「惑星定義」決定までの経緯と解説

【2006年8月30日 国立天文台 アストロ・トピックス(234)

8月24日に採択された惑星定義によって、冥王星の地位が「惑星」から「海王星以遠天体代表」へと変わり、各方面で大きな話題となっています。衛星の定義や和名表記など検討事項が残されているものの、1990年代に始まった議論はやっと決着したといえます。その経緯について、海王星以遠の天体が発見され始めた90年代から今日までを振り返ってみましょう。


(国際天文学連合総会の投票の様子)

国際天文学連合総会の投票の時の様子。クリックで拡大(提供:国際天文学連合)

これまで、どのような天体を「惑星」と呼ぶのかは、国際天文学連合(IAU)では定義されていませんでした。しかし、冥王星は「軌道が17度も傾き、大きく歪んでいる」「直径が水星の半分以下である」という点で、水星から海王星までの惑星とは違っていました。

観測技術の進歩により、1990年代から海王星以遠で様々な天体が発見され始め、冥王星を含めて、惑星の定義についての検討が始まりました。たとえば、1992年には冥王星軌道の外側に1992 QB1が、翌年にはさらに1993 FWが発見されました。現在では1000個を超えるこの種の天体は、トランス・ネプチュニアン天体またはエッジワース・カイパー・ベルト天体と呼ばれています。このような状況下で、冥王星は、海王星以遠にある多くの似たような天体のひとつなのではないかと考えられるようになります。

1990年代後半になると、冥王星を、小惑星の10000番に割り当てようとする提案などが、国際天文学連合内でなされるようになりました。国際天文学連合は、太陽系研究に関係するメンバー約500人から電子メールで意見を集めましたが、この時は大多数に支持される結論には至りませんでした。

2000年代に入り、海王星以遠の領域には次々と大型の天体が見つかり始めます。2000年には、冥王星の半分程度の直径を持つと予想される2000 WR106が、2001年にはさらに大きいと思われる2001 KX76が発見されました。そして2005年7月29日、ついに、冥王星より大きいと考えられる2003 UB313の発見が発表されたのです。同時に、2003 EL61および2005 FY9という、やはり冥王星に近い大きさを持つ天体の発見も報告されました。これらの発見によって「惑星とはなにか」という議論が再燃することになります。

2年近い討議と特別委員会での検討がなされ、今年、3年に1度開かれる国際天文学連合の総会で、惑星の定義についての決議が行われました。総会の初めに提出された案では、惑星とは「じゅうぶん大きな質量を持つために自己重力が固体としての力よりも勝る結果、重力平衡形状(ほぼ球状)を持ち」「恒星の周りを回り」「恒星でも、また、惑星の衛星でもない」天体、と定義されました。また、惑星をclassical planetとdwarf planetに分けました。この定義に従えば、水星から海王星までの8つがclassical planet、冥王星・セレス(ケレス)・カロン・2003 UB313がdwarf planetです。惑星は合計で12個になり、dwarf planetは今後も増え続けることが予想されました。しかし、この案には多くの批判があり、「軌道の側面や天体力学的な側面からの定義をすべき」など、様々な意見が出されました。

結局、定義案は1つにはまとまらず、案を4分割してそれぞれ別々に採決することになりました。その結果、下記のような惑星の定義が採択されたのです。

  • 1. 太陽系の惑星とは、「太陽の周りを回り」「じゅうぶん大きな質量を持つために自己重力が固体としての力よりも勝る結果、重力平衡形状(ほぼ球状)を持ち」「その周囲から(衛星を除く)他の天体を排除した」天体である。
  • 2. 太陽系のdwarf planetとは、「太陽の周りを回り」「じゅうぶん大きな質量を持つために自己重力が固体としての力よりも勝る結果、重力平衡形状(ほぼ球状)を持ち」「その周囲から他の天体を排除しきれていない」「衛星でない」天体である。
  • 3. 太陽の周りを公転する、衛星を除いた、上記以外の他のすべての天体は、Small Solar System Bodiesと総称する。

なお、衛星の定義は今後、国際天文学連合で検討することになっています。冥王星・セレス・2003 UB313はdwarf planetですが、dwarf planetは惑星ではありません。また、dwarf planetやSmall Solar System Bodiesをどのような日本語に訳すのかは、現時点では決まっていません。