世界一の星空を護りたい NZテカポからの報告

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【2012年7月23日 アストロアーツ】

美しい星空で知られるニュージーランドのレイク・テカポ。開発計画が進められようとしているこの町が先月、夜の明かりの増加に警鐘を鳴らす国際団体から「星空保護区」として認定された。現地で星空ガイドをするかたわら、星空保護のための活動を行っている小澤英之さんから報告が届いた。


レイク・テカポの位置

レイク・テカポの位置。ニュージーランド南島のアオラキ・マッケンジー盆地にある。クリックで拡大(提供:IDAウェブサイトより)

レイク・テカポ周辺

レイク・テカポ周辺。左に湖畔の村、右にマウント・ジョン天文台が見える。クリックで拡大((c) Maki Yanagimachi/Earth & Sky Ltd.)

テカポの星空と星空保護区認定トロフィー

レイク・テカポを含むアオラキ・マッケンジーが、国際ダークスカイ協会の星空保護区として認定され、星空会議で認定式が行われた。左はトロフィー。クリックで拡大((c) 2012 Geoff Cloake)

星空鑑賞ツアーの様子

美しい星空を見に、日本など世界中から多くの人が訪れる。クリックで拡大((c) Maki Yanagimachi/Earth & Sky Ltd./Mt. John University Observatory)

文:小澤英之さん

ニュージーランド南島に、人口300人ほどのレイク・テカポという町があります。周りを山でかこまれたマッケンジー盆地の中央にあり、近くにあるマウントジョンの頂には南緯44°に位置する天文台があります。テカポは夜空が暗く、星が綺麗に見えることで知られてきましたが、10年程前から進められている町の開発計画によって、その環境を保てるかの瀬戸際に立っています。

そんな中、今年6月10日から13日まで、第3回目となる「国際星空会議」(International Starlight Conference)がテカポで開かれました。世界中から天文台関係者や暗い環境を保つ活動をしている人々が集まり、星が見える暗い環境の大切さが話しあわれました。夜の暗さというものは天文関係に携わる人にとどまらず、人類や地球上の他の生物にとってもとても大切なものであるということなどが発表されました。

スペインのカナリ−諸島にある天文台からの参加者は、どれくらい夜空が良い状態であるかを、空の暗さ、シーイング、透明度、雲の量の4項目に分けて定期的に観測しているとのこと。これまでテカポでは、一定の方法で長期間にわたる観測を行っていないので、大変参考になる話が聞けました。

また、ハワイのマウナケア天文台群でエンジニアをしている人からは、低圧ナトリウム灯に変わる低コストの照明の紹介がありました。青色部分の光を抑えたフィルターを取り付けるというものですが、ナトリウム灯と違って明かりの下でも色がわかります。このようなフィルターが街灯や車のヘッドライトに使用されるようになれば、夜空をこれまでのように明るくしないですむかもしれません。

アメリカからの参加者からは、夜が明るくなることの影響が地球に暮らす他の生き物にも及んでいるとの報告がありました。例えばフロリダでは、夜間に孵化したウミガメの子供が星や月明かりで輝く海へ向かうはずなのに、ネオンや街灯で自然の光よりも明るく輝いている市街地の方へ間違って向かってしまう、というものです。また、渡り鳥への影響も大きく、夜間、高層ビルの明かりのついている窓へ飛び込んでしまう鳥が多くいるようです。調査をした1都市だけでも数百羽が毎年命を落としています。

人間の健康についても興味深い話がありました。まだ検証中ということでしたが、青色の光は人間の健康へ悪影響があるらしい、というものです。紫外線による悪影響については知られていますが、青色の可視光も害になるという話は初めて聞きました。

会議への参加者は多くが天文関係の人でしたが、多くの人が夜を暗いままにしておくことの重要性について言及していました。

私も、星空ガイドという立場で話をさせていただきました。空一面に広がる星を見ていると、テレビの科学番組などで聞く言葉が頭に浮かびます。「人間はどこからきたのか、生命ってなんだろう」といったことです。

私の星空ツアーに参加してくれる年配の方から、しみじみと、「こんなの見るの初めて」と言われると、きっとこの人は忙しい子育てなども終わって、今一人になって宇宙や地球の自然と向き合ってるんだな、なんて考えたりします。

満天の星を見て、自分の人生を振り返ったり、地球や子供たちの将来のことを考えたりする人もいます。星をみていると何か頭の中がすっきりしてきて、森林浴してる時のような良い気持ちになります。

世界には石油や金融、薬物の独占、などを使ってお金儲けだけを考えている人達もいるようですが、そんな人達にもこのテカポの夜空を見てもらいたいものです。人間の世界だけのことを考えないで、もっと大きな目を持って地球全体のことを考えませんか。綺麗な星空には、人間の考え方や生き方を見直させてくれる力があるように思います。

また、宇宙は危険だらけということもわかってきています。生命が存在できる状態にある時間は、地球の長い歴史の中では一瞬のことのようです。大きな隕石の衝突や、太陽から吹いてくる強力な太陽風、近隣の星の爆発など、地球から生命を根こそぎ剥いでしまうかもしれない事はいつ起こってもおかしくありません。

そんな中で、自分達だけが生き残る、なんてことはどんなことをしても不可能です。せめて、今ある奇跡の時間を大切にしませんか。自分達で地球を住めない星にしてしまうことだけは避けたいものです。

会議では違った話をさせてもらいましが、伝えたかった内容はこのようなものです。

テカポの村には大開発計画があります。せっかく、素晴らしい暗い環境が保たれてきたのに、夜空が明るくなって星が見えなくなってしまうかも知れません。綺麗な暗い夜空は、天文関係の研究者にとって大切なものですが、地球に暮らす全ての人々にとっても大切な「宇宙への窓」と思います。

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