ジェミニ望遠鏡での観測によって深まった M87 銀河中心部の謎

【2001年11月5日 Gemini Press Release(10 月 29 日)】

ハワイにあるジェミニ北望遠鏡が中間赤外線波長で撮影した M87 銀河の中心部にトーラス構造が見えなかったことで天文学者たちは頭を抱えている。天文学の理論によれば、M87 の中心にあると考えられている巨大ブラックホールの周りにはそういった構造があるはずなのだ。ジェミニの能力をもってすれば簡単に見つかるはずだし、事実他の似たような銀河には見つかっているのに、一体なぜだろう?

M87 銀河中心部の想像図。中心にブラックホールがあり、周りには円盤(ディスク)、垂直方向にはジェット構造がある。トーラス構造が見えないことが大きな謎となっている(写真提供:Gemini Observatory、左上のはめ込み写真は HST による)

この銀河が変わっていることは、すでに HST(ハッブル宇宙望遠鏡)による可視光での高解像度の観測で示唆されていた。ジェミニ望遠鏡のデータは、これをさらに詳しくするものである。「M87 のような活動的な銀河の中心に関して我々は実際どれくらいのことを知っているのか、理論学者たちはきっと考えてしまうだろうな」と、メリーランド大学 Eric Perlman 博士は語っている。

「他の似たような銀河には核の周囲に大量の温かい塵が見つかっていて、中心ブラックホールのエネルギーになっている。しかし M87 にはそれが見つからなかった。M87 のエネルギー源を生み出しているのは一体何なのか探し直さなくては」とは Johns Hopkins 大学の理論学者 Julian Krolik 博士の言葉である。

 

Gemini 望遠鏡が中間赤外線の波長で撮影した M87 銀河。右上に伸びているのはジェット構造(写真提供:Gemini Observatory / OSCIR)

M87 という名前で知られているこの銀河は、中心から高エネルギージェットが噴出していることで有名である。5000 万光年離れているものの、このタイプの銀河としては最も近いものの一つで、そのため非常に詳しく研究されている。HST の観測から中心にブラックホールがあることがわかった。太陽系ほどの大きさの領域に星 30 億個分の質量がつまっているのだ。

核の部分から強烈な放射を放っている銀河は AGN(活動銀河核)と呼ばれる。学者たちは、中心からの強い赤外線放射はブラックホールの周りにある塵のトーラス(ドーナツ状の形)によって生み出されているに違いないと長い間思ってきた。塵のトーラスが、ブラックホールに落ち込む直前の超高温に温められた物質からの高エネルギー放射を吸収し、赤外線の波長で再放射するのだ。

HST が以前に可視光で撮影した高解像度の写真には、ブラックホールの周りを回る高温ガスのディスクや薄いフィラメント状の塵が写っていたが、他の AGN の観測から示唆されるような大量のものではなかった。トーラスを探すために最新の赤外線検出器をジェミニのような大きな望遠鏡に取り付けた観測が行われた。M87 の観測としては中間赤外線の波長ではこれまでの約 10 倍も深い(暗いところまで見える)ものなのだ。M87 のブラックホールの巨大さ、銀河の近さ、それに望遠鏡と検出器の性能、これらをもってすれば AGN のトーラス領域が分解できるはずだった。

「予想に反してトーラス構造も見えなかったし明るい熱放射も検出できなかったんだ。M87 のトーラスは極めて暗いということだ。個人的な考えだが、これは単に、我々が思っている以上にいろいろなタイプがあるというだけのことだと思う」と Perlman は述べており、さらなる観測を試みている。

なお、リリース元のサイトでは、他の望遠鏡が撮影した異なる波長でのジェットの写真や、flash によるブラックホール周辺の想像図なども見られる。

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