ブラックホール同士の衝突が宇宙のものさしに?

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【2011年4月13日 CfA Press Release

銀河の中心にある大質量のブラックホール同士が接近すると、周囲の星が引き裂かれて飲み込まれ、明るく輝く。重力波の検出とあわせると、距離の測定や宇宙膨張の検証に使えるかもしれない。


(2つのブラックホールのイメージ図)

接近する2つのブラックホールのイメージ。クリックで拡大(提供:David A. Aguilar (CfA))

銀河の中心部分には太陽質量の100万倍を超えるような非常に重いブラックホールが存在していると言われている。銀河同士が衝突、合体すると(注1)、それぞれのブラックホールも衝突することになる。

衝突の前には2つのブラックホールは互いの周りを回りながら重力波を出しているが、ブラックホールが衝突、合体すると重力波がある一方向に偏り、その反動でブラックホールが反対方向に移動する。すると、それまではブラックホールの影響を受けず安全な場所にあった周囲の星々にブラックホールが近づき、強い重力によって星をばらばらに引き裂いてしまうのだ。ばらばらになった星のガスがブラックホールに円盤を作りながら落ち込んでいくと、その過程で高温になり紫外線やX線で明るく輝き出し(注2)、超新星爆発に匹敵するほどの明るさになる。

銀河の中心でどっしりと落ち着いている通常のブラックホールでは、星を破壊するようなことは10万年に1度程度しか起こらない。しかし合体して動きまわっているブラックホールの場合は星々の中へ突っ込んでいくので、最大で10年に1回という高頻度で星を破壊する。しっかり観測していればとらえられる可能性はじゅうぶんにあるのだ。

また、ブラックホールの連星(ペアになったブラックホール)から届く重力波の検出も期待される。重力波を測定すると、誤差1%未満という高精度でブラックホールまで、つまり銀河までの距離がわかる。重力波の検出だけでは位置を特定できないが、破壊された星が明るく輝いているのを観測すればその天体がどこにあるのかもわかり、後退速度を測ることで宇宙膨張の様子が調べられる。ブラックホールの合体が起こり重力波の検出が実現すれば、宇宙の加速膨張に関わっている暗黒エネルギー(注3)についての理解も進みそうだ。

研究論文の著者の一人Avi Loeb博士は次のように語っている。「超新星のような『標準光源』の代わりとして、ブラックホールの連星は『標準サイレン』になるかもしれません。宇宙で一番正確な『ものさし』が作れる可能性もあります」

注1:「銀河の衝突」 銀河は宇宙空間で静止しているわけではなく、互いの重力に引かれて衝突することがある。このような銀河を衝突銀河という。

注2:「ブラックホールとX線」 ブラックホールは直接観測することができないが、周囲のガスがブラックホールに落ち込むときに高温になり強いX線を放射するので、そのような天体から間接的にブラックホールを探すことも多い。

注3:「暗黒エネルギー」 宇宙の加速膨張に関係していると考えられているエネルギーのこと。正体はわかっていない。