宇宙で最初の銀河たちは、自滅した

【2006年5月31日 Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics

現在は巨大銀河の時代と言うことができる。われわれの天の川銀河も、約2000億個の星からなる巨大な集団だ。しかし、宇宙の歴史が始まってから誕生した「第一世代」の銀河は、ひじょうに小さなものだったという。「大きな銀河」が「小さな銀河」に取って代わるまで数億年しかかからず、しかもその原因は「小さな銀河」が自分たちでまいた種にあったようだ。


(初期銀河のイメージ図)

宇宙初期の小銀河(イメージ図)。銀河は青白い高温の星からなり、周囲には暖められた水素(赤)が広がっている。クリックで拡大(提供:David A. Aguilar (CfA))

140億年近く昔にビッグバンが起きた直後は、宇宙は高温の電離物質で満たされていた。つまり、水素やヘリウムの原子は電子とイオンに分かれていたのである。やがて宇宙が広がって冷えてくるにつれ、電子とイオンが結びつき原子が誕生、邪魔をされにくくなったことにより光が直進できるようになる。これが「宇宙の晴れ上がり」と呼ばれる時期だ。ところがこれは「晴れ上がり」であると同時に夜のとばりが下りた瞬間でもあった。中性水素(電離していない水素原子)からはほとんど放射がないため、この時期に起きたことをうかがい知るのは難しい。天文学者の間で俗に「暗黒時代」と呼ばれる時期が続く。

暗黒時代は第一世代の恒星によって終えんを迎えた。星が放射する紫外線によって、中性水素は再び電子とイオンへと電離したのだ。この時期は「再電離期」と呼ばれ、宇宙年齢数億年の間に起きた。

「このとき、スープのように混とんとした原始宇宙が、現在私たちが観測している豊かに分化した物質の世界へ発展したのです。だからこそ、この時期について調べたいのです」と語るのは、ハーバード・スミソニアン天体物理学センターのAvi Loeb氏だ。Loeb氏らは暗黒時代に生まれた恒星と銀河について研究を行っている。それによれば、暗黒時代の銀河は、太陽質量の1億倍程度の質量を持つ銀河が多かった。しかし、再電離期の後は、天の川銀河のように太陽質量の1000億倍以上の銀河が宇宙の主役となった。

鍵を握るのは、銀河の元となるガスの温度だ。冷えたガスは、すぐにまとまって星になる。しかし、第一世代の恒星からの光はガスを電離させるだけでなく、ガスを暖める役割も果たした。高温になってしまったガスを引きつけるには、銀河の「タネ」はもっと大きく重くなければならなくなったのだ。

第一世代の銀河は自殺的行為を行ったことになるが、それでは巨大銀河への世代交代はいつごろ起きたのだろうか。Loeb氏はメルボルン大学のStuart Wyithe氏らと共に、観測によってその時期に迫った。氏らが観測したのは、130億光年もの彼方にある、いくつかのクエーサーだ。クエーサーの光が途中でガスによる吸収を受ければ、スペクトルに変化が見られる。ガスがあるということは、すぐ近くに銀河があることを示唆する。

さて、もし宇宙に存在する銀河の1個あたりの質量が小さく、数が多ければ、あらゆる方向から来るクエーサーの光は均一であるはずだ。逆に、少数で大きい銀河が散らばっていれば、クエーサーが受ける吸収はまちまちとなるはずである。この方法で昔の銀河の分布を探った結果は、後者であった。つまり、宇宙が誕生して数億年たった頃はすでに巨大銀河の時代だったのだ。

Wyithe氏は今回の観測をこう例えた。「人々がしゃべっている部屋の中にいると想像してください。人がまばらなら、聞こえてくる声は方向によって大きさが違うでしょう。一方、混んだ部屋なら同じ大きさの音が四方から届くはずです。」

いみじくもWyithe氏が「声を聞いた」と述べたように、第一世代の銀河を直接観測するのはひじょうに困難だ。それでも、多くの天文学者が新世代の望遠鏡に期待を寄せている。はるか彼方の水素ガスから届く電波を検出できる電波望遠鏡や、宇宙初期の銀河を直接撮像できる赤外線望遠鏡が登場すれば、彼らは「暗黒時代」に光を当てることができるだろう。