Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

星ナビ2021年3月号掲載
美しいものを見上げるとき

2020年は多くの人にとって、自由な行動を制限された年だった。自分と他人の命を守るためとはいえ、望むときに望むところに行って望むことができないのは、心と体を窮屈にさせる。そんなとき、天文ファンは「空を見上げる楽しさ」を知っているから、自宅の庭や窓から月や星を見上げて気持ちを和ませていただろう(一方で、皆既日食を見に行けない苦しさを感じた人もいただろうが)。美しいものを見て、もうしばらく心を落ち着かせよう。

『ハッブル・レガシー』は、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)打ち上げ30周年を記念して制作された宇宙写真集。これまでにHSTが撮影してきた多くの美しい写真を掲載するだけでなく、運用開始・保守・更新の歴史を語りながら、果たしてきた役割を伝えている。さらに、いずれ役割を終えるHSTの後継機についても触れており、まさに宇宙望遠鏡について綴った決定版だ。

次の2冊は、地球から見上げた空の本。『天空への願い』は『星ナビ』読者にお馴染みのKAGAYA氏による、宝石のような美しい星景写真集。月虹・オーロラ・グリーンフラッシュなど珍しい大気現象や、桜・花火・夜景とともに捉えた自然の風景が詰まっている。ファン垂涎の一冊。

『AURORA HAPPY』は“オーロラメッセンジャー”として活躍する中垣哲也氏が、これまで北米で撮影した写真のなかから「月とオーロラの共演」写真を選んだもの。普通はオーロラ観賞に行くなら月夜を避けがちだが、氏曰く「月光でオーロラの発色が良くなり相性が良い」。なるほど、そう聞くとオーロラの光が優しく見えてくる。

次の2冊は、美しい星空を楽しむためのガイドブック。その名もズバリ『美しい宇宙入門』は、近年話題の宇宙トピックスを紹介したり、基本的な天文情報を興味深い切り口で教えてくれたりするムック。大判の紙面に、最新の天体写真やわかりやすい図解が載っていて、天文初心者にお勧め。

そして、『沖縄の美ら星』もタイトル通り、沖縄の美しい星空を案内する本。著者の宮地竹史氏は元石垣島天文台所長で、これまで訪問者へ披露してきた星座解説や講演内容を中心に収めている。全21個の1等星と84の星座が見える沖縄の星空解説はもちろん、方言による天体名や琉球独自の伝説、天体にまつわる文化など、沖縄に暮らす人々の歴史も詰まっている。新型コロナウイルスが終息したら、この本を片手に沖縄の夜空と大地を散策したい。

最後は、イラストが美しい『満月珈琲店』。「満月バターのホットケーキ」「半月のワッフル」など、桜田千尋氏の描く創作メニューは見ているだけでも幸せな気持ちになる。SNSで話題になり、天文愛好家以外のファンも多い。望月麻衣氏の味わい深いストーリーが、イラストの世界をさらに輝かせている。『満月珈琲店の星詠み』は、満月珈琲店を舞台にした望月氏の物語に桜田氏の絵を添えた小説。2作目の『満月珈琲店の星詠み〜本当の願いごと〜』も2月9日に発売された。位置天文学や占星術でグレート・コンジャンクションが話題になった昨今、西洋占星術への注目も高まっているようだ。

みんなが、心穏やかに暮らせるよう願う。

(紹介:原智子)