ヨーロッパの2機の天文衛星、宇宙へ

【2009年5月15日 ESA

ESA(ヨーロッパ宇宙機関)は5月14日に、赤外線天文衛星「ハーシェル」と宇宙背景放射観測衛星「プランク」を搭載したアリアン5ECAロケットの打ち上げに成功した。


(アリアン5ECAロケットの打ち上げ)

ハーシェルとプランクを搭載したアリアン5ECAロケットの打ち上げのようす。クリックで拡大(提供:ESA/CNES/ARIANESPACE - Photo Optique Video CSG, P. Baudon, 2009)

(赤外線天文衛星ハーシェルの想像図)

赤外線天文衛星ハーシェルの想像図。クリックで拡大(提供:ESA / AOES Medialab)

(宇宙背景放射観測衛星プランクの想像図)

宇宙背景放射観測衛星プランクの想像図。クリックで拡大(提供:ESA / AOES Medialab)

中央ヨーロッパ時間5月14日15時12分(日本時間同日22時12分)に、ESAの赤外線天文衛星「ハーシェル(Herschel)」と宇宙背景放射観測衛星「プランク(Planck)」を載せたアリアン5ECAロケットが、南米フランス領ギアナのクールー宇宙センターから打ち上げられた。

打ち上げから26分後に高度約1150kmでハーシェルが、その2分後に約1700kmでプランクがロケットから分離された。最終的に両衛星は、地球から約150万km離れたラグランジュ点(L2)に向かう。ハーシェルの観測は約4か月後にはじまり、3年半続く予定。プランクは約1か月後から15か月間の予定。どちらも液体ヘリウムで主な観測装置を冷却するため、運用期間に限りがある。

両衛星に共通するのは、赤外線と電波の間にあたる波長の電磁波を観測することだ。宇宙で観測する理由は、地球の大気が宇宙からの電磁波を吸収するうえに、大気自体が赤外線を放射しているからである。観測装置自体が熱を帯びていると、それだけで赤外線や電波の放射が生じるので、液体ヘリウムによって極限まで冷やされる。

「ハーシェル」は、ドイツ出身でイギリスで活躍した天文学者ウィリアム・ハーシェルにちなんで名付けられた。彼は天王星の発見者として有名だが、1800年に赤外線を発見したことでも知られている。

口径3.5mを誇る衛星ハーシェルの主鏡は、宇宙に打ち上げられた望遠鏡としてはこれまでで最大。遠赤外線とサブミリ波を観測する。観測対象は、星形成領域や銀河の中心、惑星系、そのほか、質量の小さな星や分子雲、ちりに覆われた銀河など、低温の天体である。

一方「プランク」の名前は、ドイツの物理学者マックス・プランクに由来する。物体の温度と放射される電磁波の関係を解き明かした人物こそがプランクで、この業績で1918年にノーベル物理学賞を受賞している。

衛星プランクは、宇宙マイクロ背景放射(CMB)を従来よりはるかに高い感度と角分解能、広い波長域で観測する。CMBは、ビッグバンの約38万年後に(宇宙がある程度冷えて)光が初めて直進できるようになったときの放射で、全天でほぼ均一。そのわずかなゆらぎを調べることで、ビッグバン理論を検証したり、ダークマターやダークエネルギーの量や性質を探ったりすることができる。