小惑星の自転が加速、表面が飛び出して衛星に

【2008年7月17日 University of Maryland

衛星をもつ小惑星は150個以上知られている(2008年7月現在)。小惑星の衛星はどのようにしてできたのだろうか。小惑星の自転が加速して、やがて表面が分離して衛星ができるというシミュレーション結果が発表された。


(シミュレーション動画のひとコマ)

小惑星の自転が加速し衛星が形成されるシミュレーション動画のひとコマ(提供:University of Maryland)

小惑星が衛星をもつ例は数多く知られている。地球接近小惑星と直径10km以下のメインベルト小惑星のうち約15%もの小惑星に衛星があるとも推定されている。2体からなる小惑星はバイナリ小惑星と呼ばれているが、Kevin J. Walsh氏らは、バイナリ小惑星の形成過程にYORP効果(Yarkovsky-O'Keefe-Radzievskii-Paddack effect)が大きく関与していることを示すシミュレーション結果を発表した。

YORP効果とは、太陽から受ける光の圧力(太陽輻射圧)と天体から放射される熱のバランスが天体上の場所によって異なるときに、回転力を生じる効果として知られている。自転が加速して赤道付近が膨らんだ小惑星は、高速回転する空飛ぶ円盤を連想させることになぞらえて、「小惑星:空飛ぶ円盤の作り方(Asteroid: How to make a flying saucer)」という記事が2008年7月10日付の英科学誌『nature』に掲載された。

小惑星が衝突や惑星との接近遭遇によって破壊され、その破片の一部が重力で再集積した「ラブルパイル構造」をもつ小惑星は、小惑星の内部に空隙が多く存在するために密度が低い。Walsh氏らはこのラブルパイル構造をモデル化した。シミュレーションでは、YORP効果によって数百万年かけて自転が加速され、赤道付近に物質が集まっていくと、やがて集積していた破片が表面から分離して、周回軌道に投入され衛星が形成されるという過程が示された。

実際、サイズの小さな小惑星には、自転周期が短いものも長いものも存在する。Walsh氏らはそうした事実はYORP効果が作用している証拠であるとみている。シミュレーション結果はバイナリ小惑星1999 KW4の観測結果をもうまく説明できるという。

小惑星の自転が加速して赤道付近に物質が移動していれば、極付近には小惑星内部の物質が露出しているとも考えられる。小惑星からサンプルを持ち帰る探査計画(たとえば日欧共同のマルコポーロ計画)で極付近からサンプルを採取すれば、小惑星の表面を掘ることなく、始原的な物質を持ち帰ることができる可能性もある。

小惑星は、太陽系の成り立ちの探求だけでなく、地球防衛の観点からも重要だ。地球に迫ってくる小惑星の軌道をそらすには、地球接近小惑星の形状や構造の理解は欠かせない。地球上にもバイナリ小惑星が衝突したと思われる2つ穴のクレーターが見つかっているのだ。