ヘリウム 3 の観測から明らかになった初期宇宙の物質量
宇宙にはやっぱり「見える物質」が足りない

【2002 年 1 月 10 日 NRAO Press Releases

NRAO(アメリカ国立電波天文台)の電波望遠鏡を使って天の川銀河系内のヘリウム 3 の量を調査していた研究者等のグループは、その結果からビッグバンで作られた物質の量を計算で求めた。そして、その量は観測されている重力を生み出すには不十分であることが改めて確認された。

(NRAO の 43m 電波望遠鏡の写真)

140 フィート(43m)電波望遠鏡(写真提供:NRAO)

ビッグバンの直後、陽子や中性子が結合して水素やヘリウム 3、ヘリウム 4 といったごく基本的な元素が合成されたと考えられている。こういった基本となる元素の割合が現在どうなっているかを精密に測定すれば、宇宙が始まったほんの数分後にどのくらいの物質が作られたのか推測することができるのだ。

バージニア大学の Robert Rood 氏は 1978 年から天の川銀河系内に分布するヘリウム 3 の量の測定を開始した。測定は、イオン化したヘリウム 3 から放射される 8.665 ギガヘルツの電波を観測しておこなわれた。当時はヘリウム 3 は太陽のような恒星内での核融合反応によって合成されると考えられていたが、彼の観測結果ではモデルで予測される量よりもずっと少ない量しか検出されなかった。さらに 20 年以上の観測を続け、銀河系内に存在するヘリウム 3 の(水素に対する)割合はどこでも一定であることがわかった。

場所によらず割合が同じという結果は二つの重要な意味を含んでいる。一つは、恒星内部の元素合成がほとんどヘリウム 3 の量に影響を与えていないので、太陽のような星の内部の元素合成について考え直す必要があるかもしれないということ、もう一つは、ヘリウム 3 の割合がビッグバンの時からほとんど変わっていないだろうということである。

割合がほぼ一定であるということを利用して時間をさかのぼって逆に計算していけば、ビッグバン直後に形成された普通の物質(陽子と中性子を含む物質)の量を求めることができる。こうして得られた結果として、他の研究でも示されているように、電磁波で観測されている物質だけでは宇宙の構造を維持するのに必要な重力を生み出すことはできないということが改めて確認されたのだ。

重力を及ぼしてはいるが電磁波で観測できない物質をダークマター(暗黒物質)と呼ぶが、その中には大きく分けて「陽子や中性子からできているが、単に暗い(放射している電磁波が弱い)から見えない」ものと「そもそも電磁波を放射しない」ものの 2 タイプが考えられている。今回の結果は、電磁波を放射しないタイプのダークマターが非常に多いということを示唆しているのかもしれない。

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