【特集・太陽系再編】(2)惑星は増え続けるか

【2006年8月19日 アストロアーツ】

今回提案された「惑星の定義」の1つは、「自分の重力で丸くなるほど大きな天体」というものでした。この定義によって、惑星に含まれる天体の数は急激に増えると予想されます。すでに発表された12個の「惑星」に加えて、12個の天体が「惑星候補」として挙げられているのです。


候補乱立

(12個の惑星候補、想像図)

12個の惑星候補。地球を含めた縮尺は正しいが、模様はイメージである。クリックで拡大(提供:The International Astronomical Union/Martin Kornmesser)

国際天文学連合(IAU)が示した原案がそのまま採決されて、「惑星の定義」が正式に決まったとしましょう。天文学者たちが繰り返してきた「惑星か、惑星でないか」という議論は、ついに収まるのでしょうか。

いいえ、彼らが本当に忙しくなるのは、これからです。

図は、原案の中で「惑星だ」とされた12個の天体以外に、「惑星かもしれない」と指摘された12個の候補です。新しい定義が採決されてから、順次議論の対象となります。当然、新天体の発見とともに候補は増えていくと考えられます。冥王星1つで悩んでいた頃がなつかしく思えるかもしれません。

右下3つは、火星と木星の間の軌道を回る小惑星(メインベルト小惑星)で直径が500キロメートル前後の天体です。メインベルト小惑星の中でVesta(ベスタ)が3位、Pallas(パラス)が2位、Hygiea(ヒギエア)が4位の大きさを持ちます。1位のセレスはすでに原案の中で惑星に「昇格」しています。

残りは、すべて冥王星付近またはさらに遠い軌道を回る「エッジワース・カイパーベルト天体」と呼ばれる天体です。これらについては、特集の第4回で詳しく見ていくことにしましょう。

数もさることながら、1つ1つの候補を惑星かどうか判断するのも、簡単なことではありません。

惑星になりたければ、もろくなれ?

球状の天体、大きくていびつになれない天体、小さいのでいびつになる天体

IAUで提案されたところによれば、惑星と惑星でない天体の違いは「十分な質量を持つために自己重力が固体としての力よりも勝る結果、ほとんど球状の形を持」っているかどうかです(恒星の周りを回っているなど、その他の条件は満たしているとします)。大きさではないのです。まずはこの意味を考えてみましょう。

砂場で高い山を作ろうとして、崩れてしまった経験をお持ちの方は多いことでしょう。砂粒どうしに働く力が弱いので、全体として地球の重力に負けて押しつぶされてしまうのです。海岸で水の混じった砂を使えば、もう少し高い山が作れますし、城をつくることだってできます。水が存在することで砂粒どうしの結びつきが強くなったからです。ぬれた砂よりも粘土、粘土よりも岩石の方が固く、そのため高い山を作れるでしょう。これらはすべて、小さな粒が強い力で結びついて外からの力(重力など)に逆らっている物質だと考えることができます。この「強い力」が、「固体としての力」です。

さて、地球が重力を持っているように、あらゆる天体は自分の重心に向かって物を引き寄せる重力を持っています。ただし、重力の強さは自分の質量に比例します。つまり、とても小さな天体の上では、地球上で作るよりも高い山が作れます。天体が十分に小さければ、その形をいびつにしてしまうこともできるわけです。

「いびつでない形」とは何でしょう。それは山がなく、すべての地面が同じ高さ(=重心から同じ距離)にある状態、つまり球です。地球では、材料である岩石の「固体としての力」が重力に負けてしまい、ほとんど丸くなっています(ただし自転による遠心力で、赤道方向に少しふくらんでいます)。

つまり、惑星であるか惑星でないかは、その天体の上で、自身の形を球から変えてしまうほど高い山を作れるか、にかかっています。しかし考えてみれば、砂よりも粘土、粘土よりも岩石の方が高い山を作れるはずです。そう、固い材料でできた天体の方が、いびつになりやすいのです。

ガスでできた巨大惑星を別にしても、太陽系の天体はいろいろな材料でできています。地球やメインベルト小惑星は岩石と金属でできていますし、冥王星などのエッジワース・カイパーベルト天体は氷でできています。また、日本の探査機「はやぶさ」が調べた小惑星「イトカワ」は、小さな岩石が寄せ集まった「がれきのかたまり」でした。岩石と氷では「固体としての力」が違いますし、1枚の岩石と岩石の寄せ集めでも、1つの物体として見た「固体としての力」はまったく違うはずです。ひょっとすると、将来他の惑星よりも大きいのに惑星と認められない天体が登場するかもしれません。

天命を尽くして人事を待つ

(ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した冥王星)

ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した冥王星の実際の写真(左上)と画像処理で得られた高解像度の「地図」。クリックで拡大(提供:Alan Stern (Southwest Research Institute), Marc Buie (Lowell Observatory), NASA and ESA )

さて、勘の鋭い方はすでに「どれだけ高い山があればいびつと言えて、どれだけ平らなら球状だと言えるんだ」とお考えのことでしょう。実は、IAUの提示した原案には明確な基準が示されていません。いびつな天体と丸い天体をどう分けるかによって、12個の候補の運命も大きく変わってくるでしょう。例えば、候補の1つ「ベスタ」は巨大なクレーターを持ち、ややつぶれた形をしていることが、ハッブル宇宙望遠鏡の観測から明らかにされています。

基準が定められたとしても、今度は実際に丸いかどうかを観測してみなければわかりません。IAUは5兆トンのさらに10万倍という質量、そして800キロメートルほどの直径があれば丸くなるだろうとしていますが、境界線上にいる天体は見てみなければわかりません。特に、エッジワース・カイパーベルト天体の観測は困難を伴うでしょう。地球から一番大きく見える冥王星でさえ、写真のような解像度がやっとです。

基準を提案した検討委員の一人は、「私たちは重力を基準に選びました。天体が惑星であるかどうかは、自然の法則が決めるのです」と語っています。しかし、惑星をどう定義したとしても、自然の法則がするのは天体を作ることだけであり、惑星かどうかを決定するのは私たち人類に他ならないと言えるでしょう。


※この特集は、IAUが発表した文書を元にした解説です。「惑星の定義」はまだ原案であり、24日に行われる採決の際は変更されている可能性があります。