太陽系でもっとも希少な同位体の起源が明らかに

【2010年5月14日 日本原子力研究開発機構/国立天文台】

日本原子力研究開発機構や国立天文台などの共同研究チームが、太陽系内でもっとも希少な同位体「Ta-180(タンタル180)」が超新星爆発で発生するニュートリノによって生成されたことを理論的に証明した。


(タンタル180の生成概念図)

超新星爆発時に、その恒星の内部で発生したニュートリノが外層で既存の同位体と反応してタンタル180を生成する概念図。クリックで拡大(提供:日本原子力研究開発機構、以下同じ)

(ニュートリノと原子核との相互作用による新しい同位体の生成模式図)

ニュートリノと原子核との相互作用による新しい同位体の生成模式図。クリックで拡大

(核異性体の割合と超新星爆発時の外層の温度を示した図)

核異性体の割合と超新星爆発時の外層の温度を示した図。クリックで拡大

太陽系には約290種類の同位体が存在している。そのほとんどは、どのような核反応や環境で生成されたのかがわかっている。しかし、そのうちのもっとも希少なタンタル180の生成起源は、長年不明であった。過去30年間にわたり、生成起源に関する仮説がいくつか提唱されていたのだが、いずれの仮説に基づく計算でも、推定される量が実在量より少ないという結果となっていた。

その後、超新星爆発で発生するニュートリノによる生成が提唱された。太陽の8倍以上重い恒星は、寿命の最期に超新星爆発を起こす。この説は、超新星爆発では中心部に生成された原始中性子星から膨大な量のニュートリノが放出され、そのニュートリノが超新星の外層に存在するタンタル181やハフニウム180と作用して、タンタル180を生成するというものである。しかし、この理論を提案した米国の研究グループによる計算では、タンタル180の量が実在量より多すぎるという問題が見つかっていた。

超新星爆発では、タンタル180の核異性体と基底状態の両方が生成される。基底状態とは、原子がエネルギー的にもっとも安定な状態、核異性体とは、基底状態以外の準安定的な状態である。超新星爆発の高温の環境では、高エネルギーの光の吸収と放出によって核異性体と基底状態が相互に変換されるのだが、前述の研究グループによる計算結果は、核異性体と基底状態の合計量だった。一方、現在太陽系に存在するタンタル180はすべて核異性体である。

そこで、日本原子力研究開発機構 量子ビーム応用研究部門の研究主幹 早川岳人氏、先端基礎研究センターの研究主幹 千葉敏氏、国立天文台 理論研究部の梶野敏貴准教授らの共同研究グループは、超新星爆発における核異性体の生成割合を計算する新しいモデルを構築した。

研究グループによる計算の結果、全体を1とすると核異性体が0.39存在することがわかった。この割合に基づいて既存の理論から計算されたタンタル180の推定量から核異性体のみの量を求めた結果、太陽系における推定量と実在量がほぼ一致したのである。

さらに研究チームは、この値が超新星爆発のエネルギーや最高温度、爆発後の温度の急激な低下までの平均的な時間など、物理的な条件には依存しないことなども明らかにした。

今回の研究は、岐阜県に設置されている世界最大のニュートリノ検出装置「スーパーカミオカンデ」における超新星ニュートリノの観測予想や、ニュートリノ振動(6種類のニュートリノが飛翔中に、互いに他のニュートリノに変化する現象)の理解にも貢献する成果となった。

※アストロアーツ注:ニュートリノは、電子ニュートリノ・ミューニュートリノ・タウニュートリノの3種類とそれぞれの反粒子をあわせた6種類あると考えられている。