太陽光で小惑星が動く「ヤルコフスキー効果」を精密測定

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【2012年5月31日 NASA

NASAの探査ミッションに備えて行われた小惑星の軌道測定から、太陽の影響で天体の動きがわずかにずれる「ヤルコフスキー効果」を直接測ることに成功した。5月中旬に新潟市で開催された国際会議「小惑星・彗星・流星2012」で発表された。


小惑星「1999 RQ36」

1999年9月に撮影された小惑星「1999 RQ36」。NASAのゴールドストーン追跡局のレーダーがとらえた。クリックで拡大(提供:NASA/JPL-Caltech)

「ヤルコフスキー効果」とは19世紀のロシアの技術者イワン・ヤルコフスキーが提唱したもので、太陽光の吸収と熱放射のために発生するわずかな推進力で小天体が動くことをいう。

小惑星からのサンプルリターンを目指す探査機「オシリス・レックス」ミッションに備えて、NASAの研究チームは目標天体「1999 RQ36」の軌道を詳しく調べた。1999年と2005年、そして2011年に、米ゴールストーンとプエルト・リコのアレシボで「1999 RQ36」を電波観測したところ、12年の間に、重力計算で得られた軌道から160kmもずれていることがわかったのだ。このずれがヤルコフスキー効果によるものだ。

「ヤルコフスキー効果が最も大きくなる近日点においても、その力は地球の重力が10数gの物質に及ぼす程度のものです。そのわずかな力が約6800万tもの小惑星に及ぼす影響は、長期間にわたって非常に精密な測定を行わないと検出できません」(アレシボ電波天文台のMicheal Nolan氏)。

2011年の観測を行ったNolan氏は、地球から約3000万kmまで接近した小惑星までの距離を300mの誤差で測定した。これはニューヨークからロサンゼルスまでの距離を数cmの誤差で測定するようなもので、天体や観測所自体の大きさも計算に入れなければならないほどだという。

この新しい測定結果から、1654年から2135年の間に「1999 RQ36」が地球から750万km以内に接近する機会は11回あること、さらに天文衛星「スピッツァー」の赤外線データと合わせて、この小惑星がとても軽く、水とほぼ変わらない密度であることもわかった。岩石がゆるく集まってできた「ラブルパイル天体」(rubble pile:瓦礫の積み重なり)であることを示唆しており、表面物質の採取に適しているという。

「今回の研究成果は、地球近傍天体の軌道に影響を与えるヤルコフスキー効果を理解するうえで重要なステップです。質量や密度など天体についての情報も得ることで、ミッション計画に反映できます」(米アリゾナ大学のDante Lauretta氏)。

アメリカ版「はやぶさ」ともいえる「オシリス・レックス」は2016年に打ち上げられ、2019年に小惑星「1999 RQ36」に到着、サンプルを採取したあと2023年に地球に帰還する予定だ。