土星の衛星プロメテウス、F環に巨大な雪玉を形成

【2010年7月28日 JPL

NASAの土星探査機カッシーニによる観測で、土星のF環の衛星プロメテウスによって周囲の氷の粒子が集まり、直径約20kmの巨大な塊が形成されていることを示す画像がとらえられた。


(土星のF環にとらえられた3つの扇状の構造の画像)

F環に存在する物質の塊(または衛星)の摂動により形成された、3つの扇状の構造(アルファベットの「F」で示された箇所)。クリックで拡大(提供: NASA/JPL/SSI )

土星探査機カッシーニは過去6年間の探査において、衛星によって環で起きる現象や変化などを追い続けてきた。土星の環は現在の太陽系では唯一、太陽系の形成初期に起きていたと思われる、惑星のまわりを回る衛星や粒子と破片との間で引き起こされる現象を見せてくれる、いわば自然の実験室と言える。環は多重構造になっていて、内側から順番にD、C、B、A、F、G、Eと呼ばれている。

その実験室で興味深い現象が見られた。カッシーニがとらえたF環の画像から、衛星プロメテウスの重力に引き寄せられて、周囲に存在する氷の粒子が集まって巨大な雪玉へ成長していることが示されたのである。

カッシーニの画像チームの一員で、英・ロンドン大学のCarl Murray氏は「このような形成過程をこれまでに直接見た者はいません。わたしたちは、衛星と環に存在する粒子との間で起きた現象について、直接的な証拠を得たことになります」と話している。

細くねじれのあるF環は、1979年にNASAの惑星探査機パイオニア11号によって発見された。翌年、惑星探査機ボイジャー1号によって、環の内側と外側に小さな衛星プロメテウスとパンドラが発見された。以来、F環が同じ姿を見せることはめったになく、研究者はその変化の要因を2つの羊飼い衛星のふるまいから探ろうとしてきた。羊飼い衛星という呼び名は、F環が拡散しないように影響を与えていることに由来する。

2つの衛星のうち、より土星に近く、大きいのはプロメテウスだ。もちろん、環に及ぼす影響も大きいと考えられている。じゃがいものような形をした衛星の大きさは差し渡し約148kmで、F環に存在する小さな粒子に比べて、やや早いくらいの速度で土星のまわりを回っている。

プロメテウスによる影響で作られた雪玉が生き残れている要因は、F環が、雪玉を破壊しようとする土星の潮汐力と、雪玉の自己重力とがつりあうような場所にあるためだ。ただし、プロメテウスの軌道はF環に対して傾いていて、68日の周期でF環の同じ箇所に接近・通過し、環の粒子はその度にかき乱される。Murry氏は「今後、いくつかの塊は、プロメテウスによってばらばらにされてしまうでしょう。プロメテウスとの毎回の接近で生き残れば、成長しもっと安定した天体に進化することができます」と話している。

新しくF環に発見された塊はすでに自己重力が働くほどの密度になっているとみられ、「このことは、プロメテウスの周囲で動き回っている粒子が引き付けられて、塊が雪だるま式に大きくなれることを意味しています。プロメテウスと同じくらいの密度(地球の14分の1程度)となる可能性もあります」(同氏)ということだ。また、以前、カッシーニに搭載されている紫外線分光撮像器によってF環に複数の濃い斑点が検出されている。この斑点は、Murray氏らの研究チームが発見した雪玉と関係があるのかもしれない。

なお、2004年にカッシーニは直径5〜10kmというなぞの天体「S/2004 S 6」を発見している。同天体は、F環に時折衝突しては残骸の一部をジェットとして放出している。今回の観測・研究成果から、その起源に迫ることができるかもしれないという期待も持たれている。