渦巻く金星大気の観測がはじまった

【2006年5月9日 ESA News

金星は、約243日もかけてゆっくりと自転しているが、一方でその厚い大気は猛烈な勢いで表面を移動していることが知られている。それを象徴するかのような巨大な渦は、金星に到着したばかりのESAの探査機、ビーナス・エクスプレスが撮影した南極付近の画像。今後ビーナス・エクスプレスは様々な機器を用いて、金星を包む奇妙な大気の謎に迫る予定だ。


VIRTIS分光器による金星の南半球の画像 金星の南半球の紫外線画像

(上)VIRTISによる金星の南半球の画像(擬似カラー)(提供:ESA/INAF-IASF, Rome, Italy, and Observatoire de Paris, France)、(下)VMCによる金星の南半球の紫外線画像(擬似カラー)。(提供:ESA/MPS, Katlenburg-Lindau, Germany)いずれも、クリックで拡大

ビーナス・エクスプレスとは、日本語に訳せば「急行・金星号」。姉妹プロジェクトであるマーズ・エクスプレスと同じ仕様の衛星を用いることで、その名の通り計画から打ち上げまでの過程を短期間で、しかも安く実現した。2005年11月9日に打ち上げられたこの急行便は、4億キロメートル離れた目的地である金星にノンストップで向かい、今年の4月11日に到着した。もちろん、探査機の仕事が本番を迎えるのはここからだが、早くも12日には誰も見たことがない金星の画像を撮影した。

金星への到着を受け、ビーナス・エクスプレスの技術者たちは一刻も無駄にすることなくVMC(金星カメラ)とVIRTIS(紫外・可視光・近赤外分光計)を作動させた。このうちVIRTISが撮影したのが、今回公開された画像だ(右、上側の画像)。立ち上げたばかりとあって画像の解像度は低く、軌道もまだ遷移中なので金星からの距離は206,452キロメートルと遠い。それでもなお、科学者の目を引きつけるに十分な情報がそこには詰まっていた。

金星の南極を中心として、左が金星の昼側、右が夜側をそれぞれ撮影した画像だ。左側は、いくつかの波長の画像を合成した物で、主に金星大気の上層(表面から65キロメートル以上の高さ)の雲が反射した太陽光をとらえている。

一方、右側は波長1.7ミクロンの赤外線画像を疑似カラーで表示したもので、主に大気の下層(表面から55キロメートル以下の高さ)が見える。巨大な渦の存在が一目瞭然だ。赤外線は大気に吸収されるので、色が暗いのは雲が厚く、明るいのは雲が薄いことに相当する。

「到着翌日にして、高温でダイナミックな金星の環境を実感できました」とビーナス・エクスプレス計画の科学者 Hakan Svedhem博士は語る。そして今後の探査については、「これから金星に接近することで、解像度は今の100倍になり、今までにないくらい詳しく観測できることでしょう。また、渦構造もかなり速く変化を示すだろうと思います」と期待を寄せる。

現在探査機は、金星からの最近距離250キロメートル、最遠距離66,000キロメートルで24時間周期の楕円軌道をまわり、予定通り探査を行うべく着々と準備が進められている。VMCVIRTISに続き、MAG(磁力計)とASPERA(宇宙プラズマ・高エネルギー粒子分析器)が立ち上がり、太陽風が金星大気に及ぼす影響を探ろうとしている。地球とは違って金星には太陽風から表面を守る磁場がないため、大気が宇宙空間へ逃げ出すプロセスが進行していると考えられているからだ。

ビーナス・エクスプレスには他にもいくつか観測機器が搭載されていて、金星を包む「厚いベール」そのものを調べるべく、500日近いミッションが始まっている。


金星の大気の上層では、秒速100mもの強風が東から西へ吹いています。金星を100時間弱で1周してしまうほどの速さです。さまざまな探査機が行った紫外線画像からは、大気のダイナミックな動きがわかります。(「太陽系ビジュアルブック」(金星 - 高温と高圧の世界)より一部抜粋)