重い星が死ぬと宇宙が汚れる、その様子が明らかに

【2008年3月25日 日本天文学会記者発表】

板垣さんが発見した超新星2006jcは、赤外線天文衛星あかり、そしてすばる望遠鏡をはじめとする日本の最先端の地上望遠鏡で観測され、さらに理論モデルも研究される注目の超新星だ。あかりの画像は、超新星爆発で宇宙塵がばらまかれていく現場を押さえた証拠写真と言える。


(銀河UGC 4904と超新星2006jcの画像)

銀河UGC 4904と超新星2006jc。(左上)2006年11月、すばる望遠鏡撮影。可視光で超新星はまだ明るい。(左下)2007年4月、すばる望遠鏡撮影。可視光で超新星はすでに暗い。(右下)2007年4月、あかり搭載の近・中間赤外線カメラで撮影。ダストが明るく写っている。クリックで拡大(記者発表のページより)

むかしむかし、宇宙は水素とヘリウムだけしかない貧しく清らかな世界であった。しかし今は、銀河や星や惑星や生命があり、豊かで汚ない宇宙になった。重い星が死ぬたびに宇宙が汚染されてきた結果だ。重い星の内部では何種類かの元素が作られ、その星が一生を終えて吹っ飛ぶとき、星の元素も宇宙へ散る。そしてその中のあるものは、固体微粒子=ダスト(宇宙塵)となって惑星や生命の材料物質になる。宇宙のあちこちで起こっているこのような超新星爆発によるダスト誕生のひとつの具体例を、赤外線天文衛星あかり、そして地上のすばる望遠鏡、マグナム望遠鏡、かなた望遠鏡、さらに観測事実を再現する理論モデルを用いて、日本の研究グループが明らかにしつつある。

研究対象となった超新星は、アマチュア天文家の板垣公一さんがやまねこ座の銀河UGC 4904に発見した超新星2006jcだ。超新星爆発の2か月後から可視光で急激に暗くなっていく様子は、国立天文台のすばる望遠鏡と、広島大学のかなた望遠鏡(口径1.5m)による観測で確認された。超新星爆発から約半年後の、超新星が可視光ですっかり暗くなったあとに赤外線天文衛星あかりで撮影した画像には、超新星が明るく大きく写っていた。これは超新星を取り囲むダストが赤外線で明るく輝いている様子をとらえたものだ。可視光で暗くなったのは、新たに誕生したダストが超新星の光を遮ったためであり、赤外線で明るいのは、ダストの熱放射をとらえたためである。

あかりで得られたデータと、近赤外線で観測した東京大学のマグナム望遠鏡(口径2m)で得られたデータ、さらにモデル計算から得られた結果をあわせて考察すると、ダストには約50℃の低温のダストと、約500℃の高温のダストの2種類があることが判明した。この2種類のダストは起源が異なると考えられる。

観測データを再現する理論モデルからは、この超新星の生前のシナリオが示された。超新星爆発前のこの星は、もともと太陽の40倍以上の質量をもつ重い星として誕生した。重い星というのは短命の明るい星であり、放射圧が強いため星を形作る物質はどんどん宇宙空間へ放出される。この星は超新星爆発を起こす直前には、太陽の7倍程度にまで軽くなっており、星から放出された炭素質のダストが星の周辺に薄く大きく拡がっていた。この低温のダストは中間赤外線を放射している。

一方、高温のダストは、超新星爆発で放出されたガスが衝撃波で拡がるにつれて冷えていくという過程において、炭素のガスが凝縮して炭素質のダストになったものと考えられる。低温のダストとは違い、超新星爆発の後に新たに誕生したダストなので、超新星に比較的近い場所にある。高温のダストは近赤外線を放射している。

研究成果を発表したのは、東京大学大学院理学系研究科の左近樹助教、冨永望研究員、北海道大学大学院理学院の野沢貴也研究員、広島大学宇宙科学センターの川端弘治助教らを中心とする研究グループ。2008年3月の日本天文学会春季年会で報告された。

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