解説員に必要なスキルは?」「マニアックな楽しみ方は?」などプラネタリウムに関わる人間模様にもふれている。『星ナビ』読者の中には、観測や撮影を主活動にしてプラネタリウムにあまり足を運ばない(昔に行ったきりの)人もいるかもしれない。例えるなら、鉄道ファンに「撮り鉄」「乗り鉄」がいるようなものだが、たまには撮り鉄(天)が電車に乗る(プラネタリウムを鑑賞する)のも新鮮な発見があるかも、と思わせてくれる一冊。

『天文現象のきほん』は、前書の執筆メンバーでもある平塚市博物館学芸員が様々な天文現象のしくみや見どころを解説するガイドブック。見開き2ページの左側に現象の説明・チェックポイント・楽しみ方を、右側に写真・図・イラストなどのビジュアルを掲載。簡潔でありながら、初心者でもわかりやすいのは、万人を相手に解説するプラネタリウム解説員だからだろう。全編にわたり優しい語り口調で書かれており、著者の「多くの人に天文現象を楽しんでほしい」という愛情を感じる。

一方『宇宙Q&A』は、スタンフォード大学でロボット工学の博士号を取得しカリフォルニア工科大学で教員を務めたこともある人気マンガ家と、カリフォルニア大学アーヴァイン校の実験素粒子物理学教授のコンビが、宇宙の疑問に答えていく読み物。副題に「この世で一番わかりやすい」とあるが、実際はなかなか歯ごたえのある内容になっている。それでも、大人気のポッドキャストを配信している二人らしく、軽妙でユニークなトークは読む者を惹きつける。

『まるわかり空の図鑑』は厳密にいうと「天文」だけでなく「気象」の分野も扱っているが、空で見られる現象に関心がある人ならきっと楽しめる。著者自身が撮影した美しい雲やハロや星などの写真は、見ているだけでもワクワクする。そして、その現象がなぜ起こり、どうやって観察すればよいか図解を交えて教えてくれる。大気圏と宇宙で起こる現象を描いた、付録の「空MAP」がわかりやすい。

さて、「プラネタリウム」という名称が最初に登場するのは、1781年にオランダのアマチュア天文家・アイジンガーが自宅の天井に作った太陽系模型だ。惑星の動きを機械仕掛けで表した天体運行儀で、後に時計技師たちが製作したものが公的な場に設置されることもあった。いわゆる「天文時計」だ。『天体時計誕生秘話』は長年にわたり時計メーカーに勤め数々の天文ウォッチを生み出した著者が、自身の歩みと開発設計の秘話をつづったノンフィクション。わずか数センチという小さな円盤に超精密な天体表示を組み込み、しかも美しいデザインに仕上げる技には本当に感心する。この本はそんな貴重な技術の記録であり、カタログとしての価値を込めてカラーページも交え、著者自ら数量限定で書籍化した。彼が「時計機能よりも天文学の視点に立った天体表示面の設計に主力を注いだ」というアストロデア天体腕時計シリーズは、まさに盤上の宇宙だ。時計と共にこの書籍も、多くの天文ファンや時計ファンが手にして欲しい。

(紹介:原智子)