124億年前の銀河から窒素を検出 初期宇宙の組成解明に一歩前進

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【2012年6月13日 京都大学

京都大学と英ケンブリッジ大学の研究チームがアルマ望遠鏡を用いて、124億光年かなたの銀河に含まれる窒素が発する電波を検出することに成功した。初期宇宙の銀河の元素組成が、激しい星生成活動によりすでに現在の宇宙のものと近くなっていたことがわかった。


銀河「LESS J0332」(画面中央)が放射する窒素の輝線

銀河「LESS J0332」(画面中央)が放射する窒素の輝線。クリックで拡大(提供:ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)、京都大学)

数千億もの星々からなる銀河が宇宙の歴史の中でたどってきた経過を調べる手段として、過去の銀河の成分調査がある。過去から届く光を見るということは、それだけ遠方の天体を観測することになり、また次々と星を生み出している銀河は大量の塵に覆われているため、塵を見通せる電波で、しかも高感度での観測が必要になる。

京都大学白眉センターの長尾准教授らは昨年、ヨーロッパ南天天文台(ESO)の電波望遠鏡APEX(Atacama Pathfinder EXperiment:アタカマパスファインダー実験機)を用いて、ろ座の方向124億光年かなたのサブミリ波銀河()「LESS J0332」から炭素の検出に成功したが、観測装置の感度が十分でなくそれ以外の元素は調べることができなかった。

だが、昨年初期観測が開始された南米チリのアルマ望遠鏡により、同じ銀河から窒素を検出することに成功した。さらに成分調査を行った結果、ビッグバン後わずか13億年後という初期宇宙に存在する銀河にもかかわらず、ビッグバン直後の宇宙の元素組成(ほぼ水素とヘリウムだけ)とは大きく異なり、むしろ現在の宇宙における太陽の元素組成(様々な元素が豊富に存在する状況)に近いことがわかった。

「サブミリ波銀河は比較的大質量の銀河が進化途上にある姿だと考えられています。LESS J0332が太陽に近い元素組成を既に持っているという今回の研究結果は、こうした大質量銀河の化学進化が初期宇宙において急速に進行したこと、つまり初期宇宙で短期間に活発な星形成が起こったことを示しています」(長尾准教授)。

今後の課題は、銀河からの光に含まれる炭素と窒素の痕跡に現れた食い違いの解明だ。研究チームでは1つの可能性として「銀河合体などの影響によりLESS J0332における元素組成が不均一になっているのではないか」ということを挙げている。

今回の観測データではわからないが、今後アンテナ数が増えてフル稼働を始めるアルマ望遠鏡での解明が期待される。「驚異的な感度と、素晴らしい空間分解能を組み合せて、今後のアルマ望遠鏡の観測でLESS J0332における元素組成の内部構造にまで迫りたい」と、長尾准教授は展望を語っている。

注:「サブミリ波銀河」 サブミリ波と呼ばれる波長の極めて短い電波を強く放射する銀河のことで、その激しい星生成活動により「モンスター銀河」などとも呼ばれる。