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Book Review

金井三男金井三男さんによる書評

星ナビ星ナビ「月刊ほんナビ」に掲載の書評(原智子さん他)

編集部オンラインニュース編集部による書評

天文読書のすゝめ(星ナビ2010年3〜5月号掲載)

※書籍名、および表紙画像から、Amazon.co.jpの商品ページにリンクしています(一部商品をのぞく)。

2010年3月号

宇宙を味わう

現代の天文学の土台には、人と星が長い時間をかけて築き上げてきた密接な関係が存在している。宇宙を通して新しい世界を求めた人々の歴史は、どれをとってもドラマチックだ。

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『天地明察』(冲方丁/角川書店/1,890円)は、江戸時代の天文暦学者・渋川春海を主人公とした時代小説だ。算術に魅せられた若い春海が正確な暦の製作と改暦に情熱を燃やしていく過程を、暦のうんちくや小気味よい人間関係と絡めて書いている。軽妙な文体と人物の魅力的な描写で、算術や暦について詳しくなくとも十分に楽しめる。天地明察とは、北極星を中心とした天体の運行を正しく読み取り、正確な暦を作り上げる春海のプロジェクトそのものを指す。「地にあって日月星を見上げるしかない人間にとっては、天体観測と地理測量こそが、天と地を結ぶ目に見えぬ道であり、人間が天に触れ得る唯一のすべてである」――現代のアマチュア天文家たちにも通じる天文方のプライドをぜひ味わってほしい。

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言わずと知られた地動説の提唱者・コペルニクスの熱烈な賛美者であり、ただ一人の弟子とされる若き数学者・レティクスに焦点を当てたのが『コペルニクスの仕掛人』(デニス・ダニエルソン/田中靖夫 訳/東洋書林/3,360円)だ。彼がいなければコペルニクスの名は世に出ていなかったとまで筆者に言わしめたレティクスとはどのような人物だったのか? 数々の記録と文献からその答えが見えてくる。

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『暦と天文の古代中世史』(湯浅吉美/吉川弘文館/9,975円)は日本の中世の文献に記された天文現象の検証・考察をまとめた本。難解な印象を受けるが、それぞれの章末には当時の時代背景や、現代の用語に置き換えたわかりやすい解説が注釈として付いている。全体を斜め読みするだけでも、暦の雑学が頭の中に蓄積していく快感を味わうことができる。

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『ガリレオと地動説』(リチャード・パンシェク/大森充香 訳/丸善/2,940円)は、丸善が発行しているジュニアサイエンスシリーズの第2弾。ガリレオの生涯と地動説とのかかわりが子どもにもわかりやすい平易な言葉で語られる。特におすすめなのが随所に挿入されている「体験学習 ためしてみよう!」のコーナー。ガリレオのエピソードに絡めた25もの体験学習は「科学する心」を持つすべての人の気持ちに火をつける。

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『ほしにむすばれて』(文:谷川俊太郎/絵:えびなみつる/文研出版/1,365円)は、星が好きな少年が宇宙と人を愛する青年となり、娘に、そして孫に星空の魅力を語っていくというストーリーの絵本だ。えびなみつる氏の描く、成長していく少年と変わらぬ星空の情景が美しい。宇宙を心から楽しんでいる姿こそが、星空のすばらしさを何よりも雄弁に語るものなのかもしれない。

宇宙を観る

あの星はなんだろう? 好きな星座は見えている? 流星はいつ見たらいいの? あるときは初心者向けのアドバイザーとして、あるときはコアユーザーのパートナーとして、今夜もガイドブックはあなたのそばにいる。

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『宙のまにまに 天体観察「超」入門』(柏原麻実/講談社/859円)は昨年アニメ化もされた話題の天文部マンガ『宙のまにまに』の作者による書き下ろし。タイトルにたがわず、最初のステップは「さぁまずはカーテンをあけてお天気をチェック!」からスタートという、「超」初心者が初心者になるためのガイドブックといえる。

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初心者になったら、今度は『星空ウォッチング』(沼澤茂美・脇屋奈々代/新星出版社/1,470円)で観望派の扉をひらこう。春夏秋冬のおもな星座の成り立ちや神話もあわせて読むことができるので興味も倍増だ。南半球の星座も紹介しているので、あこがれの南半球に思いをはせるもよし、もちろん実際に南半球に持っていっても重宝するだろう。

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本誌の「今月の注目」でおなじみの浅田英夫氏著『星雲星団ベストガイド』(浅田英夫/地人書館/2,940円)は、望遠鏡・双眼鏡の“最初の1台”を買った人に最適の観望指南書。季節ごとの観望天体だけでなく、機材の買い方、選び方、ステップアップの手引きなど、初心者が知りたいひと通りの情報がすべて収められている。見開きで1つの対象を紹介しており、左ページに大きく見やすい写真と天体の解説、右ページには探し方と眼視での見え方、というパターンが繰り返される。光害地と山間部における見え方が、同じ視野サイズで並べられており比較できて便利。

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全天をカバーする『天体観測に役立つフィールド版星図』(西條善弘/誠文堂新光社/2,100円)は、もう一歩進んだ「アマチュア天文家」向け。8.5等以上の全ての恒星、バイエル名、NGC・IC天体、星座境界線など、観測に必要な情報がカラーでそろった「持っているとイザというとき安心」な1冊。

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冷却CCDで天体撮影に挑戦しようという人には『天体写真を撮るための冷却CCDカメラ テクニック講座』(岡野邦彦/誠文堂新光社/2,940円)をおすすめしたい。90年代初頭から冷却CCDによる天体撮像を開始した著者の経験をもとに、カメラの選び方から画像処理の基礎まで、実際の機材やソフトウェアを例に挙げて具体的な手順を解説している。銀塩ではなくデジタルカメラから天体写真に入った人を意識したという言葉通り、そこかしこでデジタルカメラとの比較を用いているのが新しい。

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まぶしいと敬遠されがちの月だが、光害が激しくとも小口径の機材でも観察でき、コンパクトデジタルカメラでも撮れるという手軽さが魅力である。『月の地形ウオッチングガイド』(白尾元理/誠文堂新光社/2,310円)は、さまざまな表情を見せる月面の見どころを余すことなく紹介しており、地形の成因からみる月の歴史までも丁寧に解説されている。地質学的な興味も満足させてくれる1冊。「かぐや」の撮影した月面写真と比べて眺めるのもおすすめだ。

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日本全国の星の伝承を収集している北尾浩一氏と、トカラ列島の中之島天文台台長を務める福澄孝博氏が、鹿児島における星の言い伝えをまとめたのが『ふるさと星事典』(北尾浩一・福澄孝博/南日本新聞開発センター/1,575円)だ。伝統的な道具や民謡の中に垣間見える天体との関係を知れば知るほど、日本全国、全世界の星と人とのつながりに興味がわいてくる。

宇宙を識る

宇宙とはいったい何だろう? 多くの人がこの疑問を発し、それに応えるべく星の数ほどの書籍が著されてきた。宇宙を理解するには、天文学的な話だけでなく、光の性質や重力、時間、空間のとらえ方などの物理学的な視点を知る必要がある。

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難しいと敬遠されがちな宇宙の成り立ちについては、どの本も読者の理解を得るために、それぞれ表現に工夫をこらしている。『宇宙がわかる』(石坂千春/技術評論社/1,869円)は、天体観察の基本から素粒子論や人間原理までを広く浅く紹介。『カラー図解 宇宙のしくみ』(福江純/日本実業出版社/1,680円)は話題が拡散しがちで全体像がつかみにくいが、豊富で鮮やかなビジュアルには目がひきつけられた。

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『眠れなくなる宇宙のはなし』(佐藤勝彦/宝島社/1,470円)は、宇宙物理学者の著者が身近な話題から話を宇宙に広げて、エッセイのような雰囲気が作り出されている。『娘と話す 宇宙ってなに?』(池内了/現代企画室/1,260円)は、小学生の娘と父親の会話形式で話が進む。「お話」から「科学」への橋渡しがスムーズで、自然と入り込める内容だった。

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『そこが知りたい 天文学』(福江純/日本評論社/1,995円)はこの5冊の中では最も難易度が高いのではと思われた。といっても高校で学ぶ程度の科学の素養があれば十分読み進められるレベルである。

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『たとえば、銀河がどら焼きだったら?』(布施哲治/日本評論社/1,522円)『地球が回っているって、ほんとう?』(布施哲治/くもん出版/1,260円)はともに、冥王星降格騒動の際に『なぜ、めい王星は惑星じゃないの?』で多くの迷える子どもたちを導いた布施哲治氏の著書である。どちらにも共通しているのが「身近なものにたとえていかにわかりやすくするか」である。単位や固有名詞はあとからついてくるもので、重要なのはまず頭の中にイメージを刻み込むこと。読み終えて目をつぶると浮かんでくるのは、2.3m離れてゆっくりと回転している薄めに作った直径10cmのどら焼きふたつ。パクリとかじれば甘いあんこの中から太陽系が顔をのぞかせる。

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大判の図鑑という体裁をとった、大きな絵と文字でとっつきやすい本がPHP研究所の『ビッグバンから137億年 宇宙の進化がわかる事典』『いちばん近くてふしぎな星 月の大研究』(いずれも監修:縣秀彦/PHP研究所/2,940円)

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反対に、子ども向けでありながら言葉による解説に多くのページを割き、最低限の図説でじっくりと読ませるのが『人類が生まれるための12の偶然』(眞淳平/監修:松井孝典/岩波書店/819円)。「人類誕生の条件」にスポットを当てることで、また違った面から宇宙の歴史が浮かび上がる。

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ここからは、研究者たちが携わっている最先端の天文学を垣間見ることのできる本を紹介していこう。『アインシュタインの望遠鏡』(エヴァリン・ゲイツ/野中香方子 訳/早川書房/2,625円)は、ダークエネルギーとダークマターに満ちた宇宙を、一般相対性理論を用いてどう解き明かそうとしているのかを本格的に、それでいてやさしく解説している。第1章は天文学者である著者自身の体験を通して、最先端の天文学の現場が緊張感をもって描き出されている。総論では一般相対性理論の基本から重力レンズ効果や赤方偏移へ読者を導いていく。400ページ以上の厚めの本だが、じっくり読んでいけば必ず宇宙の果てが見えてくる。

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高次元宇宙、ブレーン宇宙などの新しい概念が次々と誕生している。耳にしたことはあっても何のことだかさっぱり、という人には『目からウロコの宇宙論入門』(福江純/ミネルヴァ書房/2,520円)がよいだろう。宇宙の果てしなさに茫然としながらも、なおも解明しようとあがく人類の姿が見えてくる。前書に近いテーマを扱っているが、特に日本人研究者の成果に注目したという点で『宇宙の謎に挑むブレーンワールド』(白水徹也/化学同人/1,470円)もおさえておきたい。

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『宇宙137億年解読』(吉田直紀/東京大学出版会/2,520円)は、サブタイトルのとおりコンピュータシミュレーションによって築き上げられてきた最新の宇宙像を紹介している。最後に紹介される未来の宇宙像も興味深い。

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宇宙論といえばブラックホール抜きには語れない。さすがにもう「世界を飲み込む恐怖の大王」的な見方はされないが、その実体を正しく認識できている人は天文ファンでも多くはないのではないか。『ブラックホールを見る!』(嶺重慎/岩波書店/1,260円)でそのポテンシャルや宇宙の構造への関わりを勉強しておこう。

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『天の川銀河の地図をえがく』(郷田直輝/旬報社/1,575円)は、天文学者が挑む天の川銀河の謎について垣間見ることができる。宇宙論の解説と併せて、実際に行われた、あるいは行われている観測手法とその意義も紹介されているため、天文学の現場を知る意味でも読んでおきたい1冊。

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同じく天文学者の仕事模様を知ることのできるのが、兵庫県の西はりま天文台研究員・鳴沢真也氏による『望遠鏡でさがす宇宙人』(鳴沢真也/旬報社/1,575円)である。飛び交う情報やマスコミの取材にもまれながら、地球外知的生命からの信号をキャッチしようと信念をもって研究を進めていく様子が、全体を通して親しみやすい語り口でつづられている。同じ著者による、よりエッセイ色が濃くライトな『宇宙から来た72秒のシグナル』(鳴沢真也/ベストセラーズ/1,575円)も販売中だ。

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