すばる望遠鏡、銀河風の輝きを明らかに

【2009年11月9日 すばる望遠鏡

銀河からの大規模なガス放出現象である銀河風のメカニズムを解明するため、すばる望遠鏡が渦巻銀河NGC 253を観測した。銀河の成長にも大きな影響を与える銀河風だが、その原因は中心付近で起こるたくさんの超新星爆発かもしれない。


(左が赤外線で見たNGC253の広域図(a)、右がNGC253中心領域の水素の輝線マップ(b))

(左:a)赤外線で見たNGC253の広域図、(右:b)NGC 253中心領域の水素の輝線マップ。クリックで拡大(提供:国立天文台)

(左が窒素/水素の輝線比マップ(c)、右が硫黄/水素の輝線比マップ(d))

(左:c)窒素/水素の輝線比マップ、(右:d)硫黄/水素の輝線比マップ。クリックで拡大(提供:国立天文台)

銀河風とは銀河中心から銀河外部へ向けて大規模にガスが放出される現象だ。銀河風は、銀河の星形成活動を止めてしまうなど、銀河の成長に大きな影響を与えると考えられている。

しかし、銀河風は淡く広がった現象で観測が難しいため、地球から比較的近くて観測しやすい銀河ですら、今まであまり詳しく調べられていない。さらに、銀河風がどのようにして光っているのかもよくわかっていない。

京都大学の研究グループは、自ら開発した3次元分光器(Kyoto3DII)をすばる望遠鏡に取り付けて、地球から約1100万光年離れたちょうこくしつ座の渦巻銀河NGC 253の観測を行った。NGC 253の中心では激しい星形成が進んでおり、銀河の中心付近に銀河風があることがわかっている。

観測から銀河風全体を含むNGC 253のスペクトルが得られ、それぞれの場所で輝いている元素の割合を示す輝線比マップが作成された。その結果、銀河領域は窒素からの輝線が多く、水素の輝線はあまり出ていないことが明らかとなり、銀河風は星からの光ではなく衝撃波によっておもに光っていることが初めて明らかとなった。

1枚目右側の画像は、水素の輝線で見たNGC 253の中心部だ。緑色の線が銀河風の領域を示しており、銀河の中心から画像左下方向へ銀河風が伸びている。一方、2枚目左側は同じ領域における窒素と水素の輝線比を、右側は硫黄と水素の輝線比を示した画像で、同じような傾向が見られることがわかる。

衝撃波によってできる光では、(恒星からの放射よりも大きなエネルギーが含まれているために)水素などが少しだけ電離する部分電離領域が形成される。この領域では窒素や硫黄などからの輝線が多く、水素からの輝線はあまり出ない。一方、恒星から放射される紫外線では、水素が完全に電離する領域が形成されて、水素の輝線が多く出る。このことから、窒素と水素の輝線比が大きい領域はおもに衝撃波で、小さい領域は紫外線で、それぞれ光っていると区別することができる。

また、NGC 253の銀河中心付近における星形成の激しさから超新星爆発のエネルギーを見積もると、銀河風の運動エネルギーより大きいことがわかった。つまり、NGC 253の銀河風は、銀河中心付近で激しい星形成活動に伴うたくさんの超新星爆発によって起こり、その衝撃波によって銀河風領域が輝いていることが初めて明らかとなった。