「はやぶさ」世界に先駆けた画期的な観測結果
4日のリハーサル降下は中止へ

【2005年11月4日 宇宙航空研究開発機構 プレスリリース2005宇宙航空研究開発機構 ホット トピックス

今年9月12日小惑星「イトカワ」に到着し、観測を進めてきた「はやぶさ」のイトカワの近傍観測の成果が我が国が行った初の本格的な太陽系天体探査の成果として発表された。観測結果は、「はやぶさ」以前の小天体観を根底から改めるものといえるもので、各国に先駆けて最新技術を駆使した、世界的にも画期的な観測結果が得られている。一方、11月4日にイトカワへの降下のリハーサルが予定されていたが、異常が検知されたため、ミネルバ放出、ターゲットマーカ放出ともに本日中止の旨が発表された。


世界に先駆けた画期的な観測結果

「はやぶさ」は、イトカワの科学的な探査の他に、将来の本格的なサンプルリターン探査で最も重要な技術を実証することを目的とした工学実験衛星(探査機)だ。1)イオンエンジンでの惑星間航行、2)それを地球スウィングバイと組み合わせる新しい航行技法、3)光学情報にもとづく自律的な誘導・航法、4)微小重力下での試料採取法、5)惑星間軌道からの直接再突入による試料回収の計5つが主な実証課題と掲げ計画が進められてきた。そのうち第3番目の実証までは計画通りに成果が上がっている。

(MUSES-SEA域:着陸・試料採取候補点Aと、露出した岩肌、岩塊と窪み、クレーターの画像) (はやぶさが捉えたイトカワの +90度面 の画像)

(上)MUSES-SEA域:着陸・試料採取候補点Aと、露出した岩肌、岩塊と窪み、クレーターの画像。(下)はやぶさが捉えたイトカワの +90度面 の画像。ともにクリックで拡大(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

この成果の中で、とくにイトカワ到着については、新型イオンエンジンを延べ26000時間・台運転し、光学航法をほぼ完璧に実施し、小惑星近傍で精密な探査機位置の誘導制御を行ってきたことは、特筆されるべき成果だ。実際、各国宇宙機関が目指す最新の惑星探査技術が当面目標としているのは、高性能推進機関による航行、探査対象天体へのランデブー、往復飛行の3つの実施だ。「はやぶさ」は、今回、各国の探査計画にさきがけて、このうちの2大目標までを達成した。地球圏外天体からの試料採取と帰還(アポロ有人飛行船による月の資料以外)についても、歴史上いまだ実施されたことはなく、かつランデブーを経ての試料片の採取と帰還は、「はやぶさ」が今回挑戦する計画が文字通り史上初となる。我が国の深宇宙探査技術は、世界的なレベルに達し、また一部それを超えたということができ、世界的にも、太陽系探査に新しいページを拓くものといえる。

一方、科学観測面では、搭載された4つの機器すべてによる観測に成功している。可視光多波長カメラではこれまでに 1500枚(約1GB)の撮像を行い、近赤外分光器では 75000点、レーザ高度計では約 140万点の計測を、イトカワの全表面に実施するとともに、X線分光器にて、延べ 700時間の積分観測を達成した。とくに、高精細画像と近赤外分光観測、また探査機の航法データについて大きな科学的成果が達成された。

まず、イトカワの地形について、均質であろうとの理論的な予想を完全に覆し、きわめて多様で、表面状態の二分性や、多数の大型岩塊の広範な分布を示しており、レゴリス(表面の砂礫層)に覆われていない天体表面を史上初めて露わにした。また、搭載科学観測機器が計画通り機能したことで、すでに試料採取予定域の詳細観測結果が得られている。これで、分光観測と構成物質の相関を確立するというサンプルリターン計画の主目標にむけて、準備段階を終了したということがいえる。また、取得した画像と探査機の航法情報を組み合わせることで、イトカワの形状モデルの構築にも成功している。これにより、世界的にも未開拓な、小型天体上の極低重力環境下での、岩塊の分布やレゴリスの重力に応じた移動に関わるメカニズムの解明が進められている。

さらに、探査機搭載のレーザ高度計や、光学航法カメラ、および地上局で取得される距離、視線方向速度の計測値を用いて、イトカワの質量、密度推定に成功している。推定された密度は、地球上の岩石やこれまでに観測されたS型小惑星のそれらよりもやや小さく、2.3 +/- 0.3 程度と、これは従来考えられてきたよりも大きな空隙の存在を示唆するもので、イトカワほどの小天体の姿に関する認識を大きく改めさせるものとなっている。


降下のGOサインは、おあずけ

10月27日の発表通り、4日午前4時から開始されていた「はやぶさ」のリハーサル降下は、異常が検知されたため中止となった。「イトカワ」まであと1kmにせまった「はやぶさ」に残念ながら今日のGOサインは出なかった。

(降下中のはやぶさが捉えたイトカワの画像)

11月4日 降下中のはやぶさが捉えたイトカワの画像。クリックで拡大(提供:宇宙航空研究開発機構(JAXA))

リハーサル降下に関する映像は、午前10時から開始されたインターネットによるライブ中継「Hayabusa Live」で公開された。午前8時45分の時点では、「はやぶさ」はイトカワまでの距離1700mを順調に降下中であった。続いて、管制室の画像が現れ、「はやぶさ」から届いたばかりのイトカワの最新画像が公開された。さらに午前10時50分、「はやぶさ」と「イトカワ」との距離が約1kmに迫るなか、午前11時過ぎに1枚、11時40分にも1枚と次々に最新画像が公開された。

しかし、その後同ライブ中継ページで今日の降下中止が発表された。「イトカワ」まであと1kmにせまり、降下目前にした「はやぶさ」に異常が検知され、今日の中止となったのだ。異常箇所の詳細や今後の日程などは、まだ発表されていないが、世界初のサンプル・リターン計画の今後に注目したい。


日本の小惑星探査機「はやぶさ」は、小惑星にランデブーし、サンプルを回収して地球に持ち帰るほか、工学実験衛星(探査機)という面も持っている。その先進的な実験の要素のなかで、もっとも大きなものはイオンエンジンの実用化だ。「はやぶさ」に搭載されたイオンエンジンとは、「電気推進(ロケット)」の一種。推進剤を揮発させ、静電気を帯びさせる。イオン化された粒子を電気(電場)の力で高速に加速、噴射する。長時間の連続噴射が可能で、アメリカやヨーロッパも競ってこの技術の実用化にチャレンジしている。(「スペースガイド 宇宙年鑑2005」より一部抜粋)

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