世界初、電子型ニュートリノの出現現象の兆候を捉えた!

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【2011年6月16日 高エネルギー加速器研究機構

T2K実験(東海―神岡間長基線ニュートリノ振動実験)で、世界で初めてミュー型ニュートリノが電子型ニュートリノへと変化する現象の兆候が捉えられた。このニュートリノが変化する現象が確認できれば、宇宙に反物質がほとんど残っていないという謎を解くための大きな手がかりとなる。


(今回発見されたニュートリノ振動の兆候を示す事象)

今回発見されたミュー型ニュートリノが電子型ニュートリノへと変化する兆候を示す事象候補の1つ。スーパーカミオカンデの中に入ってきた電子型ニュートリノが、中の水と相互作用したときに発生したチェレンコフ光という光が円状に広がっている様子が見えている。クリックで拡大(提供:高エネルギー加速器研究機構。以下同)

(J-PARCの全体図)

東海村にあるJ-PARCの全体図。リニアック(線形加速器)で陽子を加速し、3GeVシンクロトロンとメインリングを経てスーパーカミオカンデへニュートリノビームを射出している。

(スーパーカミオカンデの断面図)

スーパーカミオカンデの断面図。鉱山跡地に建設することで様々な「雑音」を遮断することができる。

ニュートリノは物質を構成する最小単位である素粒子の1つで、電子型、ミュー型、タウ型が存在していることが知られている。ニュートリノの質量は電子の100万分の1以下しかないが、3種類それぞれでわずかに質量が異なると、ニュートリノ振動と呼ばれる現象によって別のタイプのニュートリノへと変動することが理論的に予測されてきた。

これまで大気ニュートリノや太陽ニュートリノ、原子炉からのニュートリノを調べることで、ミュー型とタウ型、電子型からミュー型やタウ型へと変化するニュートリノ振動は確認されていたが、ミュー型から電子型へと変化するニュートリノ振動は発見されていなかった。

今回、ミュー型から電子型へのニュートリノ振動を確認したのはT2K実験と呼ばれるプロジェクトで、茨城県東海村にあるJ-PARCというニュートリノ発生装置から、岐阜県神岡鉱山跡にあるスーパーカミオカンデに向けてニュートリノを射出し、ニュートリノを直接検出することで振動の様子を確認しようというものである。

J-PARCにある加速器を用いて陽子を加速し、ターゲット物質にぶつけることでパイ中間子を生成、できたパイ中間子がミュー粒子とミュー型ニュートリノに崩壊するという過程を経て、ミュー型ニュートリノを生成している。

スーパーカミオカンデは5万トンもの超純水を入れたタンクに非常に高感度な光検出器を置くことで、ニュートリノが物質と相互作用をしたときに発生する非常に弱い光を検出する装置である。ここでは検出したニュートリノの中からJ-PARCの方角から来たものがどの程度あるか、その中に電子型ニュートリノがあるかかどうかを調べることで、ニュートリノ振動があったかどうかを確認している。特に電子型ニュートリノの場合は、物質と相互作用をした際に電子を生成するため、この電子を検出している。

その結果、全部で88個のニュートリノ事象を検出し、そのうち電子型ニュートリノらしき、電子の生成が起きた事象を6つ確認した。また電子型ニュートリノ以外に電子が生成される可能性を考慮した結果、99.3%の確率で電子型ニュートリノが発生したことがわかった。

ミュー型ニュートリノから電子型ニュートリノへの変化は物質と反物質の対称性の破れ()の解明に欠かせないものであり、今回の発見はこの宇宙になぜ反物質がほとんどなくなってしまったのかという謎を解明する上で大きな一歩であることを意味している。

T2K実験は先の震災前までに全体の計画の2%のデータを取得しており、現在は2011年内の実験再開を目指している。実験再開後は当初の計画通りのデータを取得し、今回捉えたニュートリノ振動の存在を確実なものとし、宇宙の物質の起源を目指すことを目標としている。

注:「対称性の破れ」 物質と反物質の入れ替えや空間を鏡のように反転させても全く同じように振舞うことをCP対称性と言うが、それが成り立っていないこと。今の宇宙には反物質はほとんど存在しないため、どこかでこの対象性が破れているのではないかといわれている。